リクエスト消化 | ナノ

五条悟の浮気を疑う






『聞いてよ、伊地知くん…』

「は、はい」




苗字さんにご飯に誘われついて行くと、彼女は低い声を出してお酒を煽った。




『……五条悟が浮気してる』

「………え?」

『前まで暇さえあれば私の家にピッキングして入り浸ってたのに最近は全くない』

「ピッ、ピッキング…?」

『硝子さんの所に行っても先回りされてることも無い』

「さ、先回り…?」

『すれ違いにナイフで斬りかかっても気付きもしない』

「ナ、ナイフ…?」





最近の恋人というのはこんなにバイオレンスなのか。出てきた言葉に頭が混乱する。けれど苗字さんは気にせず言葉を続けた。




『しかも女物の香水の匂いがした!』

「香水、ですか…」

『確かにアイツは元々下半身が本体のクソ野郎だけど!高専の時から女連れてた下半身野郎だけど!』

「は、はぁ…?」

『でも今は一応彼女なわけでしょ!?それで浮気ってどうなの!?……いや!どうでもいいけど!気にしてないけど!』





そう言った名前さんの顔は鬼のように歪んでいた。女性は浮気をされたらこうなるのか…?





『……なんか話したらムカついてきた』

「も、もうお酒は止めておいた方が…」

『テキーラ!ショットでお願いします!』

「えぇ…!?」




運ばれてきたテキーラを苗字さんは一口で飲み干すとガンッと大きな音を立てて机に置いた。目が据わっている。




『別に全然気にしてないけど、ムカつくから五条悟の足の小指の爪から剥がしていく事にした』

「拷問…!?」

『その後は手の爪。最後にあの男の息子を思いっきり蹴りあげて不能にする』

「ッ…!」




想像して寒気が背中に走った。五条さんの味方をする訳では無いが、それはやめてあげて欲しい。





「苗字さんが止めてと言えば、あの五条さんは止めるのでは?」

『あの男がそんな生易しい男に見える?クズの中のクズ。トップオブクズの五条悟だよ?』

「…………」




じゃあ何で苗字さんは五条さんと付き合ってるんだろうか…。そう疑問に思いながらチビチビとお酒を啜る。





『あー!ムカつく!しかもめっちゃいい香水の匂いしたし!ドルガバか!?ドルガバなのか!?瑛人か!?』

「苗字さん声が大きいです…!」

『ムカつく!私だって香水付ければいいんでしょ!?あーはいはい!わかりましたよ!つけますよ!付けた後にオマエの腸を引きずり出すからな!』

「それは殺してます…」




苗字さんそう叫ぶと机に突っ伏して眠ってしまった。五条さんを呼ぶべきなのだろうか。それとも大人な七海さんを呼ぶべきなのか…。迷っていると携帯が鳴り、相手を確認すると五条さんだった。




「はい、伊地知です」

「名前迎え行くから待っててー」

「え?」

「名前潰れたでしょ?」

「そうですけど…」

「じゃ、待ってて」





そう言って電話は切れた。首を傾げながら残ったおかずを食べていると扉が開かれた。




「お疲れサマンサー!」

「お、お疲れ様です」

「お、いたいた。見事に潰れてるねぇ」





五条さんは苗字さんの隣に腰を下ろして、残ったおかずを摘んだ。ちゃっかり苗字さんのお箸を使う辺り、流石だ。





「どうしてここが分かったんですか?」

「ん?だって名前に発信機つけてるから」

「………え?」

「今で言うGPSだよ」

「それは分かりますけど…、…え?」





五条さんはゴソゴソと苗字さんの鞄を漁り、財布を取り出すとその中から1枚のカードを取り出した。




「これ僕が特注で頼んだクレジットカード。名前には高い物を買う時はこれで買っていいよって言ってあるの」

「はぁ…?」

「んでこのICチップに超小型発信機が組み込まれてる。財布なら何処に行くにしても持って行くでしょ?」

「……………なるほど?」

「名前ってば馬鹿だからさ、僕がただ優しさでクレジットカード渡したと思ってんの。馬鹿だよねー」






そう言って五条さんはゲラゲラと笑っていた。こんな人が本当に浮気をするのだろうか。





「苗字さんが五条さんの浮気を疑っていましたよ」

「あ、やっぱりー?」

「やっぱりって…」

「いやー、楽しみだなぁ〜」





五条さんは自分の財布からお金を取り出して机に置き、苗字さんを抱えると鞄を持って立ち上がった。




「これで払っといて。僕は帰るから」

「え、こんなに…」

「じゃあねー」




出て行ってしまった五条さんをポカンと見送り、意外と上手くいってるんだなぁ、と心の中で安堵した。




∴∴∴





「失礼します」





苗字さんと飲みに行った数日後、苗字さんに用事があり職員室に居ると他の方に聞いて訪ねてみると五条さんの膝の上に座り、苗字さんが机に突っ伏して眠っていた。




「あれ?伊地知?どうしたの?」

「この間の報告書に少し不備があったのですが…、急ぎでは無いのでまた今度にします。眠っているようですし」

「え?名前なら寝てないよ」

「え…、でも、」





よく見ると彼女は片腕を枕にして顔を埋めているが、もう片手はナイフを掴み机に突き刺していた。更にその上から五条さんの手のひらが重ねられ、まるで押さえ付けられているようだった。すると五条さんが恥ずかしげもなく信じられない発言をした。





「名前なら今僕とセックスしてるから起きてるよ」

「…………は?」

「ね?名前」

『ッ、』





五条さんが少し腰を動かすと苗字さんの体がビクリと揺れて小さな息が聞こえた。苗字さんはナイフを握った手に力を込めているのかナイフが刺さった机が音を立てていた。




『こっ、ろすっ!…絶対っ、殺すっ!』

「えー?こわーい」

「いや、あの…、」

「名前ってばまんまと罠にハマっての〜。馬鹿だね〜」

『ぁ、…ンッ、しねっ、』

「香水付けて女と外歩いてるところ見せたら凄い怒っちゃってさ〜」

『ッ…、ァ、ころすっ、今度こそっ、まじでっ、』

「僕が会いに行かなくて寂しかった〜?寂しかったからわざと通りすがりの時にナイフで刺そうとしたんだよね〜。僕が気付かないわけないのにさ」

『ンッ、…ぁ、…しねっ!』

「あの女だってただのナンパされてただけだったのに。怒っちゃって可愛い〜」




五条さんは楽しそうに笑って話していたが、苗字さんはナイフを掴んだ手にギリギリと力を込めていた。





「えっと、私はこれで失礼します…」

「え?いいよ。話しなよ。名前も仕事の話なんだからちゃんと話聞かないと」

『うっさいっ、…ッ、…死ねっ、頼むからっ!』

「さっきまで嫉妬しちゃって可愛かったのに〜!怒ってるフリして泣きそうになってたじゃ〜ん!」

『なってな、いッ、ンッ、』




いつもでは考えられないような甘い声を出す五条さんに鳥肌が立った。けれどそれがバレたらビンタされそうだから必死に隠す。





「ほら、話聞いてあげないと伊地知帰れないよ?」

「きゅ、急用ではないので、」






そう言って急いで職員室を出ると中からは小さくはない声が漏れていて足早に立ち去る。どうして苗字さんはあの人がいいんだろうか…。





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