「そういえばアンタ達って結婚の話とかしないの?」
『結婚…?…五条先生の?もう三十路だからね。先生もそろそろ身を固めてもいいよね』
「なんで私が五条先生の将来を心配しないといけないのよ」
「五条先生も三十路かー。早いなぁ」
教室で野薔薇と虎杖くんと帰りの支度をしながら話していると突然の話題に手が止まってしまった。恵くんはまた任務みたい。
「名前と伏黒の話に決まってるでしょ」
「日本で結婚していいのって何歳だっけ?」
『女性が16歳で男性が18歳の場合だね』
「なら今年出来んじゃん!伏黒の誕生日くれば!」
「だから私も聞いたのよ」
『気が早くないかな…。それに結婚は急いでするものじゃないし…』
「あれ?意外!苗字と伏黒はすぐにでも結婚したいのかと思ってた!」
『虎杖くんは私達を何だと思ってるの…?それに呪術師って言っても私達は高校生だからね。ちゃんと自立できるまでは待つべきだよ』
「最近は伏黒のせいで忘れてたけど名前は常識人寄りだったわ」
「でも結婚したら苗字も伏黒になるのかー。俺なんて呼べばいいの?伏黒2号?」
『虎杖くんは私の事犬か何かだと思ってる?』
本気で考え抜いてその考えになった虎杖くんに軽く恐怖を感じた。私を玉犬の一種だと思ってるのかも。
「違うでしょ。伏黒と結婚したら禪院になるわけでしょ?御三家の仲間入りじゃない」
「えっ!?そうなの!?苗字は伏黒になって禪院になんの!?」
「意味分かんない。禪院家って面倒臭い家系じゃない?名前は平気なの?真希さんみたいな陰湿なイジメにあってない?」
『真希さんのはイジメとは少し違うよね…。嫌がらせに近いと思うんだけど…』
「なんで苗字がイジメられんの?」
「いくら強くても名前が一般家庭出なのは変わらないじゃない。御三家とかそういうのうるさそうよね。本当馬鹿みたい」
『んー、今のところは何も無いかな…』
でもそれが逆に気持ち悪かった。私は一般家庭出であると共に、術式はない。さとるくんという名の呪霊を取り込んだから術式が生まれただけ。血筋・術式が全ての禪院家が私を許すとは思えないんだけど。
「でも何もないならいいんじゃね?」
「アンタどんだけ極楽な考えしてんのよ」
「え!?だっ、だって伏黒もいるし、苗字に何かあったら俺達もいるし…」
「ま、それもそうね」
野薔薇は虎杖くんの言葉に納得したのか大きく一度頷いた。本当に私は周りに恵まれすぎてしまっている。
すると教室の扉が開かれて恵くんが姿を見せた事で虎杖くんが右手を上げた。
「おー!伏黒!おはよ!」
「もう帰りだけどね」
「最近任務多いなー」
「知らねぇけどすげぇ任務入れられる」
『おかえりなさい』
「ただいま」
恵くんは私の隣に立つと手を握って立たせてくれた。引っ張られて立ち上がると、野薔薇と虎杖くんも立ち上がって寮を目指す。
「明日も任務入ってる」
「はー、アンタ何?金持ちになりたいの?十分持ってるんじゃないの?」
「別にお金の為じゃねぇよ。勝手に入れられてるんだよ」
『私も明日は任務入ってるんだった』
「金持ちカップル?」
「金持ちバカップルね」
『だからお金の為じゃないよ…』
「まぁ金の為でもあるにはあるけどな」
『え、そうなの?』
「貯金」
『ま、真面目な回答が出てくるとは…』
驚いて恵くんを見上げると額が弾かれた。だって恵くんってお金に執着なさそうだったんだもん。
∴∴∴
「アンタが苗字名前ちゃん?」
『え…?』
「こんにちは」
『こん、にちは…』
任務終わりに買い物をしようと新宿で下ろしてもらったら知らない人に後ろから声をかけられた。多分呪術師だ。後ろから声掛けてきたから。
『えっと…』
「禪院直哉。よろしゅう」
『…………』
禪院直哉 もちろん知ってる。禪院家 現当主だ。知ってるも何も嫌いだ。だってこの人は恵くんと虎杖くんを殺そうとしたから。恵くんを殺すのは私の役目なのに。我ながらイカれた嫉妬だ。
『禪院さんが私に何かご用事ですか?』
「んー?まぁ用事って程でもないんやけど…」
禪院さんは数歩私に近づくとニヤリと顔を歪ませた。それが癪に障ったけど、笑みを崩さずに首を傾げる。笑顔スキルってこういう時は凄く役に立つ。
「次期ご当主サマのお気に入りの女が見てみたいなと思てな」
『……普通ですよ。普通の呪術師です』
「せやな。普通やなー。でも真希ちゃんとは違うて自分が女なの分かっとるから嫌いやないで」
『女?』
「女の呪術師なんて愛想振りまくことしか出来へんやんか。役にも立たへんし。名前ちゃんはええね。ちゃんと喧嘩を売る相手分かっとるやんか」
『…………』
別に喧嘩を売る相手が分かってるわけじゃない。私は元々こういう性格だ。波風を立てず、ヘラヘラ笑ってるのが。別に貴方だからじゃない。
「でも禪院家を継ぐにはお粗末やなぁ」
『そうですね』
「禪院家が何でアンタを放って置っとると思う?」
『…分かりません』
「俺のおかげやで。俺が放っておけ言うとんねん」
『どうしてですか?』
笑みは崩さずに顎を引いて警戒しながら聞くと禪院さんは楽しそうに歪んだ笑みを浮かべた。
「やって、ゆっくりと崩した方が面白いやんか」
『…………』
「……へぇ。これ聞いても笑みは崩さへんのやな」
『慣れてますから。崩すって私をですか?それとも、……恵くんをですか』
「……きっしょ。なに目の色変えとんねん」
禪院さんは私の顎を片手で掴んで引き寄せると笑みを消して声を低く唸った。
「俺はまだアイツが禪院家の次期当主なんて認めてへんからな」
『恵くんは強いですからね』
「………調子に乗んなや。一般家庭出の呪術師もどきが。オマエなんて俺の一言で終わりや」
『私は恵くんに殺されるまで終わりませんよ』
「その言葉が本当か楽しみにしとったらええわ」
そう言って振り払うように手を離した禪院さんは姿を消した。掴まれてた顎が痛くて撫でるとまた嫌な考えが浮かんだ。
『………呪術師なんて、みんなクソだ』
私達が姿を消したら野薔薇達に迷惑がかかる。分かってる。でも、全てを捨てて恵くんと逃げてしまいたいと思ってしまった。
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