同級生or元カレ登場
「ねー!聞いてるー!?」
『あー聞いてる聞いてる』
「じゃあ今僕がなんて言ったか言って!」
『………………………筑前煮美味しいなー』
「今何も食べてませんけど!?しかもチョイス!」
『あーもう!うっさいな!行けよ!任務!』
「やだー!嫌だァー!恋人が冷たいよォー!心が寒いィー!だから任務行かない!」
『………………』
「ゴミを見るような目で見ないで!」
いつまでもうるせぇ五条悟を見下ろすと思ったより酷い顔をしてしまったらしい。仕方ない。五条悟だから。つーか任務行けよ。うるせぇな。ここ高専の門だぞ。
「……………名前は何するの」
『はァ?仕事』
「誰の任務について行くの」
『伏黒くん』
「は?駄目」
『…は?』
突然キレ始めた五条悟は私を壁に押し付けると壁に手をついて閉じ込める。そんな五条悟を睨みあげると唇が寄せられる。
「……………」
『何しようとしてんだクソ野郎』
「…………………」
自分の口元を手で覆って眉を寄せると五条悟は顔を上げて空を仰ぐとスーッと息を吸い込んだ。
「…………恋人がキスすらしてくれないので僕はもう働きませぇぇええぇぇえッん!」
『…………………』
五条悟は首を左右に振ってバタバタと地面に寝転がり始めた。無下限があるからって汚ぇな。よくよく考えたらゴミとかホコリがつかないってドラえもんだよな。コイツも風呂入る必要無いんじゃね。
『つーかオマエがゴミ』
「…………………………もう絶対仕事行かないから」
『やべっ、声に出た』
五条悟は外だと言うのに拗ねたように背中を丸めて器用に膝を抱えて背を向けた。ここ外だし早く任務行け。
『……………伊地知くん困ってる』
「…へー。僕より伊地知が大切なんだ」
『後輩困らせんな』
「僕は名前の彼氏なのに…」
『……………』
ッハー!めんどくせェ!前以上に面倒臭せぇ!小学生でもしねぇよ。幼稚園生で卒業してくれよ。僕幼稚園行かない!ってやつだろ?オマエ自分の年考えろよ。
『………任務行ってよ』
「……………ちゅーして」
『……………伊地知くんが、』
「他の男呼ぶな」
『………………』
急に低い声出すからコイツの情緒が分からん。仕方なく五条悟の頭の近くにしゃがみ込むと、五条悟は分かりやすく頬を緩めていた。
『もう元気じゃん』
「全然元気じゃない。キスしてくれないと無理。無下限切って任務行くよこのままじゃ」
『何の問題もないように感じるけど』
「問題ある。気が乗らない」
『それ社会人のデフォだから大丈夫だな』
「……名前、」
甘く呼ぶ五条悟にフーっと息を吐いて目隠しのせいで逆立っている髪を撫でる。…サラサラすぎてウザイ。私だって高いトリートメント使ってるのに。
「伊地知」
「はいっ!」
「10秒後ろ向いてろ」
「ハイッ!」
『それパワハラ』
「僕は別に見られてもいいんだけど。むしろ見せたいんだけど」
『…ワー、パワハラばんざーい。』
五条悟は上体を少し起こすと私の頬に手を当てて首を傾げた。仕方なく瞼を瞑ると門の近くでザリッと砂を踏むような音がして瞬時に瞼を上げて距離を取る。
「こんな所でイチャつくんじゃねぇよ。クソ教師」
「しゃけ」
「そういえば悟任務って言ってなかったか?」
『そっ、それじゃあ私は仕事があるから!』
あの子たち多分高専の2年生だ。恥ずかしい。しかも凄く落ち着いてた。ダメな大人を見せてしまった。申し訳ない。走り去っている私の後ろから五条悟のデカすぎる泣き声が聞こえたけど無視した。
∴∴∴
「…………」
『………邪魔』
「………僕はこうやって名前に捨てられるんだ。ヤってる時以外どうでもいいんだ。体だけが目当てなんだ」
『だとしたらどうすんの』
「僕でしかイけないように調教して体から堕とす」
『………声がマジなんだよなぁ』
任務終わりに伏黒くんを高専に送り届けて買い物をする為に近くのスーパーに行こうとしたらサングラス姿の五条悟が現れて勝手についてきた。しかもがっしりと私の右手を掴んで。
『はいはい。…あ、そこの棚のやつ取って』
「……」
『…あとは、…そこのやつと野菜』
片手は繋がれてもう片手はカゴを持っているから五条悟に指示を出して取ってもらうと意外とあっさり取ってくれた。
「…………なんか、新婚さんみたいじゃない!?次は!?なに取る!?」
『…………………じゃそれ』
「はーい!」
楽しそうに語尾を上げてカゴに入れる五条悟に心臓の辺りがギュッてしたけど多分不整脈。
「今日名前の家でご飯食べるね」
『普通は食べていい?って聞くところじゃない?』
「食べるね?」
『疑問符の意味ねぇんだよ』
でもスーパーで買った物の袋は持ってくれてるからまぁ許す。良きにはからえ。
「そういえばさー、今日伊地知がさー」
『あんまり後輩虐めるなよ』
「いじめてないよ。僕なりの愛情表現」
『……伊地知くん可哀想』
家を目指して歩いていると不意に後ろから名前が呼ばれて立ち止まる。
「名前?」
『え?』
「…あ?」
何故か機嫌が悪そうな声を出す五条悟を無視して視線を向けると懐かしい姿に目を見開いた。
『………鈴木くん?』
「久しぶり、だな」
『久しぶり。東京に帰って来てたんだ』
「うん」
「…誰」
眉を寄せて顎を上げる五条悟は完全に高専時代のヤンキーだった。サングラスが余計にそれっぽい。
『中学の時の…、…同級生』
「初めまして」
「……はい、どーも。じゃあね」
『ちょ、ちょっと、腕もげる!』
グイグイ私の腕を引く五条悟に慌ててついて行くと鈴木くんが少し大きな声を出した。
「番号!変わってない?」
『変わってない!』
「変わってマース!なので連絡しても無駄デース!」
ありもしない事を言う五条悟にムカついたけどそれよりも自分の無駄な足の長さを考えないコイツについて行くのに必死だった。長ぇよ。無駄に。
∴∴
「名前!」
『鈴木くん!』
あの後連絡が来てご飯に行くことになった。その事を五条悟に話すと自分もついて行くと聞かなかったけど、そもそも特級呪術師に暇はない。無理矢理仕事に行かせた。
「それにしても久しぶりだなぁ」
『10年振りくらい?』
「すげぇ綺麗になってて最初分からなかったよ」
『えー?海外で口の上手さを学んだわけ?』
「いや、本当だって」
ご飯屋さんに入ってそんな会話をしながら懐かしい思い出に思いを馳せる。
『高校入学と一緒に海外行っちゃったもんね』
「それで名前とも自然消滅みたいになったもんな」
『懐かしい』
クスクスと笑うと鈴木くんも少し頬を緩めていた。色々な思い出を話しながらご飯を食べ終えて外に出ると見慣れた真っ黒で真っ白な男が立ってた。
『……場所までは言ってない筈だけど』
「愛の力」
『という名のGPSか。どこにつけた』
「内緒」
『…クソが』
五条悟は隣に立つと私の腰を引いて抱き寄せた。すると鈴木くんは少し驚いた様に目を見開いて口を開いた。
「…えっと、彼氏さん?」
「そうでーす」
『…まぁ、一応?』
苦笑を浮かべながら頷くと鈴木くんは目元を細めて少し笑った。
「誘ったのは不味かったか」
『全然そんなことないよ!久しぶりで楽しかったし!』
「久しぶりに日本の飯食ったけどやっぱり美味いな〜」
『海外のはどんなのがあったの?』
「ゲテモノとかもあったよ」
『ゲ、ゲテモノ…?』
想像して眉を寄せると鈴木くんは面白そうに口を開いて笑っていた。五条悟とは違って嫌味がないから許せる。
『ゲテモノ食べたの?』
「…………」
『あ、うん。だいたい分かった』
苦虫を噛み潰したような顔をする鈴木くんに次は私が笑う番だった。久しぶりの呪術師ではない一般人との会話に肩の力が抜ける。すると五条悟に抱かれている腰に力が込められて少し体を引かれる。
「………帰るぞ」
『あ、うん。…じゃあまたね』
「うん、また」
手を振って歩き出すと腰に回っていた手が手のひらに移動して指が絡められる。珍しい…。
『…変なもの食べた?』
「…食ってない」
『お腹痛い?』
「痛くない。ガキか俺は」
口調が戻ってる。サングラスのせいで完全に高専の五条悟だ。唇を尖らせて歩く五条悟に首を傾げながらも別に何かをした覚えはないから、まぁいいかと小さく頷いた。
∴∴∴
「名前っ〜!これあげる〜!」
『……………』
「これ欲しいって言ってたでしょ?」
『言ってた、けど…』
ここ最近、五条悟が何かと私に贈り物をしてくる。欲しがっていたスニーカー、欲しがっていたブランドの服、欲しがっていた家電。別に買って欲しいから言ってたわけじゃない。
『なに?』
「え?何が?」
『最近のアンタおかしいじゃん』
「可笑しくないよ〜」
そう言って五条悟は私の腰を抱くと頬にキスを落とした。やってる事が外人なんだよなぁ。オマエ日本人だろ。
『…私、硝子さんの所行ってくる』
「僕も行く〜」
『オマエは任務』
「………ちぇ〜」
すんなり離れて任務に向かう五条悟に寒気を覚えた。本当になんなんだ。
『って事なんですよ』
「任務に素直に行くんだからいいんじゃない?」
『そうなんですけど〜…』
「それとも甘えて欲しいのか?」
硝子さんはおもちゃをいじるように楽しそうに顔を歪めた。任務前にごねられるのは面倒だからいいんですけど…。何か変な違和感がある。
「でもアイツが贈り物ねぇ〜」
『しかも高い物ばっかり。売ったら家建ちますよ』
「それは流石に可哀想だから売るのはやめてやれ」
『私にも良心はありますよ』
「見返りに抱かれたりしてんの?」
『それが最近は全く無いんです』
前まであれだけの回数をしていたのにココ最近はパッタリ無くなった。それも気持ち悪い。
『…最初は浮気かと思ったんですけど任務以外の時は私の家に居るし、……こ、声とか、表情も、…あの、』
「あー、甘々なわけだ」
『………はい、』
正直言って悪い気はしない。貢ぎ物じゃなくて、愛情を表に出してくれるのは。
「………ふーん、」
『硝子さん何か分かります?』
「まぁ、大体はね」
『どういうことなんでしょう…』
「そのうち分かるよ」
『えぇ〜…』
教えてくれる気のない硝子さんに肩を落としていると扉が開かれて五条悟が現れた。任務終わるの早すぎ。トんで帰って来たな。
「ただいま〜」
『おかえり。早かったね』
「うん。名前に会いたくてトんできたから」
そう言って五条悟は私の頬に頬擦りをすると隣に椅子を移動させて腰を下ろした。
「アンタ焦ってるんでしょ」
「はァ〜?」
「いい所見せて点数稼ぎってとこ?金に頼る辺りアンタの経験のなさが伺える」
「ありますけど〜?余るほどの経験〜」
「本命は初めてだろ」
「…………」
小さく舌打ちをして顔を逸らす五条悟に首を傾げる。全くふたりの会話の意味が分からない。どういうこと。
『どういうこと?』
「……あっ、今日のお土産はね〜、これだよ!」
『ありがとう…、って話逸らすな』
「名前は可愛いねぇ〜」
そう言って両手で頬を包んでグリグリと優しく動かす五条悟に寒気がした。甘い声で可愛いなんて面白いネタを探している硝子さんの前で五条悟は言わない。
『………本当になに?鳥肌立ったんだけど』
「酷くない?」
「正直に言ったら?このままじゃ浮気だと思われるぞ」
「はァ?浮気ぃ?」
「そりゃ突然優しくなってプレゼントまで渡したら普通はそう思うんだよ」
「……………まじ?」
『……まぁ、ちょっと』
「まじかぁ〜………」
五条悟は天井を仰ぐとゆっくり戻して肘を膝について前屈みになった。
「浮気じゃない。これは信じて」
『…それは、まぁ、分かってるけど、』
「プレゼントは…、……浮気を疑われたくないから正直に言うと、好感度上げる為の手段」
『……好感度?』
五条悟の表情は目隠しで見えないけど多分、眉に皺が寄ってるはず。声色がそう。
「…名前があの男に会ってすげぇ楽しそうだったから」
『………鈴木くん?』
「そう。…この業界から辞めたいなんて言われたら僕は何も言えない。それだけ危険な世界だしね」
『………それで、私が離れていかないようにプレゼント?』
「…………そう」
認めたくないのか嫌そうにそう言った五条悟に目を見開く。…コイツ、本当に恋愛経験少な過ぎないか?体の関係は沢山持ってても考え方がクソだ。
『…………』
「………名前?……怒った?」
『……………っ、あははっ!』
「え、爆笑?」
お腹を抱えて笑うと五条悟は目隠しをズラして私を見ていた。その目が見開かれていたから零れ落ちそうだな、なんて思った。
『おまっ、…っ、オマエっ、馬鹿だっ、』
「……こっちは本気で焦ってたんだけど」
『ふふっ、…プレゼントっ、…』
プレゼントで私を繋ぎ止めようとするとか本当に馬鹿だ。何にも分かってない。でもそれが愛おしい。必死に引き留めようとするこの馬鹿が、愛おしい。
『…はー、笑った』
「それは良かったデスネ」
『私、こう見えても結構悟のこと好きなんだけど』
「………………は、」
笑ったせいで溢れた涙を拭いながらそう言うと五条悟は間抜け面のように口と瞳をポカンと開いた。その顔が面白くてまた笑った。
「………も、もういっかい、もっかい言って」
『えー、やだ』
「言ってください!お願い!」
『言って欲しい?』
私がニヤリと笑って五条悟の顔を覗き込むと、五条悟はグッと唇を噛んでゆっくり少し恥ずかしそうに口を開いた。
「…言って欲しい」
『…なら、今日の夜優しくしてくれたらいいよ』
「………………」
『うわぁっ!』
五条悟はスっと表情を消すと私の体を横抱きにして抱えると足で扉を開けた。足癖が悪すぎる。
「これから可愛い恋人を甘やかすので忙しいから帰る」
「さっさと帰れ。アホ共」
『えっと、お邪魔しました!』
そのまま廊下を歩く五条悟にまた笑いが込み上げてきた。
『そんなに私が離れていくの不安だったのか〜』
「………結構、まじで焦った」
『ふふっ…、』
「笑うな。こっちは本気だったんだぞ」
『…いや、可愛いなと思って。恋人が離れていきそうになって繋ぎ止めるためにプレゼントなんて…、五条悟は随分と献身的だね』
「………オマエだけだっつの」
拗ねたような表情が素直に可愛くて頬に唇を寄せるとピタリと五条悟の足が止まって首を傾げる。
「………あー!オマエ!本っ当いい加減にしろ!」
『なにキレてんだよ?』
「可愛い過ぎてキレてんだよ!こっちはまだ恋人らしいオマエに慣れてねぇんだよ!!」
そう言いながら頬を少し染めてる五条悟が面白くてまた吹き出した。硝子さんが言ってた浮かれてる恋人が可愛く見えるのは本当みたいだ。
∴2021.03.08
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