ご都合呪術Dand夢主のことが好き過ぎる伏黒
『……寝ちゃおう』
どうしてか今日は眠気が酷かった。本当なら任務に行っている恵くんの帰りを待って、電話したり少しだけでも会ったりするんだけど、どうも今日は駄目だ。恵くんにメッセージを送って眠りにつく。既に限界だったせいで、眠りに落ちるのは一瞬だった。
「名前、……」
『………』
「……名前、」
『……………………恵、…くん?』
暗闇の中で声が聞こえたと思ったら、私のお腹の上に恵くんが乗っていた。道理で息苦しいわけだ。
『…恵くん?……どうしたの?』
「…名前、」
『……んー?…あ、おかえりなさい、』
彼が任務帰りなのを思い出してそう言うと、恵くんは瞼を閉じようとする私の頬をペチペチと叩く。
「…名前、」
『ん、なに…?』
「任務終わった」
『…うん、…お疲れ様…、』
チラリと壁にかけられた時計を確認すると2時を回っていた。こんな時間まで任務なんて大変だな、と思いながら恵くんの髪を撫でると、気持ちよさそうに擦り寄るから心臓がキュンって音を立てた。
『…お疲れ様…』
「ん、」
『恵くん、…ごめんね、私、眠くて…、』
申し訳ないと思いながら瞼を閉じると、体が優しい香りに包まれて意識が無くなった。
∵∵
『…………』
次の日、目を覚ますと私を抱きしめて恵くんが眠っていた。まさか自分の部屋に帰らないとは…。
『恵くん、……恵くん、起きて、』
「…………ん、」
肩を叩いて起こすと、恵くんは薄く重たそうに瞼を開いて私の体を抱き寄せた。
『昨日遅かったから大変だろうけど、学校だよ』
「………嫌だ」
『……………え?』
思いもしなかった答えに時間が止まった。恵くんは私を抱きしめ、私の胸元に顔を埋めた。私はバッと立ち上がって虎杖くんの部屋の扉を叩きまくる。
『虎杖くん!!虎杖くん…!!!』
「………苗字?」
『朝早くごめん!!昨日の任務で何か変な事なかった!?』
「…え?」
寝癖のついた頭を掻きながら出てきてくれた虎杖くんに詰め寄ると、首根っこを掴まれて、そのまま後ろから抱きしめられる。
「名前、」
『めっ、恵くん!?』
「……あっ!そういえば昨日、呪詛師が居たんだけど…」
私にくっついて頬擦りをする恵くんを他所に虎杖くんの言葉の続きを待つ。
「そういや伏黒その呪詛師の呪術食らってた…かも…」
『…………恵くん?』
「……………食らってねぇ」
黒です。彼は呪術に当てられてます。じゃなかったらこんなの可笑しい。だって恵くんは学校を嫌がる子じゃないし、こんなに分かりやすく甘える人じゃない。……可愛いけど。
『体に異常は無いの?大丈夫?』
「………平気」
『良かった』
安堵の息を吐くと、ガッと両頬を包まれる。少し力が強くて頬のお肉が寄って恥ずかしい。けど恵くんの表情があまりにも甘いから何も言えなくなってしまった。
「……好きだ」
『…へ!?』
「名前の優しいところが好きだ」
「どうした伏黒!?」
『め、恵くん…!?』
真剣すぎる表情に、声に顔に熱が集まる。思わず顔を背けようとしても、頬が包まれてるせいで顔が動かせない。
「照れてんのか」
『め、恵くん、離して、』
「可愛い…」
『ご、』
目尻をトロンと下げて言葉を紡ぐ恵くんに頭が追いつかずにとにかくある人を呼んだ。
『五条先生ぇぇええぇぇぇ!!!』
朝早く、高専内に私の叫び声が木霊していた。その傍で恵くんの、他の男呼んでんじゃねぇよ、って声がしたけどそれは聞かなかったことにした。
∵∵
「んー…、多分あれかな。素直になっちゃう呪術かな」
『……なんですか。その漫画みたいな呪術』
「でも現に恵はそんな感じでしょ?」
教室に移動して五条先生に相談する。その間も恵くんは私にベッタリくっついている。虎杖くんと野薔薇は任務らしい。私も行きたいけど、恵くんが離してくれなさそうだ。
『何とかしてくださいよ五条先生』
「時間が経てば解けるでしょ」
『今、何とかしてくださいよ…』
「名前」
『ん?恵くんどうかした?』
腕を啄かれて顔を向けると、恵くんがムスッと私を睨んでいた。
「五条先生ばっかり見てんなよ。……監禁するぞ」
『………へ?』
「うっわー、自分の欲に忠実だねぇ」
「俺だけ見てろ」
顎を掴まれて唇が重ねられる。五条先生がすぐ近くに居るのに。
『め、恵くっ、ごじょ、せんせいがっ、』
「……他の男呼ぶな」
『ち、ちがっ、んっ、』
啄まれて本格的にやばいと直感する。五条先生はヒューって口笛を鳴らすし、恵くんはキスしてる間もジッと私見てる。ちょっと怖いです。
『ま、待って、分かった、分かったから、恵くんしか見ないから…、』
離れてくれたけど、額は合わされたままで少しでも動けば唇が重なってしまいそうだった。
『恵、くん、』
震える声で呼ぶと、五条先生が恵くんの頭をパシリと叩くから歯がガチンとぶつかって唇が合わさった。多分、口の端切れた。痛かった。
『んぐっ、』
「いっ、」
「イチャイチャするなら僕帰るからね〜」
ゆっくりと唇を離して唇を抑えるとやっぱり少しだけ血がついていた。大きな舌打ちを零すと、恵くんが私の傷口に優しく触れた。
「………」
『……なんでちょっと嬉しそうなの?』
ジト目で恵くんを睨むと髪がかけられて、触れるだけのキスが落とされた。瞼を開くと恵くんが嬉しそうに目を細めていた。
「俺がつけた傷だと思ったら愛着が湧く」
『……………』
素直になり過ぎではないでしょうか。呪術のせいで恵くんが可笑しくなってしまった。
『で、でも、五条先生のせいで傷ができたわけで…』
「………あ?」
『え、怖っ…』
「……………」
恵くんは私の傷を穴が開くほど睨むと、無表情で端的に言った。
「監禁させて欲しい」
『嫌だよ…!?』
「傷が治るまででいいから」
『譲歩してやった感出すのやめて…!?』
「……名前」
『そっ、そんな可愛い顔しても駄目だよ!』
眉を下げて悲しそうな顔をした恵くんに負けず答えると返ってきたのは舌打ちだった。元ヤン怖い…。
「苗字先輩ここに居たんですね」
『え?』
教室の扉が開かれて顔を向けると後輩の男の子が立っていた。
「これから任務なんですけど…」
『そうだ!任務行かないと!』
「下で補助監督さんが待ってます!」
『うん!すぐ行くね!』
走って消えた後輩の後に続く為に足に力を入れると、腕が引かれて、いつの間にか椅子に腰を下ろした恵くんの膝の上に居た。
「……名前、」
『なに?これから任務が…』
「好きだ」
『……へ?』
「愛してる。誰よりも」
『め、恵くん?』
私よ頬にキスを落としながら、角砂糖なんかよりも余っ程甘い声で愛を紡ぐ恵くんに目を見開く。
『めっ、恵くんっ、』
「愛してる、…好きだ、」
『ど、どうしたのっ、』
額にキスをした恵くんは、ちぅ、と鳴らして唇を重ねると首筋に吸い付いた。
「一緒に居たい。離れたくねぇ」
『ま、待って、』
「俺から離れるな、」
『恵くんっ、』
「俺の声しか聞こえなくなればいいのに」
『ちょっ、と、待って、』
「他の奴なんか目に入らないように閉じ込めてぇ…」
耳元で吐息を絡ませて恵くんは言葉を紡いだ。
「俺だけのものにしたい」
『っ、恵くんっ、』
「……愛してる」
甘すぎる言葉に限界が来て恵くんの胸元に手を置いて距離を取ると、ポカンとした顔の恵くんと視線が交わった。
『………恵くん?』
「………忘れろ」
『……もしかして、…呪術解けた?』
「いいから忘れろ」
恥ずかしいのか耳を赤く染めた恵くんは私の肩口に額を当てて顔を隠してしまった。さっきとは打って変わって可愛い反応に笑みが零れた。
『恵くんも甘えたい願望あるんだね』
「うるせぇ…」
『でも良かった!呪術のせいで可笑しなこと言ってたもん』
「可笑しなこと?」
顔を上げて首を傾げる恵くんに、さっきまでの雰囲気は無くて言葉を続ける。
『監禁したいとか、閉じ込めたいとか』
「いや、それは本心」
『…………』
真顔でそう言った恵くんにピシッと固まった。……甚爾さん、貴方の息子さんはどうやらイカれている様です…。
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