リクエスト消化 | ナノ

エイプリルフールandキレる五条悟







『……私がとっておいたプリン食べたでしょ』

「え?冷蔵庫にあった賞味期限ギリギリのやつ?」

『そう』

「食べたよ。だって賞味期限今日までだったし」

『はァ?私のなんだけど』

「だって前からあったよ?」

『でも私の家の冷蔵庫に入ってた私のプリン』

「でも安いやつでしょ?今度買ってきてあげるよ」







∴∴





『ってことがあったんです!どう思います!?』

「まぁアイツが悪いな」

『ですよね!?』






昨日あった話を硝子さんに愚痴ると彼女は私の味方をしてくれた。やっぱり私は悪くない。だって私の家だし。私の買ってきたプリンだし。





『しかも安いやつでしょって言葉要らなくないですか?』

「呼吸するように人を貶すからな。無意識に」

『それが腹立つ!安いプリン美味しいでしょ!安くて美味しいなら安くていいでしょ!クソボンボン!!』

「荒れてるな」

『荒れますよ!ただでさえ最近の仕事は忙しいのに!楽しみを奪われたんですよ!?』

「なら仕返しでもしてみたらどうだ?」

『…硝子さんは私に死ねと?』

「違う。今日は何の日か覚えてないのか?」

『………今日?』





たしか今日は4月1日だった気がする。…でも今日何かあったっけ?





『んー?』

「エイプリルフールだよ」

『エイプリル、フール…、』




硝子さんはニヤリと悪どく笑うから私もつられるように口角を上げた。






∴∴






『……ちょっと、話あるんだけど』

「んー?なぁに?」




4月1日の夜、私が部屋で寛いでいると五条悟はいつものようにピッキングで家に侵入してきた。真面目な顔をした私を見て首を傾げながらも五条悟は私の前に腰を下ろした。






『…………別れて欲しい』

「……………………は、」

『私と、別れて欲しい』

「………理由は?」

『……悟のことが、嫌いになったから、』






静かに言葉を吐くと、五条悟はサラリと髪を揺らして目隠しを取った。でも瞳を見る勇気が無くて視線は机の上から動かせない。





「…………本気で、別れたいの」

『……………うん、』

「………嫌いになったから」

『………うん、』





五条悟は低くそう言うと、立ち上がって目隠しをもう一度するとゆっくりと言葉を吐いた。





「………分かった。僕の事嫌いなのに引き止めても仕方ないしね」

『…………え、』

「じゃあね」

『…………………』

「……痛っ、………………あだっ、………っ、」

『…………あの、…大丈夫?』





そう言って五条悟は玄関を目指すけど何処が足取りがフラフラしてるから何度も頭を壁にぶつけてる。しかも結構な勢いで。流石に心配になって立ち上がり体を支える。





『酔ってるの…?』

「……うるさぁぁあああぁい!やさしくするなよぉおぉぉおおお!!」

『いやうるさいのアンタ!アパートなんだから静かにしてよ!』

「触るなよぉおぉぉおお!!放っとけよぉぉおおぉぉ!!」

『ちょっ!まじ静かにして!!』

「嫌だあぁぁあああぁぁぁ!!ばーか!ばーーか!!」





床に寝転んでバタバタと涙を流しながら暴れる五条悟に慌ててしゃがみ込んで声をかける。寝転んだせいで前髪が流れておでこが見えたけど、ぶつけたせいで凄く赤くなってた。






『本当にお願い!静かにして!苦情くるから!』

「なんで別れるのぉおぉお!?なんでぇぇええ!?」

『話す!話すから!』

「嫌だ!!聞かないッ!!!」

『どっちだよ!!』






五条悟の上体をどうにか起こして背中をポンポンと宥める様に叩く。すると体が抱きしめられて苦しい程腕に力が込められる。






「…なんで、別れるとか言うの…。僕のどこが嫌い?どこが嫌?」

『………人のプリン食べるところ』

「ごめん、…だから嫌いにならないで、ちゃんと新しいの買ってくるから、」

『あと自分がシたい時に何がなんでもシようとするところ』

「…だって、…………ごめん、」

『それに私が他の男の人と任務の時にその男の人脅すところ。あと私の家の家具とかちょっとずつ悟の家に運んでるでしょ』

「………一緒に居たいんだもん」

『だからって私の家の物を勝手に運ぶな』

「……………はい、」






元気なく返事する五条悟に深く溜息を吐くと体が離れて顔が覗き込まれた。目隠しは下にズレて綺麗な瞳が私を映していた。






「…全部直すから、……だから別れるって言わないで。……嫌いって言わないで」

『……自分で言うのもなんだけど私にそこまでしてもらう魅力ないと思うんだけど』

「…………仕方ないじゃん、……好きなんだもん」





子供のようにそう言う五条悟の瞳には薄く膜が張っていた。ちょこんと私の服の袖を掴むても計算じゃないのが腹立つ。綺麗な顔しやがって。





『…………ごめん。私も言い過ぎた』

「…………僕も、…ごめん」

『流石に冗談でも言っていいことと悪い事があるよね』

「…………………………冗談?」

『あ、やべ』





ポロリと漏れた言葉に五条悟はピクリと体を揺らすと、ゆっくりと立ち上がって私を見下ろした。






「………冗談って、…どういうこと?」

『いや、あの…、今日って4月1日じゃないですか?…だから、…………てへっ』

「………なるほどねぇ〜?エイプリルフールってことね。ふーん…」

『ご、五条先生っ、顔怖いよ?ほらっ、笑って〜?』

「まんまと名前の罠にハマっちゃったなぁ〜?」





瞳孔と目を見開きながら口角を上げる五条悟の笑顔はホラーだった。私は冷や汗を流しながらどうにか怒りを沈めるために策を練る。





『でっ、でも、プリン食べたのは悟だし?…ね?お相子ってことで!』

「それは素直に謝るけど…、でも人にはやっていい事と悪い事があるよね?人を傷つける嘘はついちゃダメですよって先生に言われなかった〜?」

『わっ、私は聞いた事なかったのかも…』

「なら先生≠ナある僕が教えてあげるからね〜?そのカラダに」

『そっ、そんな同人誌みたいな…』

「さぁてと、お勉強の時間だよ。名前」







硝子さんの策に乗ると何にもいい事がない事を学びました。嘘はよくないですね。







∴∴∴∴


∴五条悟が結構酷いことを言います∴




「……………」

『…………』





機嫌が悪い。…いや私じゃなくて五条悟の。どうせまた上層部に絡まれたんだろう。






『………悟、』

「………なんだよ」

『ココア飲む?』

「要らねぇ」





本格的に機嫌が悪い。どうしようか。でも帰る気もないみたいだし。でもこのまま帰しても困るのは伊地知くんだろう。それは可哀想だ。






『……上層部なんて相手にしてもいい事ないでしょ』

「俺だってしたくてしてたわけじゃねぇ」

『いつもみたく適当に話聞いてたら終わるんじゃない?』

「それでも突っかかってくるんだよ」

『とりあえず寝ちゃお。寝て忘れよう』

「そんな気分じゃない」

『でも疲れてるでしょ?』

「さっきからうるせぇ」






どうしよう。凄いムカつく。人がせっかく気を使ってやったのに。元々人を慰めるとか得意じゃないんだよ。特に五条悟に対しては。





『ほら、乙骨くんだっけ?強くなってるんでしょ?上層部も黙らせられるって』

「俺だって黙らせることは出来るっつーの」

『もう少しの辛抱だよ』

「知った口聞くなよ。補助監督が」

『…………は?』

「何にも知らねぇくせに知ったような事言うなよ」

『……分からないなりに力になろうとしてんじゃん』

「それがうぜぇんだよ」

『…………私だって、好きで弱いわけじゃ』

「弱いから補助監督なんだろ。いいよな。上層部に絡まれることなくて」

『…なんでそんな事言われないといけないわけ』

「オマエが余計な事言ってきたんだろ」

『余計な事って酷くない』






苛立った様に言葉を強くして言う五条悟に私もイライラが募った。私だって好きで弱いわけじゃない。強くなれるならなりたかった。強ければたくさん守れた。




『……なんで、そんなこと言うの』

「ホントのことだろ。弱くて役にも立たなくて補助監督としてだって大したことねぇし」

『……………』

「その上顔も性格も可愛げなくて俺が疲れてんのに気も遣えねぇじゃん」

『……気遣って、声掛けてんじゃん、』

「知ったような事口振りなのが腹立つ」

『………』

黙りだんまりかよ。面倒くせぇな」

『………………ッ、』

「…………………は、…何泣いて、」

『もういい、…死ねばか』






涙を拭って何も持たずに家を出る。部屋着だったから少し寒かったけどそんな事気にしてられるほどの余裕は無かった。





『………………』

「………苗字?」





硝子さんは多分高専だし、すぐに居場所がバレる。だから私は建人くんの家を訪れた。





「………とりあえず上がってください」

『ごめん…』






私の様子に気付いたのか建人くんは家にあげてくれた。するとミルクティーを出してくれた。温かいやつ。しかも香りからしてちゃんと高いやつだ。




「五条さんと何かありました?」

『………喧嘩、…かも』

「……まぁ、五条さんが原因でしょうね」





グッと唇を噛んで涙を耐えているとタオルが差し出されて顔を押し付ける。ふわふわだ。建人くん一人暮らしなのに。





『……私、この業界、辞めようかな』

「……私に止める権利はないですから」

『…………………もう、…どうしたらいいか、分かんない、』






らしくもなくポツリと漏れた本音に余計に涙が溢れた。だって、もうどうしたらいいか分かんない。





「何を言われたから分かりませんが五条さんだって本気で思ってるわけじゃないでしょう」

『どうだろう…、私は一般家庭出の呪術師だったし、今だってただの補助監督。……御三家とか、上層部とか、分かんない。……分かってあげられない』

「………あの人は別に理解して欲しいわけじゃないと思います」

『でも、分かりたいじゃん。好きな人の事くらい…。私だって、少しでも理解出来るように頑張ったよ。調べたよ。…でも、結局はただの人間だから。特別でもなければ、ただの呪力が少しあるだけの一般人だし』





建人くんが出してくれたミルクティーを口に含むとやっぱりいい茶葉ですごく美味しくて体から力が抜けた。





『……明日から建人くんの任務ついて行っていい?』

「……………今回だけですから」

『…ありがとう』





建人くんは私を泊めてくれるみたいで、布団を貸してくれた。ちゃんと部屋も分けてくれる辺り、やっぱり紳士だ。





「あれ?苗字さんとナナミンだ!」

「…その呼び方はやめて下さい」

「え?なんで可愛くない?」

『建人くんをそう呼べるの虎杖くんくらいだよ』





数日間、建人くんの任務に補助監督としてついて行き、報告書を書く為に高専内を建人くんと歩いていると虎杖くんに声をかけられて立ち止まる。他にも伏黒くんと釘崎さんも居た。仲がいいようで微笑ましい。






「苗字さん」

『ん?伏黒くんどうしたの?』

「最近五条先生と会ってますか?」

『………どうして?』

「そうそう!五条先生!苗字さん何か知らねぇ?」

「最近の五条先生、元気ないみたいなのよねぇ」

『……そうなんだ。…ごめんね、分からないや』






苦笑を浮かべながら答えると3人は小さく頷いて、そっか、と答えた。





『報告書書かないといけないから行くね』

「おっす!引き止めてすんませんした!」





3人に頭を軽く下げて足を進める。すると建人くんは急ぎの任務が入ったのか来た道を引き返していた。





『…………よし、これで終わり』






最後に報告書を印刷してグーっと背筋を伸ばす。建人くんとの任務は端的だから楽だ。






「名前」

『………………』





後ろから名前を呼ばれてビシリと固まる。この声は五条悟だ。振り返りたくない。どうしたものかと頭を捻っているとこちらに近付く音がして慌てて立ち上がる。






『……………』

「名前、話くらい聞いてよ」







そのまま隣を通り過ぎて無言のまま廊下を歩く。それでも五条悟は私の後をついてくるから足を早める。






「あ!五条先生ー!家入さんが探してたよー!」







まだ校舎に残っていた虎杖くんが五条悟に声をかけていた。私はそんな虎杖くんの背中に隠れる。そして隣にいた伏黒くんと釘崎さんも盾にする。






「え?え?どったの?」

「……また五条先生が何かしたんだろ」






伏黒くんの呆れた様な声に心の中で肯定する。ふたりは背が高くて隠れやすい。






「…名前、話くらいさせて」

『………………』

「……本格的にヤバいやつじゃない?大丈夫?」

「何したのよ」

「探したんだぞ」

「あ、家入さん」







硝子さんの声が聞こえて1年生ふたりの背中から顔を少しだけ出すと五条悟が私を見ている気がしたからすぐにまた隠れた。





「なに。また喧嘩?」

「そうみたいっすねぇ」

「今度は何言われたわけ?」





硝子さんは私の隣に来ると少し呆れたように眉を下げていた。私は小さくボソボソと伝えると1年生にも聞こえてしまったのか驚いた様な声があげられた。




「えー!?先生それは酷い!」

「それはあんまりです」

「男が女泣かせるんじゃないわよ」

「どうせ機嫌悪くて名前に当たったんだろ」





生徒達に詰め寄られる五条悟は珍しく戸惑っている様だった。私は硝子さんの背中に隠れると1年生3人に正座をさせられている五条悟が見えた。流石に自分が悪いって分かってるから素直に頷いていた。





「女の子は誰だって優しくされるのが好きなのよ!」

「じいちゃんも女の子には優しくしろって言ってた!」

「子供じゃないんですから苗字さんに当たらないで下さい」

「…………はい、…すみませんでした」






しょげた様に謝る五条悟を硝子さんの背中から覗き込む。するとゆっくりと顔を上げた五条悟と視線が交わった。





「………名前、」






生徒達に責められるのは流石に堪えたのか五条悟の瞳には涙が浮かんでいた。仕方なく溜息を吐いて近付くと腕を伸ばされた。





「反省しなさい!」

「そうだそうだ!」

「それまで苗字さんに接触禁止令発令!」

「えぇ!?待ってよ野薔薇!それは流石に…!既に4日間話せも触れもしてないんだよ…!?」

「問答無用!」

「自業自得ですね」

「名前〜…」





眉を下げて寂しそうに手を伸ばす五条悟の手を避けて少しだけ眉を寄せる。




『今回は流石に傷ついたから反省して』

「………はい、…ごめんなさい」






それから1週間、1年生3人が私の周りを固めてくれていたから無事、接触禁止命令は守られた。でも禁止命令が解けた瞬間、小さい子供のように謝る五条悟に絆されてしまっている私も随分と甘いな、なんて感じた。





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