リクエスト消化 | ナノ

酷いことを言ってからの仲直り






凄くイライラする。別に何かがあったわけじゃない。誰にムカつくとか、何にムカつくとかじゃない。毎月この時期は理由も無くとにかくイライラする。




『…チッ…、予定日まであと2日か、』




スマホの生理周期管理アプリを見て小さく舌打ちを零す。毎月毎月なんなんだ。体は進化しないのか。痛みを感じなくはならないのか。イライラしなくならないのか。頼むから体よ、進化してくれ。




『…………お腹減った』





そしてこの空腹感。何でお腹は減るんだ。意味がわからん。さっき食べただろ。食べたのに腹減るな。自分がキレてる意味も分からん。





「…………」





無言で私の部屋に入ってきた五条悟を睨み上げるとわざわざ目隠しをズラされて睨み返された。その事にも腹が立った。





「は?何睨んでんの」

『無言で入ってくるなよ』

「いつもじゃん」

『だから止めろって言ってんじゃん』

「…僕がイラついてるの分からない?」

『イライラしてんのが自分だけだと思うなよ』






多分タイミングが悪かったんだ。何やかんや五条悟の機嫌が悪ければ私がどうにかするし、私の機嫌が悪ければ五条悟が宥める。なのに今日は両方の機嫌が悪かった。






「…マジうぜぇな」

『は?こっちのセリフだよ。上層部に絡まれたからって私に当たるなよ。ガキかよ』

「あ?オマエこそ苛立って暴食ってデブかよ」

『…は?』

「見た目も中身も可愛げねぇし」

『アンタだって見た目がちょっと良いだけのクソ野郎でしょ』

「俺の場合はオマエと違って見た目も中身も術式もぜーんぶが最高なんだよ」

『はァ〜?中身が最高〜?最低の間違いでしょ?中身が最高なのは建人くんとか傑先輩の事をいうんだよバーカ』

「……あ?」





低く唸る五条悟に舌打ちをすると、五条悟は眉を寄せてガラ悪く口を大きく開いて言った。





「…本っ当に可愛げねぇな。俺だってオマエみたいな可愛げねぇ女タイプじゃねぇし」

『……私だって、オマエみたいな男タイプじゃねぇし』

「まだ歌姫の方が可愛げあるわ」






そう言って鼻で笑う五条悟に唇を噛む。五条悟はドカドカと足音を鳴らしながら私の家から出て行った。




『………そんなの、私が一番知ってるっつーの、』




∴∴





『…………もしもし、伊地知くん?』

「大丈夫ですか!?声が死にそうですよ!?」

『軽い体調不良で、…ちょっと、休み貰っていいかな…、』

「分かりました!苗字さんの仕事は私が進めておきます」

『…ごめん、…今度、伊地知くんの分、肩代わりするから…』

「気にしないでください。では、お大事に」





電話を切って布団に潜り込む。生理休暇なんて初めて使った。こんなに重いの初めてなんだけど。まじしんどい。今まで生理大した事ねーじゃん、なんて思っててごめんなさい。土下座します。なので助けてください。





『…………やばい、…三十路近いババアが泣きそう』






お腹が痛いのは当たり前なんだけど、何か泣きそう。痛すぎて。私いつの間に針飲み込んだの?子宮がまじクソ痛いんだけど。息するのもしんどい。なんだこれ。しかもメンタル弱くなりすぎまる。





『…………寝ろ、今は寝ろ、頼むから、寝てくれ』





そう自分に暗示をかけても目は覚めるし、痛すぎて眠れない。冷や汗もかいてきて体も震えてる。西野カナかよ。痛すぎて震えとる。





『…………薬飲んだのにぃ〜…、』




薬って万能なんじゃないの?これ飲んだ意味ある?飲んでこの痛みなの?飲まなかったら死んでるやつじゃん。必死の痛みのことを忘れるためにどうでもいいこと考えてるけど駄目だこれ。





『………馬鹿、……どうにかしてよ、…クソ野郎』





小さく呟いても痛みは消えなくて必死に瞼を閉じて時間をやり過ごす。するといつの間にか意識は消えていた。





∴∴





『…………あっつ、』





いつの間にか眠っていて暑さで目を覚ます。寝る前まではあんなに震えてたのに。痛みから震えてただけだけど。それにそんなに布団をかけてないのに暑いわけが無い。瞼をゆっくり持ち上げて顔を上に向けると見知った顔があった。






『…………オマエかよ』





私を抱えて眠っている五条悟に小さく舌打ちをする。そして体を少し離してスマホを確認すると17時を回っていた。何時間寝てるんだよ私。体に巻き付いている五条悟の腕を退かしてベッドから降りると涼しくてちょうどいい位だった。チラリと私が寝ていた場所を見ると湯たんぽが置かれていた。しかもカイロも。……いや、カイロは危ないだろ。





『そりゃ暑いわ…』





溜息を吐いて晩ご飯を作る為に冷蔵庫を開けると、ぎっしりとケーキやジュース、高級チョコレートや私の好きなお酒まで入っていて目を見開く。





『…最後の晩餐か?ついに死ぬのかアイツ』





アイツが食べないであろう苦めのチョコレートや高級お菓子が入っていて小さく笑う。金遣い荒すぎるし分かりずらい。すると後ろからペタリと足音がして振り返ると、ガシガシと居心地が悪そうに寝癖のついた髪を掻く五条悟が立っていた。





「…………」

『…なに?あの湯たんぽ。私を囲むように10個近く置いてあったんだけど。何かの儀式?暑さで私を殺す気か?』

「………違ぇよ」

『しかも寝るのにカイロは危ないでしょ』

「……短時間だし、いけると思って、」

『なんで湯たんぽとカイロのダブル攻撃』

「…硝子に聞いたら、体温めるのがいいって、」




拗ねたように唇を尖らさながら答える五条悟に子供かよと思いながら小さく笑って肩を落とす。





『で?このお菓子の山は?任務の合間にわざわざ買ってきたの?』

「買ってきた…」

『自分は食べないのに?』

「…………うん」




小さく頷いた五条悟に吹き出すと苦虫を噛み潰したような顔で私を睨んでいた。その顔に笑うと抱きしめられたからまた笑った。





『あー、面白っ…、』

「……機嫌直ったかよ」

『悟くんのおかげでね』

「そりゃ良かったデスネ」




素直にたった一言ごめんで終わる喧嘩なのに、謝り方が不器用すぎる。そこが可愛いと思ってしまっている私は末期かもしれない。






『私ひとりじゃ食べきれないから一緒に食べてよ』

「………それ苦いから嫌だ」

『ココア入れるから』

「……………………分かった」





小さく承諾した五条悟の背中に腕を回すと痛いくらい抱きしめられてバシバシと背中を叩く。私も悪いとは思うけど謝るのは癪だから言わない。




『とりあえず夜ご飯か』

「肉がいい」

『あー、何にも買い物してきてないから卵かけご飯』

「えー!」

『それかアンタの金でウーバー』

「そうしよう」





さっきまでとは打って変わって楽しそうに声を弾ませる五条悟に呆れて小さく息を吐く。本当に子供だ。




「ねぇ名前」

『なに?』

「僕と一緒に住まない?」

『え、アンタと同棲とか喧嘩する未来しか見えないから嫌』




その後また喧嘩が勃発した事は言うまでもない。





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