「それで?どうする?僕達はこのまま暴れてもいいんだけど。ね、憂太」
「日本で呪力使うの久しぶりなので力加減間違えたすみません」
「えぇ!?日本と海外で違うの!?」
「そんなわけないでしょ。何言ってんのよ」
「そう言ってる釘崎も冷や汗かいてんじゃん!」
「緊張感!オマエら少し静かに出来ねぇのかよ!」
「伏黒は海外任務行ったことあんの!?海外じゃ呪力の使い方違ぇの!?」
「乙骨先輩の悪ノリだろ」
「え!?そうなの!?」
「あ、当たり前じゃない!」
「釘崎だって安心してんじゃん!」
「名前に聞けばわかることじゃない!どうなの!?海外と日本じゃ呪力の使い方違うの!?」
『…………』
あぁ、心臓が痛い。目の奥が燃えてるように熱い。気を抜いたら涙が出そう。私は戻ってこれたんだ。大好きなこの場所に。心のどこかで戻れないんじゃないかと思っていたから。
「こっちの条件を飲んでくれるなら俺達は従順に
上層部を守ります」
「ちなみに京都校をぶつけてきても無駄だよ。
京都校も禪院家に不信感を持ってるからね。分かるでしょ?京都校に誰が居るのか」
「
真依ちゃんが…!」
「それに伏黒は知らないでしょうけど諦めの悪い
東堂も居るわよ」
「…本当に聞いてねぇ」
「全部終わったら尋問でも何でもしなさいよ」
「……」
恵くんは私をジト目で見下ろすと大きな溜息を吐きながらギュッと繋がれた手に力を込めた。それに応えたくて握り返すと親指で手の甲が撫でられた。
「それに条件を飲んでくれたら俺は禪院家を継ぎません。五条先生が死んだとしても」
『…え?』
「別に俺は禪院家を継ぎたいと思った事なんて一度もありません。…いや違います。ありますけど、名前が帰ってきた今、継ぐ必要は無くなりました」
『恵くん…』
「それに禪院家のせいで名前を手放すことになったんです。継ぐ気なんてありません。そもそも俺はもう禪院家とは関係無いですし。つまり俺は継ぎたくないんです。だから条件を飲んでください直哉さん」
「あ゛?」
「俺達の邪魔をしないこと・高専生に手を出さないこと・くだらない権力争いに巻き込まないこと」
「あ!あとまだあんだけど!」
「私と虎杖からもうひとつの条件を出す!」
虎杖くんと野薔薇が私と伏黒くんを真ん中にする様に立って乙骨先輩も引っ張って隣に移動させ、虎杖くんが大きく口を開いた。
「大人
が 俺達を守ること!」
「それが最後の条件よ!」
ふたりの言葉に目を見開くと禪院さんがギリっと奥歯を噛んで私達を睨みつける。そんな彼の隣にお腹を抱えて笑っている五条先生が移動して禪院さんの肩にポンっと手を置いた。
「あー、面白っ…、まぁ仕方ないよね。それが僕達の仕事だからね」
「ふざけんなや!そんな条件誰がッ…!」
「でもおじいちゃん達は乗り気みたいだよ?」
「はァ…?」
「うちの老人共は臆病だからね。自分の命が大切なんだよ」
「……ッ!」
「それに…、子供を守るのが
大人の仕事だ。そんな当たり前の事が出来なくて何が出来るの」
「そんなん俺に関係無いやろが」
「でも良かったじゃん」
「あ?」
「望んでやまなかったご当主サマで居続けられるよ。恵の
おかげで」
「………殺す」
低く真面目腐った五条先生の言葉に禪院さんは青筋を浮かべた。でも五条先生はそれに気付いていないのか…いや、あの人のことだから気付きながらも言葉を続けた。
「名前にはこっわーい番犬がいるからね。次また名前を殺そうなんて企んだら…」
「うちの
伏黒が世界滅ぼしちゃうわよ」
五条先生と野薔薇の言葉に禪院さんは私の隣にいる恵くんに視線を移し、恵くんは禪院さんを見て無表情のまま口を大きく開いた。
「わんっ」
「…………クソガキ共がッ」
低く唸る禪院さんを余所に五条先生はパンパンッと二度手を叩いて声を上げた。
「ほらパーティーは終わりだよ!帰ろ帰ろっ!」
「久しぶりに狗巻くん達に会いたいなぁ。明日からまた任務だし」
「ついでにこのまま高専でパーティーしちゃおっか!勿論僕の奢りで!」
「おぉ!先生太っ腹!やろうぜ!」
「ほら!名前も行くわよ!」
『え、…あ、うん、』
野薔薇に背中をグイグイ押されて恵くんに手を引かれる。そこでふと思い出して足を止める。
『…禪院さん、』
「…………なんやねん」
『すみませんでした』
「………あ?」
謝ったのに凄まれてしまった。高専の人達はやっぱり柄が悪いなぁ。特に五条先生の先輩後輩辺り。
『次期当主がくだらないとか、その他諸々の事…、馬鹿にしたこと謝ります。すみませんでした』
「どういうつもりや」
『純粋に思ったから言っただけです。他意はありません。ただ物事の価値順は人それぞれだから。私にとっては価値の無いものも禪院さんには価値があって大切で……、私にとっては価値があって大切なものも禪院さんには価値がないことだってあるって分かったんです』
「………」
『だから、すみませんでした。……でもあなたを許したわけでも認めるわけでもないです。私達は呪術師である前に人間で、それは補助監督の人達だって同じです。それだけは曲げるつもりはありません』
「…………勝手にせぇや」
『…はい、勝手にします。襖壊してすみませんでした』
「………」
『あ、それと、私も禪院さんも上層部の道具でもおもちゃでも無くて、人間なんです。それだけは忘れないで下さいね。…失礼します』
頭を下げてみんなの後を追った。すると後ろで禪院さんの小さな声が聞こえた気がしたけど、その声が妙に力が抜けていた気がした。
「……ほんまにおっかないのが居るわ」
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