五条先生の婚約者に間違えられる
『……なんで五条先生と任務なんですか』
「名前が弱いからじゃない?最強の僕を見て勉強しろって事だね」
『恵くんとが良かった…』
「名前って僕にだけ耳が遠くなるよね」
任務終わりに先生と帰り道を歩いていると、目の前から一人の女性が現れた。高専の近くだから人が居るのは珍しいな、と凝視していると、女性は私たちの目の前で止まった。
「………悟さん」
「え?きみ誰?なんで僕の事知ってるの?」
『……女誑しクソ野郎』
「ボソッと言ってるけど聞こえてるよ?それにこの歳になって遊んでないから」
どうせ先生が忘れてるだけで、昔遊んでた女の人だろう、と悪態を心の中で吐いて先に帰ろうと足を進めようとした時、腕が掴まれた。犯人は五条先生だ。
「で?君、誰?」
『腕離してください』
「私、許嫁の、」
「僕に許嫁なんて居ないけど」
『許嫁忘れるって最低ですね。さようなら』
「五条家が勝手に決めたお見合いなら断ったハズだけど」
『いや、離してください。私関係無いので』
体を前のめりに倒しても五条先生の腕は解けなかった。ゴリラだ。顔がイケメンのゴリラだ。
「…そちらの子は、」
『私はただのせい、』
「恋人」
『………』
「………え?」
「この子が僕の恋人だから。婚約は破棄って事で」
『待て。五条悟』
「ほら名前〜、行きまちゅよ〜」
『可笑しい!頭が!』
ズルズルと腕を引かれて高専内へと入る。コイツ…!生徒を利用しやがった!面倒臭いからって!
「ほら恋人なんだから自分で歩いてくだちゃいねぇ〜」
『意味分からないし、恋人じゃないです!』
「だって面倒なんだもーん」
『知りませんよ!』
「それにこの事を知った恵がどうなるのか見たい」
『最低な大人だ…!!』
本当にこの人はイカれてる。本気で引いた。そんな私に気付かない五条先生は振り返って私の腕を離した。
「悪いけど協力してよ。今は結婚とかそんな事考えてる場合じゃないんだよね。名前も分かってるでしょ?呪術師で忙しいのは」
『………』
「それに術式を受け継がせたいだけで結婚なんて馬鹿らしいし、そんな理由で子供を作らせるなんて可笑しいでしょ」
意外とらしい考えを持っていて驚いてしまった。五条先生の許嫁にされるのは真っ平御免だけど、そういう理由ならまぁ、仕方ない。どうせすぐに終わる話題だ。
∵∵
「お迎えに上がりました苗字様」
『………お呼びでないです』
「御家族に顔合わせをお願い致します」
授業中だと言うのに、着物に身を包んだ人達が乗り込んで来た。五条先生を睨むと、テヘッと舌を出していたから、その舌を引っこ抜いてやりたくなった。
「え!?苗字が何で五条先生の家族に会うの!?」
「知らないわよ!」
「…………どういう事ですか」
「えっとねぇ…、色々あって僕の家では名前が僕の恋人ってことになってんだよね!」
「分かりました。殺しますね」
『決断が早い!』
恵くんが椅子から立ち上がるから慌てて腕を掴む。目が本気だった。
『違う!違うの恵くん!これには訳があって…、』
「…名前」
優しく私を呼んだ恵くんに安堵すると、彼は私の髪をかけて頬を撫でた。そして神様のような柔らかい笑みを浮かべて言った。
「五条先生に無理矢理やらされたんだろ?それとも五条家か?なら俺が五条家の当主になる。そしたら万事解決だろ。名前は何もしなくていい。俺に任せろ」
『……恵くんがバグった!!』
怪しい笑みを浮かべて怖い事を言う恵くんに、冷や汗をかきながら五条先生に視線を向ける。元を辿れば五条先生のせいだ。
『五条先生…!どうにかしてください!』
「えぇ〜…、だってお見合い面倒だし…」
『知りませんよ…!』
「それに名前だって僕との結婚考えてたじゃん」
『それは…!』
ガシッと手首を掴まれて、ビクリと体が揺れる。ギギギと壊れたブリキの様に振り返ると恵くんが笑っていた。青筋を浮かべ、血走った目で。
『め、恵くーん?顔が怖いよ?どうしたの〜?』
「弁解があるなら聞いてやる」
『へっ?』
「何か理由があるんだろ」
『そっ、そう!』
意外と言っては失礼だけど、恵くんは私の話を聞いてくれる様だ。五条先生と結婚を考えたのは、恵くんと別れた時に五条になれば集会で恵くんに会えるかもって事だっただけで、本当に五条先生と結婚を考えてた訳じゃない。この事を伝えようと唇を開いた時、私よりも先に恵くんが口を開いた。
「聞いても許すかどうかは別だけどな」
『……え?』
「どんな理由があっても許さねぇし」
「名前諦めた方がいいよ。こういう時の恵って言い訳すると余計にキレるから」
『言い訳って…!』
「今は俺が話してんだろ」
『……はい、』
「違うか?」
『違いません…』
どうしよう。恵くんが怖い。でも、あの時は恵くんが別れようって言ったからで…。私の不満が気付かれたのか恵くんは口を開いた。
「なんか言ったか?」
『言ってない!言ってはないよ!』
遂に恵くんが読心術を身につけた。あれだ、パワハラ会議が行われるよ。逃げてもいつの間にか捕まってるやつだ。無惨様だ。
『あの、恵くん、』
「なんだよ」
『五条先生は自分がお見合いしたり、許嫁が出来たりするのが面倒で私を利用しただけで…』
「言い方に棘があるけどその通り〜」
「最低教師ね」
「生徒利用するのはどうかと思うよ、先生」
野薔薇や虎杖くんの追撃に五条先生は心臓を抑えていた。いいぞー、もっとやっちゃえ〜。
「関係ねぇよ」
『…え?』
「名前を利用した時点で五条先生を殴るのは決まってる」
「…え、僕?」
『……ち、因みに、私は…?』
おずおずと聞くと、恵くんはフッと優しく笑って私の頭を撫でた。
「起きれたらいいな。明日」
『…………あの、私、明日朝早くから任務が…、』
「そもそも部屋から出れるのかも怪しいわよ。いい機会だって監禁しそう」
『そ、それは無いでしょ…、』
野薔薇の言葉に少し笑いながら恵くんを見ると、スーッと視線が逸らされた。嘘でしょ恵くん。
『冗談だよね?大丈夫だよね?』
「………」
『私、明日も明後日もお日様の下に出られるよね…?』
「………」
『恵くん…!?答えて!?』
そんな易々と人の頼みを聞いてはいけないなって、勉強しました。特に五条先生のは。頼み込むと恵くんは手加減してくれた。任務には行けなかったけど…。
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