リクエスト消化 | ナノ

頑張る夢主






『………まずいですよ、野薔薇さん』

「また伏黒絡みだろうけど…、なに?」

『見てください。これを』





野薔薇の部屋でダラダラ過ごしていた休日。野薔薇の雑誌を読んでいると衝撃的な文字が私の脳を揺らした。





「男に甘えすぎる女はフラれる?」

『その下も読んでください』

「全ての行動を男性に任せて流れのままに任せる女性は飽きられる?」

『……………まずいですよ。これは由々しき事態です。このままでは私は恵くんに捨てられてしまいます』

「それは大変ねー」

『野薔薇!?ちゃんと聞いて!?』





野薔薇は雑誌をポイッと捨てるとベッドの上に寝転んだ。話を聞いてください。私にとってはこれ以上ない緊急事態だ。ゴジラが攻めてきた時よりも緊急事態。




『どうしよう…』

「名前信者の伏黒よ?ないない」

『そんなの分からないよ!』





恵くんに突然、オマエつまんねぇ、とか言われたら泣く。号泣する自信しかない。高専を半壊にするじゃ済まない。いや、本当にはしないけど…。





「まぁ確かに名前っていつも受け身な感じよね」

『や、やっぱり?』

「肉食系の雑誌貸してあげる」




そう言って渡されたのはギャル雑誌だった。懐かしい。買ったことは無いけどコンビニで見たことがある。野薔薇もギャル雑誌とか読むんだなぁ。





「これ見て勉強しなさい」

『ありがとう!』





本を胸の前で大事に抱えて立ち上がり部屋に戻る。これで恵くんをメロメロにしてみせる!





「…………苗字、今日どったの?」

「アンタあの雑誌のどの部分真似してんのよ」

『……え、違うの?』





次の日、私はスカートを短くしてルーズソックスを履いてみた。私もこれは違うんじゃ無いかなって思ってた。だって私の足を見た所で誰も得しない。





『…………やっぱりメイクも必要だった?』

「そういう事じゃない馬鹿」

「これ大丈夫?伏黒キレない?」

『え…、怒られるほどヤバいの?』





オマエなんかが足出してんじゃねぇ!って…?確かに細くないや…。東堂先輩が太鼓判を押すお尻だし…。着替えよう。





『着替えてくる…』

「何やってんだ」

『あ、恵くん』





教室の扉に手をかけようとした時、勝手に扉が開かれて顔を上げると恵くんが丁度教室に来たようだった。そのまま恵くんは視線を下におろすと上着を脱いで私の腰に巻いた。





『あの、恵くん…?』

「スカート折ってんのか」

『あ、うん。そう…』

「下ろせ」

『はい……』





怒られた。恵くんの制服を少しズラして折っていたスカートを元に戻す。落ち込んでいると野薔薇が机に肘をついて頬杖をしながら口を開いた。




「お父さんかよ。娘に過多な露出させたくないオヤジかよ」

「短くする意味がねぇだろ」

「可愛いでしょーが」

「名前は出さなくてもいいんだよ」




出しても出さなくても可愛くないって事ですか…。いや、分かってましたけど。野薔薇は頬杖をしたままじゃかじゃかとじゃがりこを食べていた。




「名前、雑誌に載ってたやつやりなさいよ」

『載ってたやつ…?』

「これで彼もイチコロ!ってやつ」

「オマエまた名前に変な事教えただろ」

「私は雑誌貸しただけ」

『……あ!あれか!』





昨日読んだ所に野薔薇が言ってたやつがあった。私が近付くと恵くんは少し警戒した様に眉を寄せた。そんな恵くんの腕を両手で組む。そのまま見上げる。今日もかっこいい。





『テールランプで愛してるって言って?』

「チョイスが古いのよ」

「それ伏黒意味わかんの?」

「……外車買って来いってことか」

「スケールがデカすぎるし、名前への貢ぎ方が半端なさ過ぎて引く」





違ったか…。恵くんから離れて右手を顎に当てて考え込む。流れのままに任せる女性は飽きられる…。





『走ろうか!?恵くんと逆に!』

「は?」

「意味は分からないけど絶対に違うわよ」

『流れに逆らう的な!』

「名前ー、いつまで遊んでるの?授業始めるよ」

『ちょっと走ってきます!今から逆らってきます!』

「風に?今日は風ないから無理だよ。はい席ついて」




五条先生に呆れた顔された…。全国のカップルは凄いなぁ。ぜひご教授を願いたい…。



∴∴





『………』




来てしまった。ひとりで下着屋さんに。いや、それは普通のことだけど、私が今日買いに来た下着は普通のでは無い。





『……………これは、つけてる意味、あるの?』





いやらしい下着を買いに来たのだ。でも思ったよりも刺激が凄い。本当にこれをつけるの?それとも普通の面積の下着で派手なのを選ぶべきなの?どれが正解なの?どれが正しいの?どれが下着なの?




『……………私には無理かも、』




そんな弱音を吐いて、昨日の雑誌を思い出す。ここで諦めちゃ駄目だ。今頑張るのと、恵くんに捨てられるの、どっちが嫌だと問われたら迷わず後者だ。




『よし!』

「それは無いだろ」

『え?でもこれが一番面積無いよ?』

「つける意味ねぇだろ」

『やっぱりそうだよねぇ…、………ん?』






顔を横に向けると恵くんが立っていた。…あれ。今日ってふたりで買い物来てたっけ?いや、ひとりだった筈だ。というかふたりで来てても下着屋さんは入らなくない?…あれ?…あれれ〜?おっかしいぞ〜?





『め、恵くん、ど、どうしてここに…?』

「名前がまた面倒臭いこと考えてるって、釘崎が」

『め、面倒臭いこと…』

「しかも出かける時は声かけろって言っただろ」

『まだお昼だしひとりでもいいかなって、』

「だとしても連絡は入れろ」

『…………恵くん』

「なんだよ」

『なんで私がここに居るって分かったの?』






そう聞くと恵くんは真面目な顔でジッと私を見つめてくるから見つめ返す。すると恵くんは口を開いた。





「これなんかいいんじゃねぇの」

『見ないで手に取ったし、それパジャマだよ恵くん』

「そういう事だ」

『どういう事かな』

「んで今度はなに面倒臭いこと考えてんだよ?」

『……話逸らしたね』






恵くんは手に取ったパジャマを戻すと、溜息を吐いた。そんなどうでも良さそうにしないで欲しい。私にとっては死活問題なんだから。





『……雑誌で、』

「また雑誌かよ。オマエは周りに流されすぎ」

『だって…、』

「俺に聞けばいいだろ」

『……聞いて面倒臭いって言われたら嫌だ』

「確かに面倒臭い」

『酷いっ…!』





恵くんはハッキリそう答えると、私の髪を耳にかけて親指で頬を撫でた。






「でも名前の話なら聞く」

『………面倒臭いのに?』

「面倒臭いのに」

『ちゃんと聞いてくれる?』

「聞かなかったことあるか?」

『…………ない』

「だろ」





恵くんは私の唇を親指でなぞりながら柔らかく笑った。





「なにで悩んでんだよ」

『……雑誌に男性に甘えすぎる女性は飽きられるって』

「そんなに甘えてねぇだろ」

『男性任せは良くないって』

「それで…、」

『ちょっ、ちょっとでも恵くんが喜んでくれたらなって思って…!別に、し、したくて買いに来たわけじゃないから!違うからね!』

「そこまで言ってねぇだろ…」





恵くんは呆れたように眉を下げるとポンポンと私の頭を撫でた。




「買うのか?それ」

『……恵くんは、こういうの好き?』

「名前がつけるなら」

『好きかを聞いたんだけど…』




適当に下着を見て回ると、恵くんは意外にも一緒に見ていた。彼氏と下着買うって、どうなんだろう…。





『これは?』

「名前がつけるなら」

『さっきからそれしか言ってないよ…、恵くんはどれがいい?』

「…………正直どれでもいい」

『…………………』





恵くんの答えにジト目で下着を睨む。どうでもいい…。確かに恵くんはすぐに下着外すし、下着を褒めてもらったことも無い…。意外と男性は下着に興味がないのかもしれない…。





『恵くんは下着泥棒にならなそうでいいね』

「なると思われてたことが心外だ」

『……そっか、…あんまり興味無いのか』





だとしたらこの作戦は失敗かもしれない。私は小さく零すと恵くんが私の手を握って指を絡めた。突然のことに彼を見上げるとそのまま耳元に唇が寄せられる。





「…名前が可愛くて見てる余裕ねぇんだよ」

『…………………』






キザなことをするんだなぁ、なんて思いながら恵くんの顔を見ると真っ赤になって眉を寄せてたからただ単に恥ずかしかったのか、と気付く。余裕そうにしている私も相当テンパっているけど。




『そっ、そっか…!な、なら!ふっ、普通の買おうかな!』





声を裏返しながら適当にサイズが合ってるものを取り、会計を済ませる。お店の外に出ると恵くんが待っていた。顰めっ面だからまだ恥ずかしさが抜けてないのかもしれない。




「……買えたか」

『う、うん、あんまりデザイン見てなかったけど…』





袋を開いて軽く目をやると、いつもとは違ってフロントホックの物が入っていた。ちゃんと見て買わないからこうなる。





『あ、フロントホック…』

「フロント?」

『こうやって前で閉めて、簡単に外せる…、』

「…………」




胸の前で手の動きを再現してふと我に返る。彼氏の前で何を説明しているのか。私は。





「…………今日、それ、着て欲しい、」

『……………………はい、』






少し頬を染めて右手で口元を隠し、視線を外しながらそういう恵くんに思わず頷いてしまった。しかも恵くんは知らないだろうけど、最初に恵くんが手に取ったパジャマも買ってある。彼は適当に取っただけかもしれないけど、思わず買ってしまった。





『……………』

「……………」




帰ってる間、手は繋いでたけど付き合ったばかりの中学生の様な雰囲気が出ている事が自分達でも分かって少し恥ずかしくなりながら高専に着き、ひとりで野薔薇の部屋を尋ねる。




「おかえり」

『ただいま』

「どこ行ってたの?」

『下着屋さん』

「え、伏黒ついて行ったの?」

『ううん。一人で行ったんだけど何でか恵くんがいつの間にか居て…』

「は?怖い話?」

『本当の話』

「…………あー、なるほどね」




野薔薇は納得した様な声を出すと軽く引いた顔をしていた。





『どういう事?』

「伏黒がアンタを探してたから買い物行ったって言ったらスマホいじってすぐに出て行ったから名前のスマホにGPSでも付いてるんじゃないの?アプリ見せて」

『え、…はい』




野薔薇は私のスマホをいじると、すぐに私に返した。





「これストーカー御用達アプリね」

『…………わぁ』

「アンタ絶対アイツから逃げられないわよ。良かったわね。飽きられなくて」

『……望んでたのとちょっと違う…』





その後恵くんに隠れてアプリを消したら野薔薇の部屋に恵くんが息を切らしてやってきたから、アプリは復活させざる得なかった…。





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