高専の五条悟が現れる
「あっクソ雑魚の名前」
『…あ?』
「…なんか老けたな?」
職員室を開けて中に入るなり五条悟にそう言われた。老けたってなんだ。精神年齢は小学生にしても実年齢はオマエの方が上だろ。
『……てか何で高専の制服なんて着てるの?コスプレ?サングラスまでして…。………イタいよ?』
「は?…オマエの方こそなんでスーツなんか着てんだよ。……あ、遂に弱すぎて補助監督になった?ププー」
意味がわからない。遂に頭がおかしくなったか?いや、前から頭おかしかったな。今に始まった事じゃないか。
「名前ー!愛しの悟くんだよー!」
『……は?』
職員室の扉が開かれて顔を向けると五条悟の声がした。扉には目隠しをして真っ暗な服に身を包んだ五条悟が居た。
『…ついに影分身を覚えたのか。だが火影の道まではまだまだ長いぞ』
「あれ?何で僕が居るの?」
「は?僕?…きっしょ」
「わー、若いねぇ。肌も髪質も10代だ」
何故か飲み込みの早い五条悟は高専の制服を着た五条悟の髪をいじっていた。…紛らわしい!
『なに?また呪詛師の術にでもかかったの?本当にオマエ最強か?』
「任務に行ってないからかかってないし、僕が術にかかる時はわざとだよ。面白そうだからね」
「つーか何で名前がスーツ着てんだよ」
「雑魚過ぎて補助監督になったから」
「は?まじで?本当雑魚だな」
『…五条悟が2倍になると殺意も2倍だわ』
右手を握りしめて震えていると、五条悟に抱きしめられた。そして頬擦りをされて頬が物理的に熱くなる。
『ファンデ崩れる!』
「化粧してなくても名前は可愛いよっ」
『うるせぇ!思っても無いこと言うな!』
「ていうかさ化粧してるけど誰に可愛く見られたいわけ?僕以外に媚び売る必要なくない?」
『社会人のマナーだよ!』
五条悟の頬に手をついて押し退けると、高専の五条悟が驚いた様に目を見開いていた。
『どうした?ご自慢のお目目が落ちそうだけど』
「……オマエらなに?どういう関係?」
「え〜?なになにー?気になっちゃう〜?」
デレデレと話す五条悟にイラついてビンタするけど、無下限で防がれた。鼻につく。
「僕達〜、ラブラブな恋人だよ〜」
「…は?…恋人?」
『……………』
「え、…マジで言ってんの?」
否定しない私に高専の五条悟は信じられないという顔をしていた。私だって未だに信じられないのだから仕方ない。
「…………付き合ってんだ?」
『…不本意ながら?』
「はー!?不本意!?はァー!?」
『耳元でうるせぇ!』
しがみついて大声を出す五条悟にカッターを向けると腕を掴まれた。そのまま抜き取られ手を繋がれる。
「………ふーん、付き合ってんだ」
『………』
「へぇー、…ふーん、」
嬉しそう。見るからに嬉しそうな顔してる。シッポがあれば多分ぶんぶん振ってる。無表情を貫いてるつもりなんだろうけど周りに花が咲いてる。こんなに分かりやすい奴だったか?なんか、ちょっと、
『…………可愛い』
「はぁぁぁあああん!?なに!?浮気!?僕と浮気!?やっぱり若い方がいいの!?僕を捨てるの!?僕を捨てて俺にいくの!?なら僕だってそうするけど!?俺って言うけど!?」
『だからうるせぇ!!』
「僕の方が名前の事喜ばせられるし!悦ばせられるし!夜だって満足させられるし!」
『何の話してんだオマエは!!』
私の頬を掴んで顔を寄せようとする五条悟の顔に両手をついてグググと押し返す。すると五条悟は大きく舌打ちをして高専の五条悟に向き返った。
「ねぇ、」
「なんだよ」
「名前とセックスした?」
『………は?』
「は?」
「名前とエッチしたかって聞いてんの」
「は、はァ!?するわけねぇだろ!」
無表情で質問をする五条悟に対して高専の事は顔を真っ赤に染めてキレ始めていた。
「ヤってないって事は2年生くらいか。つーかなんで童貞みたいな反応してんの?ダッサ」
「童貞じゃねぇし!」
「知ってるよ。夜な夜な名前をオカズにして抜いてるのも知ってるし」
「は、はァ…!?」
『……オマエそれ自分の性癖暴露してるの気づいてる?』
「結構凄い妄想してるよね。我ながら若かったな〜」
「ーッ!」
『………………ねぇ、私帰っていい?』
誰がそんな話を聞きたいのか。さっさと退場したい。なのに五条悟が私の手を掴んでるから無理。本当に離して欲しい。
「でも僕達は付き合ってるからいつでもできるんだけどね〜、ねぇ〜?」
『ねぇ?じゃねぇよ。過去の自分いじめて楽しいか?』
「だって名前が可愛いなんて言うから」
『面倒くせぇなオマエ』
相手するのが面倒になり、疲れたから近くにあった椅子に腰を下ろすと何故かピッタリとくっつくように五条悟も座った。近すぎて椅子の足がガンガン当たってんだよ。
『近い。邪魔』
「…本当にそれで付き合ってんのかよ」
「付き合ってるよ。…あ、見る?昨日僕が付けた噛み跡」
『誰が見せるか馬鹿』
「確かに。僕以外が見るのはムカつくな。やっぱり見ないで」
「………いつ、付き合ったんだよ」
「僕達の話聞きたい!?いいよー!」
『良くねぇよ』
何故か机を挟んで高専の五条悟も座って、三者面談の様になった。…意味が分からん。
「どこから聞きたい?初めてのセックス?」
『オマエまじ死ねよ』
「ちなみに名前が好きなのは耳元で言葉責めしながらナカを突かれること。クッソ締まるよ」
『オマエまじ死んでくれよ。頼むから』
「……へー、」
『オマエもへーじゃねぇ。なに真面目に聞いてんだよ』
何だこの地獄絵図は。ふたりして私を殺しにかかってんのか?羞恥で死ぬぞ。私が。
「付き合ったのいつ?」
「数ヶ月前かな」
「……数ヶ月前?……俺って今何歳?」
「28だよ!」
「…28…!?あと10年以上かかんのかよ!」
『私の方を見るな。私は悪くない』
「それまでに名前の体を開発しておきな?他の男じゃ満足出来ないように」
『真面目そうな顔してヤバいこと言ってるからな?オマエ』
ふと高専の五条悟を見ると眉を寄せて深く息を吐いていた。それを見て率直な感想を述べる。
『本当に高専の時から私の事好きだったんだ』
「え?信じてなかったの?」
「……別に、好きとかじゃねぇし」
『………童貞か?』
「違ぇっつってんだろ!」
こう見ると今の五条悟より高専の時の方が可愛げがある。そんな事を思いながら高専の五条悟を見つめていると目の前に目隠しをした五条悟が現れて悲鳴をあげる。
『ひぎゃぁ!?』
「見すぎ。浮気なんだけど」
『オッ、オマエ!突然目の前に顔出すなよ!』
「ねぇ名前知ってる?浮気って浮ついた気持ちって書くんだよ?気持ちが浮ついた時点で浮気って事だよ?」
『うるせぇし面倒くせぇな!本当に!』
「浮ついてるでしょ?ねぇ。今浮ついてるでしょ?」
いつにも増して面倒臭い五条悟に段々苛立ってきた。しかも無表情で言ってくるのが怖い。
『何で今日こんなに面倒臭いんだよ!』
「浮気するからでしょー!?」
『してないし!適当な事言うな!』
私の体に腕を回して顔を寄せてくる五条悟を必死に引き剥がす。すると高専の五条悟が立ち上がって教室を出て行こうとしていた。
『え、は?どこ行くの!?』
「暇だから探検」
『しない方がいい!しない方がいいって!』
2年生ということはきっと彼の中では傑先輩も雄くんもまだ生きてるってことだ。いずれ知る事になっても、それは今じゃない。
『ちょ、ちょっと待って!………んぎゃ!?』
「……………は?」
五条悟の拘束から抜け出して、高専の制服を掴んだと思ったらコケた。そのせいで高専の五条悟に突っ込んでしまった。流石の五条悟も突然の事で驚いたのか一緒に地面に倒れ込むと、何故か唇に痛みと柔らかさを感じた。
『……………』
「……………」
「……何か言い残した事は…?」
『…………事故です』
顔が笑っているのにそれが逆に怖い。とにかく五条悟を刺激しないように高専の五条悟の上から退く。すると高専の五条悟もゆっくり体を起こしたようだった。
『…本当に事故です』
「遺言はそれでいいんだな」
『殺される…』
「殺すわけないでしょ。殺さずに監禁だよ」
『ひえぇぇ…』
光の無い目でそう言う五条悟から視線を逸らして、高専の五条悟をチラリと見ると顔が真っ赤になっていた。
『………え、』
「……………」
初心過ぎる反応に目を見開くと母性本能に似た感情が爆発して胸がキュってした。それがバレたのか五条悟に片手で頭を掴まれて力を入れられた。
『いだだだだ!!』
「気持ちが浮ついたら浮気って言ったよなぁ?キスまでしやがって」
『だからそれは事故!!』
「まず言うことがあるだろ」
『すみませんでしたァ!!』
素直に謝ると五条悟は大きく舌打ちをして高専の五条悟に頭突きをしていた。すると高専の五条悟は倒れて気を失ったようだった。
『待て!話し合おう!』
ジリジリと近づく五条悟を必死に説得する。でも聞く耳を持たない五条悟は私の後頭部に手を回すと容赦なく頭突きをかました。そこからの記憶がない。
∴∴∴
『…………ん、』
「お、起きたか」
『硝子さん?』
目が覚めると硝子さんが私の顔を覗き込んでいた。頭が追いつかずに混乱していると硝子さんが説明をしてくれた。
「貧血で倒れたんだよ。大丈夫か?」
『………貧血で?』
ということは全て私の夢だったってこと?それなら全ての辻褄が合う。
『良かったぁぁああ…』
監禁ルートにいかなかった事に安堵していると医務室の扉が開かれる音がして顔を向ける。
「何が良かったのかな〜?名前ちゃ〜ん?」
『…………』
黒い笑みを浮かべる五条悟に冷や汗がたらりと流れた。だってさっきのは夢だったはず。…え、夢だよね?そう願いながら視線をキョロキョロと泳がせると五条悟は私の前に椅子を移動させて腰を下ろした。
「高専時代の僕は時間が経って消えたよ」
『……そ、そっか』
小さく頷くと五条悟は深く溜息を吐いて少し項垂れたようだった。
「……相手が自分でも、結構へこむんだけど」
『………でも、本当に事故で、』
「分かってるけど…、」
らしくないほど声を落とす五条悟に罪悪感が募る。でも確かに私だって自分とはいえ、他の人とキスしていたら嫌な気持ちになる。
『……悟、』
「なに、」
顔を上げた五条悟の唇にキスをすると、五条悟は驚いた様に小さく声を上げていた。
『…私が好きなのは、悟だから、』
「………………ほんと、…はぁぁ…、」
五条悟はそう言って俯くとゆっくりと私の体を抱きしめた。私も素直に五条悟の背中に腕を回す。
「…次に他の男とキスしたら本気で監禁するから」
『気をつけます……』
今回の事は私の不注意もあったから真摯に受け止めよう。それにしおらしい五条悟を少し可愛いと思ってしまったのは内緒だ。
「イチャイチャするなら出て行ってくれる?」
『す、すみません…』
「イチャイチャするから出て行きマース」
少しだけいつもの調子に戻ったのか五条悟はそう言って私の体を抱き上げると足で扉を開けて部屋を出た。
「まぁとりあえず今から名前が誰のものなのか分からせてあげないとね」
『……許してくれたんじゃないの』
「僕、一言も許すなんて言ってないよ?」
『……』
そう言って五条悟はにっこりと笑って低く唸った。
「言ったでしょ?浮ついた時点で浮気だって」
『……………すんませんした』
「だーめ。絶対に許さない」
そう言った五条悟に私は明日出勤することを諦めた。
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