助けた男性が夢主に惚れるand日常の伏黒視点
『あっ、恵くんおはよう』
「はよ」
朝飯の為に食堂に向かうと丁度、名前も食いに来た所の様だった。そのままふたりで朝飯を食っていると虎杖や釘崎も合流してそのまま4人で教室に向かった。
『そういえば野薔薇が好きだって言ってた芸人さんが昨日テレビに出てたよ』
「は?いつ?」
『昨日の夜9時の番組だったかな…?』
名前は未だにクセが抜けないのかこうしてたまに人が好きだと言っていた物もチェックする。昨日の夜も俺の部屋で映画を見ていたのに21時になるなりテレビを変えた。
『確かにあの芸人さん面白いね!』
「でしょ?やっぱり私の目に狂いはなかった」
『それに顔もかっこよかった』
名前の言葉にピキリと目尻が揺れた。そんな事思いながら見てたのかよ。さっさと映画に戻せばよかった。
「そういえばこの間風呂の中で宿儺が出てきて軽く溺れてたんだけどさぁ」
「へー」
虎杖の話に適当に相槌を打ちながら聞き流すと釘崎は名前に言葉を続けていた。
「なに?名前ってああいう顔が好きなの?」
『好きっていうか…、単純にかっこいいなぁって』
「だから好きなんでしょ」
『んー…そうなのかなぁ』
違う。断じて違う。好きなわけじゃないだろ。名前のかっこいいはただのお世辞だ。好きとかじゃない。
「それで宿儺が溺れてさー、めっちゃキレてんの。俺のせいじゃねぇのに」
「へー」
「酷くね?勝手に溺れて水飲んだのにさぁ」
「へー」
つーか虎杖うるせぇ。
∴∴
「それでここの文法はこっちね」
午前最後の授業は五条先生だった。チラリと名前を盗み見ると真面目に授業を受けているようだったが、多分あの顔は腹が減ってるって顔だ。それに最近はそうでも無いが、前までは家ですることが無かったから勉強をしていたと言っていた。だから授業を聞いてなくても大して困らないんだろう。
「はい、次の問題恵答えてー」
「Bです」
「ちゃっかり正解するんだよねぇ。名前の事見てるのもいいけどちゃんと授業聞いてね」
「聞いてます」
『……あんまり見られると恥ずかしいなぁ』
照れてるのか名前は頬を掻きながら薄らと頬を染めていた。…心臓が止まるかと思った。
「先生、俺これからAED持ち歩きます」
「へー、それじゃあ次の問題ね」
また名前に視線を移すと瞳が交わって嬉しそうに瞳が細められた。………閉じ込めてぇな。
∴∴
「…もしもし、どうかしたか?」
『あ、恵くん』
任務に行っている名前の帰りを待っていると電話がかかってきて出る。すると申し訳なさそうな声がして首を傾げる。
『任務で怪我人が出ちゃって…、今から病院について行くから夜ご飯間に合わないかも…』
「名前は怪我ないのか?」
『うん。私は全然大丈夫なんだけど…。ごめんね。先にご飯食べてて』
「わかった。どこの病院だ?迎え行く」
『え?いや、ご飯を先に食べててって電話で、』
「どこの病院だ?」
『……高専が支援してる、』
「あぁ、あそこか。わかった」
電話を切って病院を目指す為に上着を羽織って高専を出る。思ったより近くて助かった。
「名前」
『…え!?恵くん!?早くない!?』
病院に辿り着いて探いていると意外にもあっさり見つかった。それは良かった。けど問題はその隣だ。
「…誰だそいつ」
『任務先で怪我しちゃった人で…』
「は、初めまして」
名前の隣には大学生くらいの頭に包帯を巻いた男が立っていた。名前の腕を取って自分の後ろに隠すと腕を叩かれた。
『私これからこの人送っていかないといけないから…』
「は?なんで」
『だって呪霊に襲われたばかりだし…。伊地知さんは五条先生に呼びたされて高専に戻っちゃったから』
「…………」
チラリと視線だけを男に送ると、やはりその男は名前を見つめていた。それに腹が立って隠すように体を動かす。
「なら俺も行く」
『え?でも…』
「行く」
『あ、うん、…ありがとう、』
そして3人で病院を出て夜道を歩く。正直あの男が名前の隣を歩いているのも気に入らない。
『田中さんはどこの大学に通ってるんですか?』
「都内の美術大学に…」
『えっ!?凄い!美術大学って色々あるんですよね?絵とか彫刻とか…』
「あとは工芸とか建築とかもあります」
『沢山あるんですねぇ…、すみません、私よく分かってなくて…』
「いえ!沢山ありすぎですよね…。僕も全部は分かってないんです」
話す必要はあるのか。送っていけばいいんじゃないのか。ならタクシーでも何でもあるだろ。つーかいちいち話すのに相手をの目を見るな。聞くな。喋るな。
「…名前、」
『田中さんはどこの学部なんですか?』
「自分は日本画を…」
『絵上手な人って憧れちゃいます…、私絵心無くて…』
そう言って恥ずかしそうに頬を染めた名前を見て男は頬を緩めていた。ふざけんな。勝手に見んじゃねぇ。
「あ、ここです」
『今日はすみませんでした』
「いえ!僕がデッサンのためにあんな廃ビルに居たのが原因ですから…」
「本当にな」
『恵くん…!』
本当の事だろ。なのに名前は責めるように俺の腕を軽く叩くから仕方なく口を噤む。
「…今度お礼がしたいのですが」
「結構です。お大事に。失礼します」
『ちょ、ちょっと、恵くん!?』
名前の腕を掴んで去ろうとすると男は意外にも引き下がらないのか声を少し上げた。
「あの!お名前と学校を…!」
「山田花子 ハーバード大学 以上」
『えぇ…!?』
せっかく俺が代わりに答えたのに名前は訂正して自分が高専生であると伝えてしまった。…余計な事を。
『私!苗字っていいます!東京都立呪術高等専門学校の2年です!あの!お礼とか本当に大丈夫ですから!』
「フリじゃねぇからな。マジで要らねぇからな」
名前のこういう所が苦手だ。誰にでも分け隔てなく接して自分の沼にハメていく。それが善人であるための無意識の行動だとしても、俺の腹の中は真っ黒に染る。
∴∴
「あれ?伏黒の次は名前が浮気?ついに愛想尽かされた?」
「違ぇよ」
「あ、本当だ!苗字が門で知らない男の人と密会してる!」
「密会じゃねぇ」
教室で席に腰を下ろしながら門を見下ろしていると余計なふたりが大声で騒ぎ始めた。本当にうるせぇなコイツら。
「まぁアンタも女と会ってたことあるんだから邪魔できないわよね」
「…うるせぇよ」
「だからこうして静かに見てんでしょ?じゃなきゃバーサーカーのアンタが許すわけないもんね」
門で話すふたりを見下ろしながら片耳で釘崎の言葉を聞き流す。かれこれ話し始めてから8分26秒経ってる。それだけの時間があの野郎に邪魔されてる。本当なら俺が名前と話せていたはずなのに。
「でもいい人そうじゃない。年上っぽいし顔もまぁまぁ」
「はァ?」
「だってその通りでしょ?」
「………」
名前しか見てなかったから相手の男の顔なんて知らねぇし。そう思いながら顔を向けると男が名前の肩に触れていた。
「待てー!待て伏黒!ここ3階よ!?」
「…ワンチャン伏黒なら…」
「虎杖!アンタもこの馬鹿止めるの手伝え!」
窓枠に足をかけて降りようとした時、釘崎に制服を掴まれて止められる。いける。このくらいの高さなら難無く降りられる。降りてあの男を処せる。
「やばい!コイツまじで行く気だ!」
「伏黒ー!とどまれー!」
釘崎と虎杖の声が下まで届いたのか名前がこっちを見て手を振っていた。その手を振り返すと釘崎が声を荒らげた。
「何穏やかな顔して手振ってんのよ!自分の状況分かってんの!?窓枠に足かけてんだぞ!」
「顔は優しいのに力が尋常じゃねぇ!」
『恵くーん!』
名前は右手を振りながら声を大にしてこっちに向かって叫んでいた。
『夜ご飯ー!ハンバーグと唐揚げ食べたーい!』
「わかった!」
晩飯はハンバーグと唐揚げに決まった。名前は男に向き返って数言交わすと手を振って男と別れたようだった。
『ただいまー、っとぉ!?』
戻ってきた名前を抱き寄せて肩を払う。名前は首を傾げていたけど気にせずに汚れを払う。
「連絡先でも交換したの?」
『え?連絡先?』
「ただありがとうって言いに来たわけじゃないんでしょ?」
『ありがとうございましたっていうのと今度時間があればご飯でもって』
「ナンパじゃない」
『えー?違うよ〜』
名前は釘崎の言葉に笑みを浮かべていたが、俺は鞄からマスクとサングラスを取り出して名前に付ける。すると名前は不思議そうに首を傾げていた。
『…え、…えっと…?』
「次からこの格好で任務に行け」
『…マスクとサングラス?』
「そう」
『なんで…?』
「顔が見えないように」
『顔というか、不審者では…?』
首を傾げている名前を抱き寄せて背中をリズムよく叩くと胸元が叩かれてマスクをズラして唇を重ねる。
『キスして欲しかったわけじゃないよ!なんでマスクとサングラス!?』
「害虫防止の為」
『害虫防止…!?』
「あと耳栓もある」
『五感を奪う気…!?』
「見ざる聞かざる言わざるって言うだろ」
『何の話…!?』
「伏黒って名前が関わると途端に頭悪くなるわよね」
「伏黒って俺より馬鹿だよな」
意味わからねぇことを言っている釘崎と虎杖を無視して名前を連れて食堂を目指した。そして次の日も現れた男に、名前を隠すようにしながら睨むと現れなくなった。そんな程度で諦めるくらいなら最初から来るな。つーか見るな。惚れるな。近づくな。
「フンッ」
「フンッ…じゃないわよ。なに一般人に殺気向けてんのよ」
『どうして恵くんは満足気なの…』
俺が鼻を鳴らすと何故か釘崎に殴られた。意味がわからねぇ。
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