君のために終わらないおはなし



「というわけで名前は死んでることになってるから!」

『なにが、というわけ?というか本当にお腹に大穴開けられたんですけど?』

「仕方ないじゃーん!騙す為には大怪我してもらわないといけないし!」





舌を出してふざける五条先生に睨むとお腹が痛んだ。腹痛の比じゃない痛みだ。




「しかも硝子は狙ったかのように高専に居ないし、やるなら今かなって!」

『殺るならの間違いじゃないですか?』




五条先生に見送られて任務に向かったあの日、任務先に呪霊は居らず、代わりにいたのは禪院家の呪術師だった。私は人を殺したくないし逃げ回ってたらお腹に大穴を開けられて気が付いたら高専の地下室に寝かされていた。




「あれだけ血が出てたら禪院家も死んだと思うでしょ」

『本当に死にかけましたからね』

「しかも直哉くんの直属の部下も居たし、上手く情報も流れたよきっと」

『………先生』

「ん?なに?」

『あの場に居たんですね』

「うん居たよ?」




コイツまじクズ。生徒が痛ぶられてるの見てたのか。見ててスルーしたのか。クズだ。しかもお腹ぶち抜からてるところも見てたのか。




『……本当にクズだな』

「声に出てるよ〜?でも僕が近場で待機してたから名前は助かってるわけだし」

『死んだことにされてますけどね』

「で?どうする?このまま逃げる?今なら海外逃亡も出来るよ」





確かに海外まで逃げてしまえば禪院家も分からないだろう。そもそも死んだことになっている私は地上で暮らしたいなら海外に行くしかないんだろうけど。いつから私は地下でしか暮らせないカイジになったのだろうか。そろそろカードでジャンケンさせられて石田さんと鉄骨渡りでもさせられるのだろうか。





『キンキンに冷えてやがるー』

「そんな棒読みで言われても…」

『海外…、海外かぁ…』




海外は嫌いじゃない。特に過疎地は。過疎地に逃げればほぼ確実に見つかることはない。身の安全は確保されたも同じ。




『でも恵くんが居ないじゃないですか』

「………本っ当に面倒だなぁ」

『何とかしてください。先生』

「うん。何とかしようか。可愛い生徒の為だからね」




面倒と言いながらも即答する先生にフッと口角を持ち上げる。最低でクズだけど、頼りになる先生だ。





『それでもう一度告白します。恵くんに』

「振られたら?」

『そしたら五条先生と結婚しようかな』

「え〜?利用されちゃうの?僕」

『可愛い生徒のために生贄になってください』

「最強の僕にまっかせなさい!」




やっぱり私は恵くんが居ないと息もできない。生きている心地がしない。夢の中だけじゃ足りない。私は恵くんの隣に居たい。




「名前はとにかく怪我を治してね。硝子がいつ戻ってくるか分からないし、この部屋は僕しか知らない。変に禪院家に勘繰られても面倒だ」

『………この大穴を、自力で?』

「さとるくんにでも助けてもらってよ。反転術式が使えなくても治癒力は他の人より高いんだからさ」

『……無理なこと言いますね』

「無理?名前にとっての無理は恵に会うなってこと以外にあるの?」

『………ないですね』

「ならできるよね」

『余裕ッ!』




私の答えに満足したのか五条先生は大きく頷いて嬉しそうに笑っていた。



∴∴∴





「虎杖、釘崎」

「ん?伏黒?どったの?」




教室に戻って来た伏黒の目はさっきまでとは違って焦点が定まっていて少し安心した。




「……何よ」

「なんで釘崎はキレてんの?」

「キレてない」




そう言った釘崎は完全にキレてた。でもそれを言うと更にキレられそうだから素直に黙った。未だに釘崎の情緒が分からない時がある。




「で?何の用よ」

「力を貸してほしい」

「………は?」

「え…?」





そう言った伏黒の目は真っ直ぐ俺達を見ていた。さっきまで人を殺しに行きそうな顔をしてたのに何があったんだ?





「………手を貸せってどういう事よ。禪院家を皆殺しにするなら手伝うけど」

「気持ちは分かるけどそれはヤバいだろ」

「皆殺しは俺も考えた」

「えぇ!?やっぱり考えてたの!?」





サラリと答える伏黒に驚いている俺を無視して伏黒は言葉を続けた。





「けど皆殺しにしても人間が変わるだけで、結局何も変えられない」

「じゃあどうすんのよ」

「禪院家を脅す」

「脅す…!?」

「脅してどうこうなる程大人しい奴らに見えないけど?」

「だからオマエらに手伝って欲しい」

「はァ?」




釘崎は眉を寄せてたけど、伏黒の表情は巫山戯てる様には見えなくて釘崎もスっと顎を引いた。



「…とりあえず話は聞いてやる」

「なんで釘崎が偉そうなの…?」







腕を組んでそう言った釘崎を見ると伏黒の視線を感じて顔を元に戻す。





「俺も手伝う!友達に頼られて断るヤツは居ねぇだろ!」

「私は伏黒の為じゃないから。親友名前の為だから」





伏黒は少しだけ驚いた様に目を見開くと、ゆっくり目を細めて柔らかく笑った。





「……ありがとな」




その瞳の奥に映ってたのはきっと俺達じゃなくて、愛する人アイツの姿だったんだと思う。



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