火と銀に宿る化物


「……普通に飯も食えるんだな」

『まぁ必要無いがな』




どうやら今は6月らしい。現代の暦はよく分からないが。禪院の小童と現代の朝餉を口にする。味が濃すぎるが悪くない。




『血は毎日でもいいのか?』

「毎日…?」

『……オマエの様な細さではすぐに死んでしまうか。週に一度といったところか…。少ないな…。もっと鍛えろ』

「…………鍛えてる」

『何なら私が稽古をつけてやろうか。五条の小僧は働けと五月蝿い』

「………近接戦得意なのか」

『私に得意じゃないものなど無い』





答えると禪院の小童は不本意そうに小さく頷いた。私も体が訛っているからな。少しは動かんといけないな。





「というわけで、特級呪霊の名前ちゃんでーす!はい!拍手ー!」

「呪霊に拍手もクソもないだろ」

「しゃけ」




五条の小僧に連れられて外に出てみると見た事の無い女と男、そして意味のわからない生き物がいた。




『禪院の小童、あれは何だ』

「伏黒だっつってんでしょ。パンダですよ」

『……ぱんだ?』




隣に居た小童の服を掴み問うても意味の分からない答えが返ってきた。本当に使えんな。





『……お、あれは禪院の女だったか。オマエの血筋か』

「俺より歳上だし、真希さんは俺とは違って正式な禪院の家系ですよ」

『ほう…。…狗巻の餓鬼も居るな…』




無意識に唇を舐めると側頭部が小突かれた。顔を向けると禪院の小童が私を睨んでいた。




「約束守れよ」

『…分かっているさ』




信用していないのか目を細めて私を見る小童に溜息を吐き出す。まぁ呪霊の言う事を信じる方が頭が可笑しいという話だ。





「名前つったか?」

『呼び方は何でもいい。その名も数百年前に付けられた名だ。好きに呼べ』






禪院の女の問に答える。いい時代になったな。呪術師の実りがいい。特にこの女は美味そうだ。




「ヨダレ」

『………』





いつの間にか流れていた涎を拭き取る。禪院の小童は責める様に私を見た。分かっている分かっている。食べないさ。…オマエの近くではな。





『とりあえずなんだったか?稽古だったか?』

「真希やってみな。名前と組手」





禪院の女が私の前に立って呪具を構える。呪力が無いのだろう。きっと禪院甚爾と同じ天与呪縛だろうな。




『いつでもいいぞ』

「余裕ぶっこいてると痛い目見るぞ」

『それは楽しみだ』





走って振るわれる呪具を軽く避ける。拙いな。欠伸が出そうだ。




『くぁあぁ…』

「クッソ…!」




首元目指して突き付けられる呪具を掴みそのまま地面に叩きつける。背中を打った女は悔しそうに私を見上げていた。





『………刃物は久しぶりに触れたな』




呪具の先についている呪いの込められた刀に目を細める。こいつで痛め付けられたのは私がまだ人だった頃の話だ。





『………呪具を使うのは良いが、この鈍らでは精々二級がいい所だな』





刀の部分に触れて塵にする。この輝きはどうも好きになれない。





『次は誰だ?』

「次はパンダ!行ってみよう!」

『ぱんだ…』





白黒の熊が私に向かってくるから腹に呪力を込めて手のひらを当てる。




『ッ…!』





目を見開いて距離を取り手のひらを見つめる。拳を握っては開いてを繰り返していると五条の小僧に声がかけられた。




「名前〜?大丈夫?」

『………ぱんだ!』




一瞬で距離を詰めてぱんだの腹に顔を埋める。初めての感触に目を見開く。





『ぱんだ!いいなオマエ!』

「おい。パンダの野郎、特級呪霊に気に入られてるぞ」

「高菜」

「……………」





ぱんだの腹に頬擦りをして瞼を閉じる。すると首根っこが掴まれて距離が離される。




『……何だ。禪院の小童』

「組手するんだろ」

『………もう飽きた。私はぱんだと遊ぶ』

「ふざけんな。稽古つけるって話だっただろ」

『……五条の小僧にでも相手してもらえ。私は忙しい』





ぱんだの腹に背を預けて瞼を閉じると頬が抓られて片目を開くと禪院の小童が眉を寄せていた。





『今なら眠れる気がする』

「呪霊は寝ないんだろ」





言葉を無視して瞼を閉じると大昔に感じた鉄の鈍い光を思い出して何故か無いはずの腕の傷が痛んだ気がした。



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