天使みたいな触覚
「オマエさぁ、なんで呪術師やってんの?」
『…見えるから?』
「見えるだけの雑魚じゃん。早く呪術師辞めれば?」
「悟、女の子にそんな言い方は感心しないよ」
「俺弱いヤツ嫌いなんだよ。疲れんじゃん!」
「苗字さんだって好きで弱いわけじゃないんだ。あまり言ってやるなよ」
夏油くんのはフォローなのかな…。私が肩身を狭くしていると、五条くんは私を見て小さく舌打ちをした。彼は本当に私のことが嫌いみたいだ…。
「悟のは発作みたいな物だから気にしなくていいよ」
『あ、うん…、ありがとう、』
「弱いものいじめは良くないから」
正直、五条くんより夏油くんの方が苦手だ。だってフォローしてる様で私の傷を抉ってくるし、ニコニコしながら何を考えているか分からない。
「ん?どうかした?」
極めつけはこの目だ。目尻は下がっているのに目の奥が笑っていない。きっと夏油くんも心の中では私のような大した力もなくて約立たずは嫌いなんだ。
『う、ううん…、私先生に用事あるから行ってくるね』
「いってらっしゃい」
ヒラヒラと右手を振る夏油くんに一礼して教室を出て、フラフラと廊下を歩く。本当は先生に用事なんて無いからとにかく歩くことしか出来ない。
『…………』
九十九さんはああ言っていたけど、思ったより高専はハードだった。人は怖いし任務は辛いし勉強は難しいし人は怖いし人が怖い。元々私は人と関わるのが苦手で、好きじゃない。五条くんと夏油くんと目を合わせたことも無い。家入さんとはやっと少しだけ話せるようになった。入学してもうすぐで半年なのに。
『………辞めようかな』
小さく呟いて慌てて頭を左右に振る。あの暮らしが嫌で私は高専を選んだんだ。怖い人が多いとはいえ、みんな見える人。悩む必要が無いこの空間は居やすいと言えば居やすい。
∴∴
「今日は私と任務だね。よろしく」
『………………』
まさか夏油くんと同じ任務になると思わなかった。彼は強い。1年生なのに3年生より強いって噂で聞いた。
『ご、ごめんなさい、』
「え?どうして?」
『私が弱いからですよね…。私が弱いから夏油くんが一緒に行けってなったんですよね』
「…………」
夏油くんは笑みを浮かべたまま動かなくなってしまった。多分、図星だったんだ。
「…まぁさっさと終わらせようか」
『はい…』
任務地に赴いてすぐに呪霊は見つかった。けれど私は何も出来ずにただ見てるだけ。夏油くんが祓ってしまった。本当に瞬殺だった。
「さて、帰ろうか」
『…はい』
夏油くんは笑みを浮かべて歩き出す。足の長さが違くて駆け足で駆け寄ると、彼はチラリと私を見て歩幅を合わせてくれた。……足でまといな上に、迷惑まで…。
『…………』
「凄く暗い顔してるね」
『……すみません…、ちょっと顔潰して来ますね』
「やめてくれる?」
夏油くんは真顔でそう言うと小さく溜息を吐いてしまった。……私走って帰ろうかな。
「苗字さんはなんで呪術師になったの?」
『………それは、面接ですか?』
「面接…?いや、純粋な疑問だよ」
『呪霊が見えてることを友達とかに隠してたんですけど、親には変な事を言わないでって言われちゃって…、そしたら女の人が高専に行くといいよって言ってくれて…』
「なるほどね。それで?入ってどうだった?」
『……………』
「正直に言っていいよ」
『辞めたいです』
即答すると夏油くんは一瞬目を見開いて、次の瞬間には大笑いをした。ちょっと意外だった。仏様の様な夏油くんでもこんな風に笑うんだなぁ。
「意外とバッサリ言うんだね」
『…まぁ、本心なので』
「それにどうして敬語なんだい?同期だろ?」
『強さが違いすぎて…、私とは別世界というか…』
「随分寂しいことを言うんだね」
全然寂しいと思ってなさそうな夏油くんにこの人はきっと女性にモテるんだろうなと思った。
「でも辞めないんだね」
『……呪霊が見えている人達と居るのは、気が楽なので』
「その割には私達といる時はいつも気まずそうだけど」
『…そ、そんなことは…』
「ははっ、からかいすぎたね」
夏油くんは少し笑うとポケットに手を入れて口角を上げた。
「そうだ。ご飯でも食べて帰る?」
『…………』
「意外と苗字さんって素直だよね。顔に嫌なのが出てる。私も本気で誘っているわけじゃないから安心して」
今日知ったけど、もしかしたら夏油くんは五条くんより性格が悪いのかもしれない。
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