高専時代 五条視点
∴虫が出てきます。苦手な方は閲覧をお控え下さい
「あ、悟見てみなよ」
「あー?」
桜が散ってうぜぇな、って思いながら外を眺めてると傑がそう言って窓の下を指さした。椅子から立ち上がって覗き見るとどこかで見たガキが高専の制服に身を包んでいた。
「去年の夏頃に行った任務先に居た子だね」
「へー。本当に高専きたんだな」
「悟が来ればって言ったんだろう」
「だって傑の呪霊見てチビってたガキだろ?絶対死ぬだろ」
「…女性にそういう事を言うのは感心しないな」
「はァ?女性って…、あんなのガキだろ」
傑のポジショントークが始まりそうになってイライラし始めた時、教室の扉が開かれて硝子が現れた。
「今から1年と顔合わせだってさ」
「ダッル!」
「………でも行くんだ?珍しいじゃん」
「向こうが俺に会いたいだろうしな〜」
席を立ち上がって中庭に向かうと3人の1年がいた。男ふたりに女ひとり。あいわらずすげぇ雑魚だなぁ。
「よっ!本当に高専来たのかよ」
『…………アンタ』
「うぉっ!オマエカッター常備してんの?やべぇ奴じゃん!」
『ぎゃぁっ!?』
振り下ろされたカッターを避け、突っ込んできたコイツの足を引っ掛けて転ばせて背中に座ると汚い声が出た。本っ当に弱い。
『重たい!退いて!』
「オマエより贅肉少なくて軽いっつの」
『デリカシーないな!退いて!クソ野郎!』
「……………」
最初は面白い反応するなと思った。高専でここまでオーバーリアクションの奴いなかったし、こんなに弱いやつも居なかった。
「名前〜」
『…………なに』
「なに警戒してんだよ〜」
1年の教室に乗り込んで後ろで隠している手を名前の前に出す。如何にも警戒してますって顔をしている名前の右手を無理矢理取ってその上にボトボトと落とす。
『………いぎゃぁあぁあ!!』
「ぶっは!!」
変な声を出して体を固まらせる名前を指さして爆笑する。手のひらには大量のダンゴムシとミミズがうねうねと動いていた。
『………しっ、信じられない…、』
「あー、面白かった!じゃあなー」
『二度と来んなッ!!!』
顔を青くしながら怒鳴るのが面白くて何度か虫を変えて実行した。けど回数を重ねるにつれて名前の反応はつまらなくなって来て他にも色んな事をした。
「名前ー!見ろよー!」
『は?絶対に嫌』
「夏といえば蚊!」
『…………は?』
俺の後ろには人間の10倍近くデカい蚊がいた。名前も自分の前に影が差して顔を上げて見たようだった。
「今からオマエの血を吸わせっから」
『……………硝子せんぱぁぁあああぁぁあい!!助けてぇぇぇぇぇぇええ!!』
「ぎゃはは!!」
半分尻もちを付きながら逃げる名前が面白くて追いかけ回した。けど途中で傑が来て戻された。そのせいで傑の呪霊だってバレたし。
「秋ってなんだろうな〜。どうやって揶揄ってやろうかな〜」
「あまり虐めすぎるなよ。本当に嫌われるよ」
「はー?なんでそんなこと傑に言われないといけねぇんだよ」
「弱いものいじめは良くないからだよ」
「誰が強いやついじめんだよ」
「あ、ここに居たクズども」
「あ、硝子だー」
教室で次にどうやって名前を揶揄うか考えていると硝子が煙草を吸いながら入ってきた。教室だけどな。
「そういえば妙に硝子はアイツに懐かれてるよな」
「なに?羨ましいの」
「はァ?なんでだよ」
「最近は歌姫さんにも懐いてるよ。口調も似てきてるし」
「歌姫も弱いじゃん」
「強いから懐くってもんでもないでしょ」
硝子はそう言いながら窓を開けて煙を吐いていた。すると下を見て手を振っているから覗き込むと名前が笑みを浮かべて硝子に手を振っていた。……俺にはあんな風に笑わねぇくせに。
「あ、悟を見た瞬間の顔見た?嫌そうな顔」
「はァ〜?アイツ本当生意気」
「そういえば知ってるかい?悟」
「何が?」
傑も下を覗き込んで俺を見ずに口を開いた。風で前髪が揺れて変な前髪だなって思った。
「名前って意外と人気あるんだよ」
「人気ィ?」
「優しいし気は利くし、呪術界に居るにしては普通の感性を持ってるからね。…それに見た目も可愛らしいしね」
「……あれが、可愛い…?」
あれのどこが可愛いだ?刃物振り回してるイカれた女だろ。傑の女の趣味はよくわかんねぇな。
「一個言っておくけど、名前が可愛げ無いのはアンタの前だけだよ」
「は?なんでだよ」
「まぁあれだけの事をしておけばね。嫌われるのも当然だよ」
「なに。ジジイとババア殺ったことなら傑だってそうだろ」
「そのあとの話だよ。高専に来てからいじめているだろ?」
「可愛がってやってんだよ」
せっかく俺が可愛がってやってんのに俺にだけ懐かない名前に腹が立って次は靴箱にダンゴムシでも入れとくか、と思いついた。すると硝子が制服から携帯灰皿を取り出して煙草を消した。
「名前を狙ってる男って結構いるんだよ。だからいつまでもその調子じゃ他の男に取られるよ」
「………取られるってなんだよ」
「だってアンタ名前が好きなんじゃないの?」
硝子の言葉に頭が真っ白になった。好きってなんだよ。俺が?あの女を?あの雑魚過ぎる女を?
「そういえば最近悟、遊ぶこと減ったね」
「前まで好き勝手に女連れ回してたのに?」
「そう。最近は全員似た雰囲気の子と遊んでるみたいだよ」
「へー。どんな?」
「気が強そうな感じで口が少し悪い感じの。あと身長は大体これくらいで髪の長さもここくらいかな」
「名前じゃん。むしろよく探してくるな」
好き勝手に俺の女事情を暴露している傑に腹は立ったけど今はそれどころじゃなかった。いや、そんなわけない。それに女だって…。……そういや最近は似たような女と遊んでたかも。女と遊んでも勃ちが悪いなと思うことが増えた。……いやいや、違ぇだろ。無い無い。俺があんなちんちくりんに惚れてるなんて。
「………悟、顔赤いよ」
「病院行けよ。頭の」
「ばっ、バッカじゃねぇの!?俺があんな雑魚でちんちくりんな奴を好きとか!」
「…小学生みたいな反応をするなよ」
「は、はァ!?してねぇし!傑こそ好きなんじゃねぇの!?」
「……本物の小学生だわ」
「これで隠せていると思ってるのが凄いな」
意味わかんねぇ。好きなわけねぇし。あんなブス。秋に入ったばかりのせいか急に暑くなってパタパタと制服を扇ぐ。地球温暖化か?
∴∴
「あ、名前」
「は?」
任務終わりに傑と寒すぎるからコンビニに寄ろうと言って向かっていると不意に傑がそう言った。
「ほら」
「アイツ何やってんだ?」
「……あ、男」
「……は…?」
ひとりで居たはずの名前の元に男が走り寄って来てふたりで数言交わすと歩き出した。
「一般人かな?仲良さそうだね」
「………………」
「悟…?」
ズカズカと近寄って名前の肩に腕を回して体重をかける。すると俺に気づかなかったのかコイツは驚いた様に声を上げていた。
『ヒィッ!』
「よォ、何してんの〜?」
『五条悟…!』
「一丁前に男引っ掛けてんの?オマエが〜?」
『違うし!離せ!』
「嫌がってますよ」
「……あ゛?」
紳士ぶった様な口ぶりに腹が立って睨むと男はどこが傑に少し似ていた。いい子ちゃんぶってるっつーか、ポジショントークが好きそう感じ。
「つーかオマエ誰だよ。パンピーが知ったような口聞いてんじゃねぇよ」
「パンピー…?」
『ちょっ、変な事言わないで!』
男を庇うコイツにも腹が立って舌打ちが漏れる。すると傑が顔を出して胡散臭い笑みを浮かべた。
「すまないね。このままじゃ拗らせた悟が暴れだしそうだから彼女は回収させてもらうね」
『え…!?傑先輩!?』
「ほら、行こうか」
男の方に向いて中指を立てると名前にキレられた。意味わかんねぇ。なんでオマエが庇ってんだよ。…クソ腹立つ。
∴∴∴
「あれ名前じゃない?」
「どれ?」
高専4年になって硝子と街を歩いていると不意にそう言われ顔を向けると、見知らぬ男と一緒に居る名前を見つけた。
「殴るなよ」
「もち」
硝子の言葉に頷いてふたりにダッシュで近づく。足音で気付いたのか名前が振り返ったけどそのまま体にしがみつく。
「名前!誰よその男!俺というものがありながら浮気!?」
『何!?はぁ!?』
「昨日だってあんなに愛を誓い合ったじゃない!」
俺が首を左右に振って涙を流すと硝子も煙草を消したのか両手で名前の体にしがみついた。
「私の体をあれだけ好き勝手に遊んだくせに…!」
『硝子先輩まで…!?』
「あんなに熱い夜を過ごしたのに俺の事は遊びだったのね…!?」
『んぎぁあ!今お腹のお肉掴んだだろ!』
怒り狂った名前の制服の首元をペラリと捲って昨日、いや今日の明け方に付けた噛み跡とキスマを男に見せる。
「これは俺の。ここにかいてあんだろーが」
舌を出して中指を立てながらそう言うと男は逃げ出した。美人局くらいには思われたかもな。ざまーみろ。
『何なんですか!?まじで!』
「よっし。腹減ったら飯行こうぜ。名前の奢りで」
『っざけんな!…ッ、』
大声が出したせいで腰に痛みが走ったのか名前は老人の様に腰を摩っていた。俺のせいでもあるから摩ってやると手を叩かれた。本当に可愛げが無い。こんなやつのどこがいいのか俺には理解できなかった。
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