月をなでるような眦




「意外だったよ」

『何がですか?』

「君はもっと躊躇うと思っていたんだがな」





改造人間の首を呪力を放って切り刻み、冥さんに向き合える。すると彼女は少しだけ肩を竦めていた。





「改造人間を殺すことをだよ」

『躊躇う…?どうしてですか?』

「私は勝手に君を善人だと思っていたからね」

『善人…?私が?』

「だが違ったようで何よりだ」





首を傾げると冥さんは楽しそうに口角を上げて改造人間の首を刎ねた。十分この人もイカれてる。





「姉様」

「あぁ」

『帳≠ェ上がりましたね』

「虎杖君を待って地下5階に向かおう」

『はい!』




その後嫌だけど走って虎杖くんと合流し駅改札を飛び跨ぐ。みんな易々とやってるけど凄すぎる。私は半分転びながら改札を抜けたというのに。





「凄いね虎杖君」

「?何が?」

「正直な話、もう少し手こずると思っていたよ。君、もう充分1級レベルだよ。術式なしでここまでやれるのは日下部以来じゃないかな」

「ツギハギじゃなかった。もしアイツが相手ならこうはいかなかったよ」

「姉様からの褒誉です。素直に受け取りなさい」

「アザッス!光栄です!」





私は冥さんに逆らってはいけないと再確認した。憂くん怖い。そしてみんなはエスカレーターを飛び降りるけど私は怖いからちゃんと駆け下りた。




「…!!」

「………遅かったかな」

「おい、そこの人!大丈夫か?他の人たちはどうした?」

「みんな…化け物に…、電車…に、乗って…、…私は」




ホームに膝を抱えてしゃかみこんでいる一般人に虎杖くんは駆け寄ったけど、本能が告げていた。
あの人はもう、人ではないと。






「満員だッカラ゛!いらない゛って!」

「アイツがいたんだ!…クソッ!」

『…みんな、…電車に?』




その言葉に五条先生が思い浮かんだ。まずい。大量の改造人間が五条先生のいる場所に送り込まれた。




「聞こえるカ?虎杖悠仁」

『え!誰!?』

「よく聞ッ、待て待て待テ!味方だバカ!」

『バカ…』




この機械はとんでもなく口が悪い様だ。というかそれは一体どこから入手したのだろうか。私は貰ってないんだけど…。





「京都校のメカ丸ダ!時間がなイ。一度で聞き分けロ」





メカ丸と名乗ったその機械は次の瞬間、信じられない言葉を口にした。その言葉は文字通り絶望とも取れる言葉だった。





「五条悟が封印されタ」

『……封印?』

「あの五条悟だよ?何を根拠にそれを信じればいい?」

「悪いが何もない。あえて言わせてもらえバ、俺がココにいることダ」





メカ丸は自分は10月19日に真人という特級呪霊に殺されたこと。この小さな機械はその時に残した保険だということ。私と冥さん虎杖くんが内通者の可用性は低いこと。そして私達を始末しようとしている呪詛師がここに向かっている事を伝えた。




「…!」

『………2人、ですかね』

「虎杖君、コイツらと君がさっき戦った呪霊、どちらが強い?」

「……多分さっきのバッタより強い」

「まずは五条悟の安否確認だ」

「駄目ダ!」




メカ丸は否定すると今渋谷には4枚の帳≠ェ降りていることや帳♀Oにいるはずの補助監督とも連絡がつかないこと。これらの事から私達に指示を出した。





「虎杖と苗字は明治神宮前に戻り地上から渋谷に向かってくレ。五条封印を術師全体に伝達。五条奪還をコチラの共通目的へ据えロ」

「応!」

『了解!』





虎杖くんにつられて大きな声で返事をすると、メカ丸は冥さんにも指示を出したようだった。…冥さんの方が先輩だというのに凄い度胸だ。




「五条悟が消えれば呪術界も人間社会もひっくり返る。済まないが命懸けで頼ム」

「皆、来たよ」

「冥冥だな?」

「虎杖君も苗字さんも好きに動いていいよ。合わせるから」

「押忍!」

『はい!』







2体は冥さんのほぼ任せて私と虎杖くんは呪霊の脇を抜けて明治神宮前を目指して走った。





「虎杖!いいニュースダ!奴ら封印した五条ヲ地下5階から動かせない!」

『え!?なんで!?』

「五条悟だからダ!」

「ハハッ!納得!」

『できちゃうのが凄いよね!』

「包囲網を作るゾ!」





メカ丸の長い説明に虎杖くんは伊地知さんに連絡がつかない事を伝えて、何かを思い出したように大きく声を上げた。





「あ!」

「何ダ!」

『なに!?どうしたの!?足つったとかやめてね!?私自分で走るの精一杯だから!』

「違うってここにはナナミンがいる!」

『へ!?七海さん!?』





帳に入って息を止めて集中し、虎杖くんの動きに合わせて改造人間を殺す。息を止めて集中しないと追いつけない。私の心中を知らない虎杖くんは私の体を抱き上げると壁を登った。本当に人間なのかなこの子…。





「……………ナ ナ ミーーーーーーーン!」

『耳痛いっ!』

「ナナミンいるーーーー!?五条先生があっ!!封印されたんだけどーーーー!!!」

『もっ、もう聞こえたんじゃない…!?』

「ナナミーーーーン!!」

『あの、虎杖くん!?』

「苗字」

『あ、伏黒くん』

「ナ・ナ・ミン!ナ・ナ・ミン!」

「おい、……おいって」

「ナナナナナナミン!」





伏黒くんと七海さん、そして見た事ない真っ黒な服装の男の人達の登場に安堵の息を吐くと、3人に気づいていない虎杖くんの頭を伏黒くんが叩いていた。





「伏黒!ナナミン!誰!?」

「………」

「ナナミンってマジで七海サンのことだったんだな」





伏黒くんは私を見ると小さく「無事で良かった」と言って頭を撫でてくれた。まだ任務が始まってそんなに経ってないのに懐かしい温もりに安心して小さく笑ってしまった。




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