この後の季節のことはしらない(完)


「はいできた」

『おぉ!器用だな!野薔薇!』

「まぁね」





野薔薇のおかげで彩られたつま先を天井に掲げる。すると気分が良くなり椅子から立ち上がって窓枠を跨いで宿儺の器の少年と組手をしている元へ走り出す。





『恵ー!見てくれ!』

「なんだよ」

『野薔薇が“ねいる”というものをしてくれた!見ろ!』

「あー、可愛い可愛い」

『ちゃんと見ろ!』

「見てる見てる」

「何?名前さんネイルしたの?」






私に手を伸ばす少年の手のひらを叩き落とし恵の背中に隠れ抱きつく。





『触るな。痴れ者が』

「えぇ…!?」

「おい虎杖は虎杖だろ。コイツに当たるなよ」

『少年からは宿儺の匂いがするのだ。臭い。寄るな。恵に触れるなよ』

「酷くね!?宿儺が悪いのに!」

「酷い事言うな」

『痛っ』





旋毛を小突かれて両手で抑える。腰を折って私の前に顔を寄せる恵から視線を逸らす。視線と言っても私の顔には布作面が付けられている。五条の小僧に渡された。何でも呪力を抑え込む呪いが籠っているらしい。まぁ私程の力があればこんな布切れがあっても一級くらい難無く消せるがな。






『……宿儺は嫌いだ』

「俺も別に好きではねぇけど。虎杖は虎杖だ。あんまり意地悪するな」

『…………』

「返事」

『…………分かった』

「ん。その色似合ってる」




私の髪を撫でそう言った恵に両腕を広げると背中に腕が回されて抱きしめられた。先程まで動いていたせいか、暖かい。





「また人間なんぞに現を抜かしておるのか。実に滑稽だ」

『五月蝿い。蠅の分際で喋るな』

「どうやらオマエは弱い者が好みの様だ。呪霊が聞いて呆れる」

『黙れ。私が誰を恋い慕おうと貴様には関係の無い事だ』






少年の頬に唇が現れブンブンと蠅のように不快な音を奏でた。




『蠅の様に潰してしまおうか』

「待って!?俺も死んじゃう!」

「名前」





恵に名を呼ばれて顔を上げると布作面を軽く持ち上げ唇が重ねられた。驚いて目を見開くと恵の硝子玉の様な瞳と視線が交わった。






「宿儺の事は放っておけ。俺が居るだろ」

『……………愛いなぁ…!』






恵の頭を抱き寄せて撫でるとされるがままにしていた。すると宿儺がまた意味の分からん言葉を吐いていたが、私は恵を愛でるので忙しいのだ。





「で?これはどういう状況?」

「あ、五条先生!」

「恵と宿儺の三角関係?なにそれ面白いんだけど」

『邪魔をするな。五条の小僧』

「してないよ?僕何もしてなかったよね?」

『私は恵との時間を大切にしたいのだ。分かったら消えろ』

「随分とキャラチェンジしたもんだねぇ」

『貴様には言われたくないわ』





恵の頬に頬擦りをして目を細める。ゆで卵のような肌触りだ。





『愛いなぁ…』

「あれだね。孫とお婆ちゃん」

「確かに。伏黒も流すの慣れてるしな」

『何を言うか!私達は毎晩の様に逢瀬を重ねているのだ!昨日だって私と恵は熱い夜を過ごした!』

「ゲーム大会の事を変な風に言うな」

『昨日なんて…、恵が焦らすから私の方も我慢出来なくなり…、』

「七並べで止めてた俺に名前がキレてトランプ灰にしただけだろ」

「仲良いねぇ。君たち」





否定とも取れる恵の言葉にムッとし、じゃーじとやらの首元を緩めて五条の小僧と少年に見せる。





『愛咬の跡だってあるだろう!』

「やめろ馬鹿」

『痛っ…!』






頭に手刀が落とされて、恵は服装を正す。





「血を吸っただけで、オマエが反転術式かけなかったから跡が残ってるだけだ」

『吸われて気持ち良さそうな声を出していただろう!』

「出してねぇ」






呪具を構える恵は私を差し置いて宿儺の器に声をかけていた。それが腹立たしくなり舌打ちを漏らし、噛み付いてやろうとすると額が指で弾かれ、その手が私の頭に移動しポンポンと何度か優しく弾ませた。





「また夜な」

『……意識がトぶまで吸ってやるからな』

「それはやめろ」

『按ずるな。快楽でトぶだけだ』

「誰もその心配なんてしてねぇし、やめろ」





仕方なしに恵から離れると隣に五条の小僧が立っていた。





「呪霊と人間の恋愛なんて成立すると思ってるの?」

『しないだろうな』

「恵呪霊にでもするつもり?」

『しないさ。私を何だと思っている』





宿儺の器と組手を始める恵を見ながらフッと表情を和らげて思ったままに口を開く。




『いいんだ。たった一瞬でも。一緒に居られるのなら』





瞬きの合間に死んでしまうのなら、その短すぎる一瞬を大切にしよう。




『……一瞬の幸せを、』





見届けてやるさ。恵と死に別れるその日まで。私はオマエの隣で光の様に過ぎ去る愛おしい日々を、大切に。いつか訪れる地獄すら愛でよう。そして逝ってしまったオマエを思って流れた涙を花束にして贈ろうではないか。





ここは奈落の花溜り 完結



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