「明日の正午、禪院家に乗り込む」
「……え!?明日!?」
「伏黒から協力頼まれてまだ数日だよ!?早くない!?」
「あの人が明日しか帰って来れないんだよ」
「あの人って誰よ?」
「あの人」
「誰だって聞いてんのよ!!」
釘崎が伏黒に殴りかかろうとしたから慌てて後ろから羽交い締めにして抑える。伏黒は表情を崩さずに1枚の紙を机に広げた。逆に尊敬する…。
「禪院家の地図だ」
「…え!?乗り込むの!?まじで!?」
「コソコソすんのは性に合わないと思ってたのよ!」
「乗り込むっつっても攻撃はしない」
「えぇ〜…」
「なんで釘崎残念そうなの…?」
伏黒はトントンと一点を指さした。スルースキル上がってない?まぁ元々苗字以外の話は聞いてなかったけど…。
「基本的ここに直哉さんがいる」
「なおやぁ?井上?」
「釘崎それボクサー」
「禪院家 現当主だ。続けるぞ。ここは警備が厳しいから迂回してこっちの道を通る」
「それは分かったんだけどさ、当主に会って脅したところでどうにもならないじゃない?」
「明日居るのは禪院家だけじゃない」
「どういう事よ」
「明日の正午、禪院家で会合がある」
「……つまり、上層部の人間がいるってこと?」
「そういう事だ」
「臆病な老人共なら効きそうね、脅し」
「……あのぉ、」
ずっと気になっていた質問をする為に右手を上げるとふたりは眉を寄せて俺を睨んだ。
「なんだよ」
「空気壊すんじゃないわよ」
「いや、あのさ…、脅すって何を脅すの?」
「…………虎杖アンタ」
「え?な、なに?」
「たまにはいいこと言うじゃない。伏黒アンタ何をする予定なの?私聞いてないんだけど」
見事な手のひら返しに俺は目を見開いた。釘崎…オマエ…。
「それは現場で言う」
「……はァ?」
「抑えて!抑えて釘崎!流石に金槌で殴ったら伏黒死んじゃう!」
ブチ切れの釘崎を抑え込むと伏黒はジーッと俺達を見て、首を傾げた。
「何遊んでんだ」
「よーっしオマエ頭出せ。今すぐかち割ってやる」
「伏黒ォ!これ以上釘崎を刺激すんな!」
「してねぇよ。話をまとめるぞ。まず真希さんが裏口の扉を開けてくれる。後は俺達だけで行動する」
「真希さんが参加してることすら知らねぇんだよ」
「それで会合が行われてる客間を目指す。そこに乗り込んで上層部を黙らせる」
「…私達に説明するつもり無いわよね」
「…うん、そうだな」
とりあえず明日乗り込むのね。うん。了解。全然作戦わかんないけど。
∴∴∴
「行くぞ」
「応ッ!」
「声がデカいのよ」
「あっ、ごめん…」
禪院家の裏口に来て遊んでいる釘崎と虎杖を無視して扉を小さく叩くと中から真希さんが顔を出した。
「…おっせぇよ」
「時間通りですよ」
「上手くやれよ。私は裏からしか手が出せねぇ」
真希さんは俺達を入れると静かに扉を閉じて俺達3人の頭を順番に雑に撫でた。
「……おい、この馬鹿共を頼むぞ」
「うん。任せて真希さん」
「…え!?乙骨先輩!?」
「なんでここに乙骨先輩が居るわけ!?」
「オマエら声がでけぇ…」
乙骨先輩に虎杖と釘崎が騒ぐから眉を寄せる。乙骨先輩も急に背後に現れないで欲しい。ここで俺達がバレたら全部が水の泡だ。
「伏黒が言ってたあの人って乙骨先輩の事だったのか!」
「そうだから少し声を落とせ」
「突然伏黒くんから連絡が来たから驚いたよ」
人当たりのいい笑みを浮かべる乙骨先輩に小さく頭を下げる。今回の作戦には五条先生に近い力を持つ乙骨先輩の存在が必要不可欠だった。五条先生は海外任務が忙しいらしく呼びたくても呼べなかった。大事な時に役に立たない。
「それじゃあそろそろ行こうか」
「はい」
ずっと真顔になった乙骨先輩に続いて足音を鳴らさないように中を進む。
「なんか地味ねぇ…。面倒だから走っていい?」
「釘崎疲れてんの?大丈夫?」
「走るのは…、やめた方がいいんじゃないかなぁ…」
「乙骨先輩、コイツらに付き合わなくていいですよ」
呆れながら中心部に近付くと会合が行われてる場所には見張りが居て全員で目配せをする。
「…というか伏黒は禪院家に重宝されてるんでしょ?アンタさっさとアイツら退かして来なさいよ」
「会合に参加する事は許されてねぇんだよ。それに俺は当主じゃねぇし」
「サクッと落とすか!」
「僕が言うのもあれだけど殺伐としてるね…」
そう言いながら既に見張りを落としてる乙骨先輩をジト目で見ると、先輩は不思議そうに首を傾げていた。
「じゃあ乗り込もうか」
「おっす!」
虎杖が勢い良く襖を開くと中には上層部の人間と直哉さんが居て驚いた様に目を見開いていた。
「……やってええ事と悪い事があるって恵くんには分からへんの?」
「こうでもしないと話を聞いてくれないでしょ」
「宿儺の器…!」
「特級呪術師の乙骨憂太まで居るぞ…!」
焦った様に声を出す上層部の人間に比べ直哉さんはスっと目を細めていた。
「そんで?どうするのよ伏黒」
「…………」
瞼を閉じてアイツの姿を思い出す。いつでもヘラヘラしているくせに負けず嫌いで泣き虫で俺にとっての善人。面倒臭くて周りばかり気にしてるくせに重たいヤツ。人をイカれさせておいて自分だけ先に逝く様な自分勝手なヤツ。
嫌なところなんて沢山ある。なのに、なんでだろうな。オマエがいる世界は酷く鮮やかで温かくて心地いい。
ゆっくり瞼を持ち上げると少しだけ息がしやすくなった気がした。
「…………俺は、」
口を開いた瞬間、襖が壊されて顔を向けると目の前が鮮やかになって目を見開いた。
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