伏黒or狗巻に嫉妬する五条悟
「……え?」
『ん?』
「…ごめん、よく聞こえなかった。もう一回言って?」
『だから、今度同期3人とお出かけするよって』
「4人で…?」
『うん。4人で』
悟の家で雑誌を読みながらダラダラとしていると私を後ろから抱え込むように座っていた悟が固まってしまった。まぁ、いつもの発作かなと思いながらお出かけに向けてファッション雑誌に目を通す。
「……よにん?だんじょ、よにん…?」
『TDL行こうかって話してるの』
「……てぃー、でぃー、える?」
『虎杖くんと釘崎さんがまだ行ったことないみたい』
「……だんじょに、たい、にで、てぃー、でぃー、える?」
『だからそうだってば』
最近の子の服装は凄いなぁ。私が小さい時は着物しか無かったからオシャレが楽しくて仕方ない。私は弱いからあんまりお金ないからやりくりが大変だけど。その日、何故か悟はずっと無心のままだった。
∴∴
「明日!明日何時に待ち合わせする!?俺すげぇ楽しみ!」
「あれでしょ!?TDLって朝6時から並ぶんでしょ!?」
『それは早過ぎないかな?』
「普通に9時とかでいいだろ」
『私も小さい頃に一度行っただけだから楽しみだなぁ』
「伏黒!TDLにケンタッキーあるってまじ!?」
「…誰情報だよ」
明日のTDLに向けて放課後の教室の中、4人で予定を立てていると五条先生がジーッと教壇からこちらを見ていた。でも3人は気づいていないのかスルーしていた。……多分、伏黒くんは気づいてる。気づいてて無視してる。
「苗字は何乗りたい!?」
『そうだなぁ…、』
「私これがいい!写真撮れるなら一石二鳥じゃない!?」
「オマエら少しは落ち着けよ。遠足前の小学生かよ」
『伏黒くんは何回か行ったことあるの?』
「いや無い」
「はァ!?じゃあ伏黒も俺達と一緒でTDL初心者!?」
「なに知ってるぶってんのよ!」
「してねぇよ」
何冊もある旅行雑誌の中でTDL特集を開いて伏黒くんに見せると、彼は少し体を前に倒して覗き込んでくれた。
『これとか乗ってみたくない?』
「あー、オマエ好きそうだよな」
『うん、意外と好き』
「僕の方が名前のこと好きだけどね」
「…………」
『…………』
私達の間に顔をヌッと出した五条先生は無表情のままそう言った。しかも伏黒くんに圧をかけてる。伏黒くんがうぜぇ…って顔してる。
「名前」
『は、はい』
「他の男に好きは言っちゃ駄目じゃない?」
『いや、あの、言ったのはアトラクションで、』
「駄目だよね?」
『…駄目です』
目隠しをズラして圧をかけながらそう言う五条先生に冷や汗を流しながら頷く。すると先生は伏黒くんに肩を組んだ。
「恵もさ〜、名前が僕のだって分かってるよね〜?」
「面倒くせぇ…」
「なのに近くない?距離近くない?なに?狙ってんの?僕の名前狙ってんの?」
「狙ってねぇよ」
「打っちゃうよ?赫打っちゃうよ?」
「規模がデケェんだよ!」
青筋を浮かべた伏黒くんは鬱陶しそうに先生の腕を払うと私を睨んだ。
『…え?私…?』
「苗字が甘やかすからこんなことになってんだろ!」
『えぇ…!?』
「はァ…?なに名前を責めてんの?朝でも夜でも名前を責めていいの僕だけなんだけど。僕だけの特権なんだけど?」
「面倒くせぇな!!」
伏黒くんは立ち上がると大きく舌打ちをして教室を出て行ってしまった。本格的に怒ってたなぁ。
「ねぇ〜…、名前〜」
『近いです五条先生』
「恵居ないし、いいじゃん」
『虎杖くんと釘崎さんがいます』
「ふたりは理解があるから大丈夫!」
「何も大丈夫じゃないわよ」
『大丈夫じゃないそうです先生』
「………」
そう言うと五条先生は無言になって私の袖を掴むと目隠しを下にズラしてキュルンと瞳を輝かせて首を傾げた。
「…名前とイチャイチャしたいな?」
『前はツンツンしてたのに可愛くなるからギャップでやられてましたけど、最近は慣れました』
「……………じゃあどーすればいいんだよぉおぉ!」
「泣きわめく大人って不気味ね」
バタバタと暴れる五条先生を無視してパーク内で回る順番を決めているといつの間にか五条先生は居なくなっていた。
∴∴
『いつまで不貞腐れてるの〜?』
「名前が冷たい…、せっかく恋人になれたのに…、名前は僕の事好きじゃないんでしょ…、どうせ恋人になれて嬉しかったのは僕だけなんでしょ…」
『いじけ方が面倒臭いし、恋人じゃありません』
「じゃあ何よ!あなたは恋人じゃない人にもキスさせるの!?私とは遊びだったのね!?」
『キスさせるのって…、悟が勝手にしてくるだけじゃん…』
「何よもう!じゃあいいわよ!私だって浮気してやる!」
『誰と?』
「このくじら星人!クジーンと!」
『それ私が水族館で買ってきた人形』
「この人と浮気しちゃうんだから!」
『そっか。お幸せに』
「止めなさいよぉおおぉお!!」
『どうした?情緒不安定か?』
そう叫びながら私の体にしがみつく悟に半分疲れていると、不意に唇が重ねられる。
「……そんなに隙だらけだからキスされちゃうんだよ」
『した本人が言うこと?』
「明日本当に恵達と出かけるの〜?」
『出かけますよ〜』
「男女4人ってダブルデートじゃんか〜」
『同期の交流会です〜』
「僕とちゃんとしたデートした事ないのに〜」
『先生と生徒が出かけることはデートとは言いません〜』
「………」
ふざけ口調でそう言っていると悟が黙るから顔を覗き込む。すると顔を見られたくないのか悟は三角座りをしていじけてしまった。
『悟くんはどうしたのかな〜?』
「……恋人が冷たくて寂しい」
『…………最近は慣れてきたと思ったけど、本当にキャラが違いすぎて風邪ひきそうだよ』
「僕は嫌?」
『嫌じゃないけど、あれだけ反抗的だった子が丸くなってたら驚くでしょ』
「でも僕に感謝すべきだと思うよ」
『え〜?なんで?』
悟の言葉に笑いながら聞き返すと腕を掴まれて床に押し倒される。当然の事に目を見開くとゆっくりと唇が合わされて舌が絡め取られる。最後に唇を噛まれて離れると悟は小さく笑みを浮かべて言った。
「俺のままだったら恵の前で舌入れてキスして、明日出かけるなんて言われたら抱き潰して行けないようにしてたから」
『……………結構マジにヤキモチ妬いちゃってる?』
「結構マジに妬いちゃってる」
そう言って悟は私の首筋に吸い付くと何度か繰り返して体を離すと、私の腕を取って立たせてくれた。
「名前が男女関係なく距離が近いのは知ってるけど、もう少し考えて」
『……気をつけます』
「うん。いいこ」
髪を撫でる悟に少し恥ずかしくなって顔を背けると、続けて悟は口を開いた。
「僕だって無理矢理縛り付けることはしたくないからね」
『……ん?』
「本当ならこの部屋に監禁したいけど名前はまだ15歳だし、そんな訳にもいかないから我慢してるんだよ?」
『………ん〜?』
「学業は疎かにさせるわけにはいかないし…。僕個人としては誰の目にも触れさせたくないんだよねぇ」
『…………』
「…楽しみだねぇ?卒業するの。あと3年かぁ…」
瞳孔を開いてうへへ〜とヨダレを垂らして楽しそうにしている悟から距離を取って布団に丸まった。やばい。前世の許嫁が私が死んだのがトラウマになって壊れてる。
「やっほー!」
『……ごめんね、』
そして次の日のTDLも当然のように悟がついてきた。
← 戻る →