淋しさは眠たげにまばたく(完)
「悠仁ケガの具合はどうだ」
『いや誰』
「オマエこそ誰だ。悠仁に何の用だ」
虎杖くんとこれからの行動を具体的に決める為にとりあえず廃墟へと移動して話をしていると知らない人が現れた。鼻にテープか何かを貼ってる。…あれか?不良が絆創膏を貼るようなやつ?
『…虎杖くんの知り合い?』
「あー、うん。まぁ…。あと怪我は黒閃受けたとこ以外は平気。だから苗字の事睨むの止めろよ」
「ソイツが俺を睨むからだ」
『この人、呪霊?人間?』
「ハーフっつーやつ?」
『……ハーフ?』
眉を寄せて睨むと睨み返された。流石の私も優しくする人を選びますよ。
「悠仁、俺に気を遣うな。高専に戻っていいんだぞ」
『…何で妙にお兄ちゃん面してるの?』
「黙れ。醜女」
『………………』
確かに私は可愛くないし美人でもない。でも普通、初対面で言う?酷すぎない?
「おい苗字に酷いこと言うなよ」
「本当の事だ」
「苗字は俺の仲間だぞ」
「………仲間?」
「俺の恩人みたいなもの」
「…………悠仁の、恩人?」
鼻テープさんは私をジッと見てきたから睨み返す。すると何故か目を見開いて柔らかく目を細めた。
「悠仁の家族は俺の家族でもある」
『はい?』
「今日から俺達は兄妹だ」
『どうした?さっきまで私の事嫌ってましたよね?』
「脹相お兄ちゃんと呼んでくれ」
『呼びませんけど』
突然何があったのか分からないけどお兄ちゃん面してきた。怖い。
『虎杖くん。この人。怖い』
「変わってるけど味方だから。それに別に気なんかつかってねぇよ。俺が戻りたいかどうかの問題じゃねぇんだ。宿儺が伏黒を使って何か企んでる」
『………』
「それに俺は人をいっぱい殺した。俺はもう皆と一緒にはいられない」
「……」
「腸相こそいいのか?俺はオマエの弟も殺したんだぞ」
「赦す赦さないじゃない。兄弟とはそういうものだ」
『虎杖くんこの人と兄弟なの?東堂先輩もブラザーとか言ってなかった?三人兄弟?』
「三人兄妹だろう」
『ワー、勝手ニ兄妹ニサレテル〜』
「悠仁は名前のために、名前は俺のために、俺は悠仁のために生きる。俺たちは三人で一つだ」
『嫌だよ。なんで私があなたの為なんかに。ていうか何で名前知ってるの』
「あなたじゃない。お兄ちゃんだ」
面倒臭くなって視線を逸らして溜息を吐く。まぁ敵でないならまぁいいや。頭数は多い方がいい。
「それにしても名前の呪力は変わっているな」
『………私は、化け物だから』
「化け物…?」
男の人ーー脹相は気だるげな瞳で首を傾げると、私の前に移動して頭を撫でた。突然の行動に目を見開いて顔を上げる。
『…………なに、』
「名前は化け物なんかじゃない。俺なんか呪霊と人間の間に生まれたんだぞ」
『…でも、私は呪霊でも、人間でもない、』
「俺だってそうだ」
「俺も宿儺を取り込んでるしな」
『…………』
ゆっくり動かされる手のひらは人間のように温かくて涙が出そうになった。でも、今はそんな場合じゃない。
『………そろそろ行かないと』
「応!」
「そうだな」
私の前を歩くふたりに恥ずかしいけど、恥を忍んで小さく言葉を呟く。
『…ありがとう、……………………お兄ちゃん』
「……………………………………」
「おい脹相、息はしろよ」
目を見開いて振り返り固まる脹相に居心地が悪くなって足早に外を目指す。
「待て!名前!お兄ちゃんが先に行って安全を確かめる!」
『もー!うるさいなぁ!』
「苗字が叫ぶの珍しいな」
唇を尖らせて虎杖くんと脹相の背中を押して外に出る。ゆっくり振り返って断ち切るよう言葉を呟く。
『……いってきます。………伏黒くん』
瞼を閉じると呆れたながらも笑ってくれる伏黒くんの笑顔が浮かんだ。あの笑顔が大好きだった。
いつかまた胸を張ってあなたに会える日を願って、私は離れるよ。
「名前」
「苗字」
『……………行こう』
渋谷事変編 完結