リクエスト消化 | ナノ

番外C 逆バージョン






『………え?』

『……え、』





任務でヘマをしてしまった。相手は4級と侮ったのがいけなかった。まんまと完全に祓う前に呪いを受けてしまった。そしたら目の前に自分が現れた。しかも中学生の。




『……というわけなんです』

「へぇ〜。これが中学生の名前ねぇ?」

『初めまして。苗字名前です』

『いや、初めましてでは無いんだけど…』

「ウケるね。めっちゃいい子じゃん」




五条先生はそう言って楽しそうに笑っていた。笑ってる場合じゃない。私からしたら死活問題だ。




『これってどうしたら戻りますか?』

「恵の時と同じだね。時間の問題。ま、自分のお守りは自分でしてよ。名前の事だから面倒臭いことにはならないで言うこと聞いてくれるでしょ」

『…確かにそうですけど言い方がムカつきます』

「じゃ僕はこの後仕事あるからさ。頑張って」

『……………はい』





五条先生は私の頭を数回撫でると去ってしまった。それにしても自分を見るのは嫌だなぁ。ずっと自分を見てないといけないの?





『……………』

『………………』





我ながら凄いオンオフだ。五条先生が居なくなって静かになった。これを無意識にやってたんだから性格が悪いと思う。





『……とりあえず寮に戻、りましょうか、』

『はい』





どうして自分に敬語を使わないといけないんだろう。自分なのに、なんか、こう、他人な気がしてしまう。自分とは思えない距離で歩き、寮を目指していると、後ろから野薔薇の声がした。





「名前ー!」

「あれ?苗字じゃん」

「何してんだ?」





野薔薇と虎杖くん、そして伏黒くんの声がしてゆっくり振り返ると3人の驚いた声がした。まぁ、そうだよね。





「え!?苗字がふたり!?」

「やったじゃない。伏黒。ここが天国よ」

「オマエが俺をどう思ってるかよく分かった」




野薔薇も声は落ち着いているけどバンバン伏黒くんの腕を叩いていたから結構動揺してるみたい。




『任務先でちょっと失敗しちゃって…』

『初めまして。苗字名前です』

「よろしく!俺、虎杖悠仁!」

「初めましてって、ちょっと変な感じね…」





さっきと全く同じ事を同じトーンで言う自分に正直引いた。本当にこんなのだったのか私…。





『えっと、伏黒くん…?大丈夫?』

「………そういえばブレザーだったな」

『え?…あ、初めて会った時は中学校の制服だったもんね。私、中学生ブレザーなんだぁ』

「……………」

『………伏黒くん?』

「苗字なわけだろ。ならセーフだ」





ジッと中学生の私を見続ける伏黒くんをジト目で睨んでも伏黒くんは気にしていなかった。確かに私だけど…、なんか、釈然としない。





「やっぱ少し違ぇんだな〜」

「確かに。中学生の名前は今以上に愛想がいい感じね」

『愛想というか…、』




教室に4人で移動して伏黒くんの時のようにみんなで丸くなって椅子に座る。私の隣には伏黒くんと野薔薇だった。中学生の自分は野薔薇と虎杖くんの間に座っていた。





『これって、私帰れるんですかね?』

「んー、まぁ大丈夫だろ!」

「伏黒の時も帰れたしね」

『良かった…』





良かった、なんて言ってるけど絶対にどうでもいいも思ってる。帰れても帰れなくても。私はそういう奴だから。





『伏黒くん見すぎ』

「そんな見てねぇよ」

『初めて会った時はそんな反応しなかったじゃん』

「そんな場合じゃ無かっただろ」

『まぁそうですけど…』





でもムカつくものはムカつく。しかも中学生の時の私なんて見ないで欲しい。この時の私はとにかくヘラヘラしてた。自分でも甚爾さんの言う通り気持ち悪いと思う。




『……ずっと気になってたんですけど、その人って、』

「伏黒?伏黒は今の苗字の彼氏!」

『…………彼氏?』

「っつっても高校のだけどね。16の名前は伏黒と付き合ってんのよ」

『……へぇ』




中学生の私はスっと目を細めると次の瞬間には笑みを浮かべていた。凄い早業だった。




『……高校生の私は、もうあの人の事はどうでもいいんですね』

『…………は?』

『高校生になったらバイトしてお金貯めてあの人を探しに行くはずだったのに…』

『……………』






そんな事を思った事もあったなぁ。でもよくよく考えて甚爾さんみたいな自由人が日本に居るのかすら怪しい事に気づいた方がいい。まぁ、その前に私は手足を切られて呪術師になるわけだけど。






『……私は、あの人に会う為に生きてるのに、』

『…………………』





初めて顔を歪ませながら俯く私に、妙なシンパシーを感じてしまった。元々は私なわけだし、当たり前なんだけど。この頃の私は特に甚爾さん信者だったからなぁ。




「そんなクソ野郎どうでもいい。俺の方が愛してんだから問題ない」

『……………は?』

『伏黒くん…、』

「うわ、伏黒が行った!空気壊しに行った!」

「というか嫉妬に耐えられなくなったんでしょ。中学生とはいえ、名前が他の男ばっかり気にしてるから」

『……クソ野郎でも、私にとっては神様です』

「でも今の苗字の神様は俺だ」

「……え、何この会話。宗教?」

「アンタらいつもこんな会話してんの?」

『あ、あはは…』




苦笑を浮かべると伏黒くんはギッと私を睨んだ。なんで私が睨まれるの…?




「…………」

『し、仕方ないよ。この時の私はあの人の事大好きだったんだから…』





伏黒くんは大きく舌打ちをすると眉を寄せた。さっきまでブレザーの私見て喜んでたのに…。意外と感性豊かだ。





『………帰りたい』

「……え?苗字!?」

「どこ行くのよ!」





中学生の私は教室を出て行くけど私は変に落ち着いていた。






『大丈夫だよ。ただ歩き回るだけだって』

「でも凄い顔してたわよ!?今にも海に身を投げそうな…!」

『大丈夫。私はそんな事しない。ちょっと歩けば落ち着くよ』





落ち着くというか、抑え込めるの間違いだけど。なんて思っていると伏黒くんが立ち上がって教室を出て行ってしまった。…本当に優しいね、伏黒くんは。




「伏黒!?」

「伏黒が名前と浮気しに行ったわよ!」

『それはどういう状況…?』





野薔薇が私の背中を押すから仕方なくふたりの後を追う。すると中庭であっさり姿は見つかった。ほらやっぱり。





『……………』

「苗字」

『…私は、あの人が好きなんです』

「…………」

『伏黒くん、顔凄いよ』





伏黒くんの隣に立って中学生の私を見ていると隣から小さく舌打ちされた。今日はいっぱい舌打ちするなぁ。舌取れちゃわないか心配だ。





『今の私は違うの?もうあの人はどうでもいいの』

『…………』

「どうでもいい」

『伏黒くん、空気読んで』





パシリと弱い力で伏黒くんの腕を叩くと1秒も経たないうちに頭を叩かれた。酷い。でもそれを見て中学生の私は目を見開いていた。





『……………変なの』

『変?…まぁ、私はそう思うかも』

『………好きなんだ。その人のこと本当に』

『……うん。好きだよ。伏黒くんのおかげで私は変われたし、みんなとも出会えた』





中学生の私は眉を寄せて唇を噛んでいた。あれだけ信じていた甚爾さんを割り切るのは難しい。いきなり信仰していた神が変わるのは受け入れ難いんだろうなぁ。





『………でも、楽しそうなのが、ムカつく』

『楽しいよ。本当に』

『……………』





中学生の私はフーっと息を吐いて笑うと伏黒くんを見つめた。




『確かに顔は凄いタイプだよね』

「…………」

『ちょっと。嬉しそうにしないで伏黒くん』

「………してねぇ」





してた。絶対してた。声も少し嬉しそうだったし。ブレザーか、私もブレザーを着ればいいのか。





『……私も早く、伏黒くんに会いたいな』

『伏黒くんに色目使わないで』

『色目じゃない。本当の事言ってるだけ』

「…………」

『嬉しそうにしない!!』





伏黒くんの背中を叩くと、中学生の私は肩を落として力が抜けたようだった。





『……まだあの人が忘れられるわけじゃないけど、ちょっと楽しそうだから楽しみかも』

『手足切られる覚悟しておいてね』

『…え?』

『でもその代わり伏黒くんに会えるから』

『……代償凄いね』




中学生の私は大口を開けて笑うと楽しそうに目を細めた。





『まぁ、伏黒くんに会える為なら頑張ろうかな。…またね伏黒くんと私』

『うん、またね』





そう言って弾けるように消えた私を見送って伏黒くんを見上げると少し残念そうにしていた。そんな伏黒くんの背中を叩きながら教室戻ると野薔薇と虎杖くんはお菓子を食べていた。




「釘崎」

「なによ?」

「天国だった」

『…………』




自分を気に入ってくれたのは嬉しかったけれど、微妙な気持ちになって足を踏むと穏やかに少しだけ笑った伏黒くんに頭を撫でられました。凄くムカついたので、帰る時に伏黒くんの外靴を裏返しにして置こうと決めました。





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