ふしあわせの緩衝材



『久しぶりの恵くんとデート!』

「午後から任務入ってるけどな。名前が」

『め、面目ない…』

「まぁ、任務は仕方ないだろ」




珍しく学校が休みの日に私達ふたりとも日中任務が無かった。私は夕方からあるけど。呪術師は嫌じゃないけど、任務は嫌。恵くんと居られないから。




「それで、どこ行く?」

『ゆっくりしながらお話したいかな』

「公園とかでいいか」

『うん!』




恵くんと手を繋ぎながら晴れた空の下ゆっくりと歩く。部屋でも良かったけど、凄く天気が良かったから恵くんを連れ出してしまった。





『キッチンカー出てる!』

「カステラ?」

『可愛い!クマのミニカステラだって!』





カステラを買ってベンチに腰を下ろして紙袋を開くと中から可愛いクマの形が姿を現した。





『可愛い!美味しい!』

「躊躇わずに食ったな」

『え?だってカステラだし』

「まぁそうだな」





恵くんも食べるともぐもぐと咀嚼した。それすらも可愛く見えてしまう。





『そういえば恵くんの式神に熊っていないね』

「熊が出てきたら危ねぇだろ」

『…象も危ないと思うけど』

「式神なんだから危なくねぇだろ」

『ん〜?』





よく分からない会話をしながら視線を前に向けると長閑な風景が視線を奪った。
家族連れで遊ぶ人達、公園を歩くカップル、子供同士で追いかけっこをする姿。私達も傍から見たらこんな風に見えるのかな、なんて頭で考える。
普通の人に見えるのかな、なんて。



『そういえば、』

「苗字?」

「うっわ、苗字じゃん」





名前を呼ばれて首を向けると、女性ふたりが立っていた。私には見覚えがあるふたりだった。それを認識してすぐさま笑みを浮かべる。



『…久しぶりだね』

「なに?また男連れてんの?」

「さっすが〜」

「その人なに?まさか彼氏?」




ふたりの嫌悪を含む視線に崩れない様に笑みを深める。





『この人は、高校の同期なの』

「…………」

「ふーん。まぁ誰でもいいけど」

「アンタの事だからまた男奪ったのかと思った」





隣で恵くんが私を睨んでる気配がするけど、今は許して欲しい。私が笑みを崩さずに答えるとふたりは恵くんを見て鼻を鳴らした。





「高校どこだっけ?」

『…都内の学校だよ』





そう答えるとふたりは眉を寄せた。呪術高専って言っても良かったけど、何となく言いずらかった。




「まぁいいや。じゃまたね苗字サン」

「ばいばーい」

『…うん、またね』





ふたりが去っていてフーっと小さく息を吐くと手が引かれる。恵くんに視線を移すと無表情で私を見ていた。





『め、恵くん?』

「俺は彼氏じゃねぇのかよ」

『さっきのは…、』

「なんで言わなかった」

『……私と付き合ってるって言ったら、馬鹿にされて嫌な気持ちになっちゃうでしょ?』

「はァ?隠される方が嫌な気持ちだ」

『でも……』

「俺と付き合ってるの恥ずかしいのかよ」

『そんなわけない!』





少し声を荒らげて答えると恵くんは私の頬を両手で包んだ。その表情はどこか拗ねているように見えた。




「なら言えばいいだろ」

『…うん、ごめんね』





素直に謝ったけど恵くんは私の頬を少し抓ったからまだちょっと怒ってるみたい。でも確かに私も付き合ってるの隠されたら嫌だなぁ。




『恵くんが私の彼氏ですって見せつけるためにもちょっと歩こっか!』




手を繋いで引くと恵くんは立ち上がってついてきてくれた。夕方まであんまり時間ないし、大切にしないと。



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