たった1人に嫌われて星を眺めてみたくなる



「最近、教室が広いわね」

「苗字も伏黒も任務で忙しそうだもんな…」

「でももう8月よ?繁忙期は過ぎてるはずでしょ」

「そのはずなんだけどなぁ…」




釘崎と教室で暑さに耐えながら話ていると、釘崎がポツリと小さく呟いた。




「……呪術師の間で噂になってるの」

「何が?」

「名前が呪詛師と繋がってて禪院家を滅ぼそうとしてるって」

「……………いやいやいや!無いでしょ!」

「そんなの分かってるわよ。ただ、上は疑ってる」

「苗字はそんな奴じゃないだろ」

「そう言った所で上の馬鹿達が納得すると思ってんの?アンタ忘れたの?宿儺のせいで殺されそうになった交流会」

「………そうだけど、」





釘崎は机に肘をついて顎を乗せると外に視線を投げて唇を噛んでいた。




「それに名前は1年の時に暴れてる」

「それは五条先生が揉み消したって…」

「いくら五条悟でも完全に揉み消すことなんて出来るわけないでしょ。校舎半壊させてんのよ?……あの後、名前はほぼ毎日任務に行かされてた。特級案件のね」

「……俺の時みたいに殺そうってこと?」

「簡単に言えばそうでしょうね。でも名前は死ななかったし、今更そこら辺の特級をぶつけた所で名前は死なない」

「えっ、ちょっ、ちょっと待てよ!それって…」

「………最近、禪院家では名前を任務と称して殺そうとしてるって噂よ」

「……なんだよ、それ、」





釘崎の言葉に目を見開くと釘崎は大きく舌打ちをして机にガンっと拳を振り下ろした。





「…それに、禪院家の中には伏黒と反逆の容疑がかかってる名前をくっつけない為にも力を注いでる筈よ」

「だから!苗字はそんな奴じゃ!」

「私だって分かってるわよッ!」




勢いよく机に両手をついて立ち上がると俯いて苦しそうに言葉を続けた。





「…そんなのっ、私らが一番分ってる事じゃない…!」

「………釘崎、」

「なんで、いつもこうなんのよ…、名前が幸せになれるのはいつなの…?…もう十分苦しんだじゃない…、」

「…………」

「伏黒だって、なりたくて当主になるわけじゃない…、勝手な大人達の都合でしょ…?なんで私達が付き合ってやらないといけないのよ…、」

「……いつから可笑しくなったんだろうな。…俺は勝手に大人は子供を守るものだと思ってた。現にじいちゃんは俺を守ってくれてた。…まぁ、無茶させることもあったけど。それでもちゃんと守ってくれてた」

「私達は呪術師でも、生き物で、人間で、…子供なのよ。…なのに、なんでこんな、」

「……歯痒いよな。友達が困ってんのに、何も出来ないのが」

「………なにが御三家よ、馬鹿じゃないの、」





釘崎の言葉を聞いて窓から見える空を見上げたら皮肉な程青く澄みきっていて眉を寄せることしか出来なかった。





∴∴∴∴





「……名前、」






日付が変わる頃に任務が終わって軽くシャワーを浴びてベッドに座ろうとした時、扉の先で恵くんの声がして扉を開く。






『…恵くん』

「夜遅くに悪い」

『ううん。大丈夫。どうかした?』

「少し話たい」




恵くんを部屋に招き入れてベッドにふたりで腰を下ろす。久しぶりの恵くんに何を言っていいのか分からなくなってしまった。



「………」

『……恵くん?』





手が握られて彼を見上げると視線が交わって唇が重なった。そのまま角度を変えられて少しずつ後ろに倒れて気がついた時にはベッドに押し倒されていた。





「名前…、」

『………』





首筋に顔を埋めて少し苦しそうに名前を呼ぶ恵くんの髪を撫でる。首筋に何度も吸い付かれて甘い痛みが走って少し涙が出そうになった。





『っ、アッ、』

「名前っ、」





ナカに恵くんのが奥まで入れられてグッと息を飲む。いつもよりも苦しいお腹に耐えきれず彼の背中に爪を立てる。




「好きだっ…、」

『…んっ、…、』





体を抱きしめられるように腕を回されて、更に奥を突かれる。苦しいのがお腹なのか胸なのかよく分からなかった。





「…愛してるっ、」





耳元で呟かれた瞬間、頭が真っ暗になって意識が遠のいた。私はこの感覚を嫌という程知ってる。何度も味わってきた重い呪い言葉。離れたくなくて必死に彼の背中に爪痕を残す様に爪を立てる。馬鹿。ふざけんな。本当有り得ない。





「…名前、……ーーー」

『……わたし、だって、』






最後に見えた恵くんの表情は酷く、








『……………』






太陽が昇ってすらいない時間に目が覚めてゆっくりと隣を見ると、誰も居なかった。するとチャリンと小さ過ぎる音がして上体を起こして首元を見る。




『…………本っ当…、』





首元には指輪が付いていてそれをグッと握って唇を噛み、机に視線を向ける。そこにはたった1枚の紙切れが残されていた。





別れよう






『…………』





なら、どうして私を好きだなんて言ったの。愛してるなんて言ったの。こんなことするなら最初から私を助けたりしないでよ。会った時に見殺しにしてくれれば良かったのに。そうすればこんな痛みを知る事もなかったのに。愛情を知る事も、なかったのに。





『…っ、…ほ、んとっ、有り得ないっ、』





私に愛情を与えておいて、私に幸せを感じさせといて、私を愛してるなんて言っておいて、こんな紙切れで終わりにするなんて。

こんなに苦しいなら最初から愛してるなんて言わないでよ。私に夢を見させないでよ。こんなに苦しいなら愛情を知らないままずっと独りで居る方が余っ程楽だったのに。





私を、置いていかないでよ





『……本当…、最ッ低』





捨てるならちゃんと、こんな風にしないで。最初から私を愛さないで。アンタのせいで余計に苦しくなった。知らなければこんなに苦しまなかったのに。
アンタのせい。全部。私に夢なんて見させるから。だから余計に辛くなる。
もっと傷つけて、ぐちゃぐちゃにして、目も当てられないような、紙くずを捨てるみたいに、簡単に、





『…………大っ嫌い』






こんな甘く、優しく残酷に私を守ら捨てないで。



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