「苗字」
『あ、虎杖くんも任務終わり?お疲れ様』
「さんきゅ。苗字もお疲れ様」
『ありがとう』
任務が終わって寮に戻る途中で虎杖くんに声をかけられて一緒に寮を目指す。
「最近飯食ってる?」
『ん?…うん!食べてるよ!食べすぎて困ってるくらい!』
「本当?」
『………ちょっと、食欲無くて』
「ずっと任務行ってるよな。…大丈夫?」
『……大丈夫。慣れないとね』
「…………最近、伏黒も任務多いみたいでさ。8月の終わり頃からずっと。」
『そうみたいだね』
9月に入った今日もお昼は暑かったけど、夜になると少し肌寒かった。
「………本当に、大丈夫?」
『うん。本当に大丈夫』
そう言って笑うと何故か虎杖くんが眉を寄せて苦しそうだった。でも、本当に大丈夫だよ。…ちょっと違うか。大丈夫にならないと、だね。
∴∴∴∴
任務をこなして、眠って、また任務をこなして眠る。この繰り返し。別に何かをしてるわけじゃない。ただ、仕事を行って、何となく眠る。今までと何も変わってないのに。
ポッカリと胸に穴が空いた様に虚しい。
『…これで満足ですか?………禪院直哉さん』
「おぉ、やっぱり後つけてたの気づいとった?」
『流石に気づきます。だからわざわざ人気の無い路地裏に来たんですよ。それで?』
「んー…、せやなぁ、あとは名前ちゃんが恵くんが一緒に心中でもしてくれたら最高なんやけど」
『私の任務先に京都から遥々よく来ますね。私のこと大好きなんですか?』
「え?大っ嫌いやけど?」
『奇遇ですね。私も禪院さんのことは五条先生以上に嫌いです』
そう言ってニコリと笑うと禪院さんもニッコリと笑った。私が言うのもなんだけど胡散臭い笑顔だ。
「目の下のクマ凄いなぁ。寝てへんの?」
『えぇ。どっかの誰かさんのおかげで目が冴えちゃって』
「どこの誰さんやろね〜」
『ねぇ〜?どっかの当主なんてくだらない椅子に座り続けたくて仕方ないお子ちゃまな人だと思うんですけど』
「前回あれだけ痛い目見せたったのに調子に乗っとるみたいやな〜?」
『あんなの痛くも痒くもないですよ〜』
あんな目に見える傷なんて痛くもない。今の方が余っ程痛くて苦しくて死んでしまいそうだ。呼吸の仕方すら分からない。意識しないと息をするのを忘れてしまう。
「恵くんと別れて何日経った?もうそろ死んでもええ頃やない?」
『私が死んでも恵くんが生きてる限り貴方の欲しがってるくだらない玉座は空きませんよ』
「名前ちゃんが死ねば少なくとも恵くんは焦るやろ?寝首を掻くのはそれからでも十分間に合う」
『あんまり恵くんを舐めないでください』
「…あ?」
禪院さんはピクリと笑みを浮かべている口角をヒクつかせる。笑顔を被る事で私に勝てると思わないでください。年季も精度も違うんですよ。
『私が居なくなっても変わりません。恵くんは私と違って強くて恵まれてますから』
「……は?」
『私は恵くんのおかげで幸せになれたんです。恵くんのおかげで優しい人達に出会えたんです。全部、恵くんのおかげです』
恵くんのおかげでここに居られる私とは違って、彼は自分で掴み取ったから。幸せな場所を、温かい場所を。私とは違って優しくて強いひと。
『恵くんはアナタよりずっと強いですから』
「……振られたんに彼女面か?」
『そんなつもりありませんよ』
だって私はもう恵くんの
恋人じゃないから。
自虐的に笑うと禪院さんは私の顔を覗き込むように腰を折って楽しそうに笑った。
「捨てる神あれば拾う神ありって言うやろ?恵くんに捨てられて可哀想な名前ちゃんを拾ったろか?」
『神…?』
「あちこちの呪術師に睨まれて大変やろ?反逆者なんて言われて」
『…………残念ですけど、』
肩の力を抜いてフッと表情が自然と緩まる。私が笑ったのに驚いたのか禪院さんは目を見開いていた。
『…私の神様はたった
恵くんだけですよ』
たとえ彼の神様が私でなくても。私の神様は変わらない。
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