薄明かりに春のにおいを連れて
『これは…あのお婆さんを先に片付けるべきだ』
そう完結させて深く息を吐き出す。背後からズズズと音がしてさとるくんの手が現れる。
「婆ちゃん今の…」
「あぁ、奇遇よの」
『奇遇…?』
ふたりの言葉に眉を寄せながら心を読んで猪野さんに伝える。
『猪野さん!右ストレート!その後左ガラ空きです!相手が体勢を崩したら後ろのお婆さんを叩いてください!』
「おう!」
それでも体勢を立て直してお婆さんを守る男の人に、やっぱりと小さく頷く。男の人よりもお婆さんを祓うのが正しかった。
「…!」
『…さとるくん!』
「もうええぞ」
「分かってるよ、婆ちゃん」
雰囲気がガラリと変わった2人に慌ててさとるくんを向かわせるけど、カプセルのような物を飲み込んだ男の人の姿、そしてお婆さんが放った言葉に頭が真っ白になった。
「禪院甚爾」
『………………は?』
「…!」
「どうじゃ?孫」
「うんいいよ。婆ちゃん。今までにない」
その瞬間、私の頭に流れた存在した青い春の記憶
お前、なんでそんなにヘラヘラしてんだ?
お前気持ち悪ぃな
お前呪術師に向いてるぜ
お前が強くなったら俺が殺しに行ってやるよ
『…………甚爾、さん、』
「四番 竜ーー」
猪野さんが殴られてるのに体が動かない。言うことを聞かない。息だけが荒くなる。どうして。なんで。仲間がやられてる。傷つけられてる。動け。動けよ。
「帳¥繧ェっちゃったね。どうする婆ちゃん?…どっどっどどどどどどうする?」
「五条悟はおらんに越したことはない。オマエはそこのガキを殺した後、下に降りて術師を殺せ」
「…………」
分かる。その人はあのお婆さんの孫じゃない。あのお婆さんの術式が何かは分かってない。でも予想なら出来てる。きっと死者を孫の体に下ろせるんだ。でも、違う。あれは、
ーー伏黒甚爾だ
「……孫?」
「ババァ、誰に命令してんだよ」
『…!』
その瞬間着地なんて忘れてビルから飛び降りた。ただとにかく逃げろと本能が告げていた。あそこにいたら死ぬと。
「……苗字!?」
下にいた伏黒くんが鵺を出して私の体を支えるとゆっくりと地面に降ろされる。それでも足の震えが止まらず地面にヘタリと座り込む。
「猪野さんは!?」
「大丈夫……、じゃねぇけど死んじゃいない」
「ちょっと殴ってくる」
「虎杖!気持ちは分かるがおさえろ!俺達の最優先事項は!?」
「………五条先生」
「帳≠ヘ上がった。上の連中はもう逃げた後かもしれねぇだろ。猪野さんを連れて一度外にでるぞ」
バクバクと心臓がうるさい。息も整わない。冷や汗が流れ落ちる。グッと胸元の制服を掴んで息を吸い込む。
「猪野さんを頼む。俺は先に駅に向かう」
「…分かった。でも」
「死んだら殺す≠セろ?心配すんなって!メカ丸もついてるし!」
「分かってるならいい。後でな」
「応!」
大丈夫。落ち着け。生きてる。息もしてる。体だってちゃんとある。大丈夫。大丈夫だ。
「苗字、ひとまず猪野さんを家入さんのところに連れて行く」
『……わかった』
大丈夫だ。だって私の伏黒恵はここにいる。私の神様は甚爾さんじゃない。だって、…だって、……あれ?
かみさまって、なんだっけ、