リクエスト消化 | ナノ

五条先生に嫉妬の続き







『ちょ、ちょっと待って恵くん!!』

「なんだよ」

『一緒は無理!それは許されない!』

「俺の匂いがいいんだろ」

『そうだけどちょっと違うかな!!』





2ヶ月の任務から帰って来て、そのまま恵くんの部屋へとお邪魔するとお風呂に案内された。それは良いんだけど、問題は恵くんが一緒に入ろうとしてるって事だ。





『明るい!まだお外は明るいよ!』

「関係無いだろ。どうせすぐに夜になる」

『ん〜!?言い方に含みを感じる!』




必死に脱衣所から恵くんを追い出す為に背中を押しても、持ち前の体幹で留まる。というか、ニヤニヤしてる。悪どい笑みだ。真希さんにそっくりなやつ。





「何回も見てんだから別にいいだろ」

『やっ、やだっ!野薔薇とか真希さんみたいなスタイルだったら良いよ!?けど私の見窄らしいスタイルを明るい場所で披露するなんて無理!死ぬ!』

「………2ヶ月振りに会えたんだぞ」

『…え?』





ポツリと言葉を漏らした恵くんに腕の力が緩まる。すると彼は振り返ってコテンと首を傾げた。





「…会いたかったのは俺だけかよ」

『………入っていいよ!入ればいいじゃん!』

「何キレてんだよ」





私が恵くんの顔に弱い事を分かってやるのが、タチの悪い所だ。鼻歌を歌い出しそうなほど上機嫌に制服を脱いだ恵くんから慌てて視線を逸らす。





「服着たまま入んのか?」

『脱ぎます!脱ぎますとも!!』

「大丈夫か?情緒不安定か?」





恥ずかしさで語気を強めに言うと恵くんは首を傾げながら先にお風呂の中へと入って行った。…先に入られた。





「うおっ、」





電気を消してスマホを持って足元を照らしながらお風呂へと入ると恵くんは突然消えた電気に驚いた声を上げていたけど知らない。




「何も見えねぇ」

『現代にはスマホというものがありまして…』





湯船に浸かっている恵くんに背を向けて体を濡らす。振り返って暗闇の中の恵くんの瞳を睨む。





『私がいいよって言うまで壁見てて!』

「………」

『恵くん…!』

「……はいはい。分かったって」







瞼と閉じて湯船に背を預けた恵くんに安堵して頭と体を洗って行く。シャンプーを使わせてもらっていつも思うけど、恵くんからこの香りはしないから純粋に恵くんがいい匂い何だろうな。安物のシャンプーセットなのに。ちょっと腹が立つ。





『………ゥヒッ、』

「変な声」

『〜っ、恵くん!』

「見てねぇよ」






背を向けてたせいでがら空きだった背中が突然指でなぞられた。慌てて首だけで振り返ると確かに恵くんは目閉じていた。…この人、呪力で予想して触ってきた。





『…………』

「怒んなって」

『………ムッツリ』

「違ぇって」





頬を膨らませて眉を寄せて怒っていると、後ろでパシャンと水が跳ねる音がして慌てて振り返ろうとした時、頬に落ちていた髪が後ろからかけられて耳元で恵くんの声が聞こえた。





「名前だから、触りてぇんだよ」

『…………』

「あ、照れた」






久しぶりのせいか、いつもの倍心臓が跳ねた。そしたら頭から水がかけられて少しだけ頭が冷えた。





「ほら、もう入れって。風邪ひく」

『……はい』






もしかしたら恵くんは既にお風呂に入っていたのかな。帰ってきたの午後だったし、ちょっと有り得る。





「スマホ防水で良かったな」

『この為に防水にしたわけじゃないのに…』

「そういや名前が気になってた店が都内にも出来たって」

『え…!?』





恵くんの一言にスマホで検索する。身を小さくして湯船に入っていたのにいつの間にか恵くんに背を預ける形になっていて目を見開いた。





『さっ、策士…!?』

「何言ってんだオマエ」

『こっ、こうやって女の子の懐に入るのね…!?』

「長ぇよ茶番が」




背中に恵くんの肌と温もりを感じて心臓が音を立てる。未だに慣れない。慣れる気がしない。しかも恵くんの片手がお腹に置かれてるから引っ込ませるので必死だ。震えそうな手を隠しながらスマホを操作する。




『……ッ、めぐみっ、くんっ!』






肩口にヌルリと熱いものが触れて、そのまま上にあがり首筋まで移動する。耳朶に唇が触れて、喉を鳴らして笑う恵くんの声が鼓膜を揺らした。





「……オマエさ」

『な、なに、』

「変な気分になってるだろ」

『っ、な、なってな、』





楽しそうにクツクツと笑う恵くんに、カァッと顔が熱くなる。お腹に置かれた恵くんの手が少しずつ上にあがる。思わず視線を向けると、厭らしく動く手に顔が動かせなくなった。





『ま、待って、』

「いつもどんな風に触ってるか見ておいた方がいいんじゃねぇ」

『め、恵、く』





変わらず耳元で話す恵くんに腰が跳ねそうになるというのに、時々耳朶を恵くんの唇が啄むから頭がパンクしそう。



「こうやって、」

『ッあ、』




恵くんの大きな手が胸を包んで、人差し指で突起を撫でた。いつもは視線を逸らして見ないようにしているから、改めて恵くんがこんな風に触れてるんだと分かって心臓が跳ねた。





『…め、恵、くん、』





キスがしたくて顔を向けると、恵くんは驚いた様に目を見開いて、私の体を抱き上げた。





「悪い、やりすぎた」

『…へ?』

「逆上せただろ」






そう言われて確かに頭がボーッとするなと思った。でもそれは恵くんに触られてるからかと…。





「とりあえず…、」





お風呂から上がり、恵くんは私に自分のTシャツを着せると、また私を抱えてベッドに寝かせてくれた。一応髪の下にタオルを敷いてるとはいえ、濡れてしまいそうだ。





『…ごめんね、ベッド濡れちゃうかも、』

「そんなの別にいい」






恵くんはベッドに腰を下ろして髪を撫でてくれた。もう片手ではうちわで仰いでくれてる。…優しい。




「水取ってくる」

『恵くん、』

「ん?」




立ち上がった恵くんの腕を掴んで引き止める。自分らしくない事も分かってるけど、ボーッとする頭では正当な判断なんて出来なかった。




『…まだ、恵くんの匂いじゃない、から、離れちゃ駄目…』

「……………本当、…頼むから殺してくれ」

『私を…?』

「俺を」





片手で顔を覆う恵くんは、深く、…それはもう深く溜息を吐くと、また腰を下ろしてくれた。でもそれとは裏腹に呪いが籠っていてもおかしくないほど、低く言葉を発した。





「……オマエ、まじで覚悟しとけよ」





でも知ってるよ。恵くんはどんなに自分が限界でも、私が嫌がったり、体調を崩してたりすると、絶対に手を出さないこと。




『…大好き、』

「……殺してくれ」

『恵くんを?』

「オマエだよ」





拝啓 伏黒甚爾様 どうやら今日、私は貴方の息子さんに殺されるかも知れません。





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