「恵」
「…五条先生」
「僕に頼むなんて余程切羽詰まってるんだね」
「………そうですね。結構しんどいです」
「……恵が素直に弱音を吐くなんて本当にヤバそうだね」
ベッドに横たわる名前の瞳の下にはクマが色濃く残って頬も痩せたというより痩けたと言う方が正しい感じだった。……俺のせいだな。
「………」
「……そんな大切そうに触るなら手放さなければ良かったのに」
「俺だって許されるなら手放したくないです」
「だったらさっさと取り戻せば?」
「………取り戻したいです。でも、そうしたらコイツはまた命を狙われます」
「既に手遅れだよ。名前は禪院家を敵に回してる。特に禪院直哉派にね」
「まだ4割はソッチ派です。いくら先代が俺を任命したからって簡単に認めることは出来ないでしょ」
「恵は禪院家の相伝の術式を持ってるから殆どは認めてるからね。術式・血筋が全てだから」
「……
甚爾のせいでこんな面倒になってるんですけどね」
「婿入りして勘当同然なことをしてその後は呪術師殺しなんてやってたからね」
「本っ当に面倒なことをしてくれましたよ」
「でもそれがなかったらとっくの昔に恵は禪院家ご当主サマだったよ」
「………あんなヤツを神様にしてたコイツの気が知れない」
「その割に僕が抱える事さえも許さなかったじゃん。姿を見せないとか言って」
「姿は見せてないでしょ」
「屁理屈〜」
姿は見られてない。ただ五条先生に抱えられてるところを見たくなかっただけだ。姿さえ見られなければ運んだって問題ない筈だ。……屁理屈だな。
「自分で手放しておきながら他の男に触れられるのは見たくないって?そんなの不可能でしょ〜」
「……そうですね。でも見たくないです。コイツが他の男に触られてるところなんて。捨てておきながらこんな
指輪まで残して」
この指輪捨てられていないことに安堵したのを覚えてる。指先で指輪をいじるとキラリと輝いた。俺の首にも同じものが巻きついてる。重たく、鎖のように。
「………すみません、嘘です」
「え?」
「あんなヤツを神様にしてたコイツの気が知れないって言ったの」
「……は?」
指輪を指で転がしながら自傷的な笑みをうかべる。本当に面倒なことをしてくれた。
「もしかしたらコイツは俺の中に
甚爾の影を見ていたのかも知れません」
「……どうだろうね」
「コイツは愛してくれる俺を愛してるんです。隣を手放した俺に興味はないかもしれません」
「そうだとして、恵はどうするの?」
「どうもしません。死んだ後に俺の元に帰って来てくれればもう、望みません」
「呪いがあるから?」
「……違いますね。戻って来るようにしたのは俺です。だから呪いも解かないし未練たらしくこんな
指輪まで付けて…。それでも俺は、捨てられない」
頬を撫でると少しだけ瞼が開かれた。すると五条先生はクスリと笑って口を開いた。
「姿は見せないんじゃなかったの?」
「………いいんです」
夢の中でくらい、会わせてくれ。
『……恵くん、』
「……………」
久しぶりに名前を呼ばれて最低な考えが過ぎった。呪術師は本当にクソだ。
全てを捨てて名前を攫って逃げてしまいたいなんて
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