このつめたい色あいにつけた名前




『……………いっ、たぁ、』





体に痛みが走って目を開き、地面に手をついて立ち上がる。傷はさとるくんのおかげで少しだけ塞がっていた。治癒が早くなるのは嬉しい。





『………両面宿儺を、……殺さないと、』






口の中に溜まった血を吐き出して拭う。今が何時なのか、何日なのかもわからない。どれだけ自分が気を失っていたのか。






『……………虎杖くん、』

「…………苗字、」

『…今、どういう状況か、聞いていいかな』

「……夏油傑が、真人を取り込んで…、獄門彊を持って、逃げた」

『他の人達は?』

「………分かんない」






渋谷の裏路地に虎杖くんは居た。探す手間が省けてよかった。冷めた瞳で虎杖くんを睨んでいると、彼の体にはたくさんの傷が増えていた。





『……君はこれからどうするつもり?』

「俺は、……、」

『高専に戻るなんて、言わないよね』

「……え?…………グッ…!」

『…ガッ、』





驚いた様に小さく声を上げた虎杖くんのお腹に呪力を込めて蹴りを入れる。そのせいで自分のお腹の傷も開いた。





『…………いったぁ、…傷開いた…、』

「…なに、すんだよ、」

『宿儺が伏黒くんを使って何かをしようとしてる』

「…………は、」

『それが何かは知らない。でも宿儺は伏黒くんだけを助けようとした。反転術式までかけて。呪霊が人を助ける事はまず無い。良心なんて持ち合わせていない。だって呪いは呪いでしかないから。なら何の為に宿儺は伏黒くんを助けたのか。答えは単純。彼を助けることで自分に利益があるから。………そうなんでしょ宿儺』

「知らんな」

『……わざわざ出てきてくれたのがその証明だよ』






虎杖くんの頬に片目と唇が現れて宿儺は答えた。意外と分かりやすい呪霊だ。





「…は、…なんだよ、…それ、」

『それにさっき街を見てきた。……宿儺がやったんでしょ』

「………俺は、…、……たくさん、人を、」

『…………君は高専に戻る事は出来ないよ。たくさんの人を殺めた君は』

「………俺は、………、」






地面に手をついて唇を動かすけど、虎杖くんから音は出なかった。きっと彼も分かってる。





『……立って、虎杖くん』

「…人を殺して、…友達にも、俺は、」

『……………立って、…虎杖くん』

「伏黒は、…俺を助けてくれたのに、…俺は、」

『立て!!虎杖悠仁!!』

「ーッ!」





大声を出すと喉がビリビリと痛んだ。久しぶりに出した大声は思っていたよりも喉への負担は大きかったらしい。




『私は絶対に伏黒くんを宿儺の好きにはさせない。……たとえ虎杖くんを殺しても』

「…………なら、今すぐ、」

『殺せなんて言ったらぶん殴るよ』

「………」






虎杖くんの精神が限界に近い事なんて分かってる。当たり前だ。彼の様な善人が自分の意思では無いにしろ、大勢を殺めた。





「……釘崎を助けられなかった。……ナナミンも死んだ…、俺は、自分の手の届く範囲にいる人間すら救えない…」

『これから救ってよ。救って償うしかないでしょ。それに野薔薇はそんな簡単に死ぬ人じゃない。…親友の私が言うんだから』

「…………俺が生きてるから…人が死ぬ、」

『…………』




貴様の様な穢れた紛い者の命など知らん

何も出来んさ。オマエのような穢れた化け物にはな






ーー私は穢れた化け物

ーー人間でも、呪霊でもない 害悪






『……虎杖くん、』






彼の前に膝をついてしゃがみ込み、虎杖くんの肩に手を置く。






『…私も一緒に背負うから。虎杖くんの痛みを、…重みを。だから、だから立って。前に進んで。伏黒くんを救うために。』

「……………苗字、」

『………化け物わたしにできるのは、一緒に背負ってあげることだけだから』

「…………」

『それでも足りないなら私が君を戒める存在になるよ。怨まれるほうが楽なら私は君を怨む』

「……俺は、」

『…許される方が辛いのは、…何となく分かるから、』

「……………ありがとう、苗字、」

『…………………うん、』





やめて、虎杖くん。お礼なんて言わないで。私は君のためにこの道を選んだわけじゃない。全ては私を愛してくれた伏黒恵神様の為。言葉だけでも虎杖くんの為と言えない自分が酷く醜い。





『………行こう。虎杖くん』

「…………おう」





化け物は明るい世界に居てはいけないから。神様は神様でしかないから。醜いもの程、綺麗なモノに焦がれ、憧れ、近づこうとして身を滅ぼす。





化け物と神様は一緒に居てはいけないから




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