きっと燃え滓になるまでには



「禪院家を敵に回すんか?」

『既に敵じゃないですか』

「俺なら救ってあげられるで?」

『私をですか?…私は別に救われたくないです』




だって私を救えるのはたったひとりだから。それに私が何より怖いのはそんなことじゃない。




『私を殺そうとしている人達に伝えてください』

「…なにを?」

『私を殺すなら呪力なしで殺してください』

「はァ…?」




禪院さんは眉を寄せてガラ悪く首を傾げた。呪術師ってガラ悪い人が多いなぁ。




『だって呪術で殺されたら呪霊になれないじゃないですか』

「……呪霊になって復讐か」

『そんなくだらないことしませんよ。私は呪霊になって恵くんに祓ってもらうんです』




今の楽しみはそれくらいだ。その未来を想像してクスクス笑うと禪院さんは引いたような顔をしていた。失礼だな。




「……ほんまに頭おかしいんとちゃう?」

『呪術師なんてみんなイカれてるじゃないですか』

「呪霊になって殺されたいなんて夢を持っとるのはアンタくらいやで」

『愛する人の手で死ねるなんて、私みたいな醜悪な人間には幸せ以外の何物でもないですよ』




ヘラリと笑うと禪院さんはスっと目を細めて私に顔を寄せた。




「……名前ちゃんは都合のええ犬やね」

『仕える相手は選びますよ』

「俺に仕えへん?興味が湧いたわ」




そう言って更に顔を寄せる禪院さんの唇が触れる直前に唇を開く。




『それ以上顔寄せたら唇噛み千切りますよ。犬は主に忠実なので』

「…………おぉ、怖っ」





肩を竦めて白々しく笑う禪院さんは私から離れると鼻で笑った。





「死んで後悔せぇへんとええな」

『しませんよ。絶対に』





話が終わりみたいだから背を向けて歩き出すと禪院さんは帰ったみたいだった。恵くんに会いたいなぁ。話したい。声が聞きたい。




『………会いたいなぁ、』





あの声で名前を呼んで欲しい。あの優しい手で髪を撫でて欲しい。宝石のような瞳で見つめて欲しい。





『恵くん…、』






教祖を失った信者はこんな気持ちなのかな。何を信じて生きればいいのか分からない。どうやって進めばいいのかも、歩けばいいのかも分からない。こんなにこの世界は息苦しかったっけ。


好きなことを辞められれば楽なのに。諦めちゃえば楽になれるのに。諦めることが諦められない。立ち止まることしか出来ない自分が嫌になる。


私はいつか自分を少しでも好きになれる日が来るのかな。



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