どうして石ころに生まれなかったのか



『…………、』




瞼を上げると天井が見えた。でもこの天井所々にシミがある。あとほんの少し黄ばんでる。





「あ、起きた?」

『…家入さん、』

「本当に危なかったよアンタ。腹は抉られてるし出血は多すぎるし腕なんて明後日の方向向いてたし」

『……それは、ヤバいですね』

「うん。超ヤバかった」





淡々と答える家入さんに本当に危なかったのだろうか、と疑問が生まれたけど傷的には本当に危なかったのだろう。




『………今、何時ですか』

「苗字がここに担ぎ込まれたのが18時で、今は15時」

『………………………………?』

「ほぼ1日経ってるって事」

『…あ、なるほど』

「本当に大丈夫?頭ぶつけた?」

『寝惚けてるだけだと、思います』




頭を小さく左右に振ると家入さんに怒られた。反転術式を使ったとはいえ、すぐに頭を振るのは軽率だった。





『……家入さんは、禪院直哉って知ってますか』

「禪院直哉…………………………そういえばそんなの居たかも」

『……凄い間がありましたね』

「私が高専に通ってたの何年前だと思ってんの?」

『…高専ってことは、後輩ですか』

「向こうは京都校だけどね。交流会で馬鹿ふたりにボコボコにされてた」

『五条先生と、…夏油さんですか』

「そう」




家入さんは椅子に座ってコーヒーの飲むとクルクルと自分の髪をいじった。





「そいつにやられたの?」

『やり返そうと思ったら、やり返されました』

「禪院家なだけあって雑魚ではないからな」

『………そうですね』






認めたくないけど、弱くはなかった。私なんかより強かった。まぁ、挑発に乗ってさとるくん出さなかった私も悪いけど。





「最近アンタのいい噂も聞かないけど?」

『奇遇ですね。私も自分のいい噂を聞きません』

「呪詛師と繋がってるとか、反逆を目論んでるとか。…………禪院家の次期当主の暗殺を目論んでるとか」

『私を忍者か何かと勘違いしてるんでしょうね』




別に自分が火影になろうとか、写輪眼を奪おうとかそんな気はないのに。そもそも忍術使えないし。





「そのせいで伏黒の任務が増やされてるんだって?」

『私も鬼のように増えましたけどね』

「大丈夫なわけ?五条が手を打ってるとは思うけど相手は御三家だよ」

『………本っ当に厄介ですね。呪術師は』

「厄介だから呪術師なんだろ」

『………好きな人とただ普通に幸せになりたいっていうのは、強欲ですか、』

「呪術師が普通を望むのは強欲だろうな」




腕を目元に当ててグッと唇を噛む。やっぱり神様は私のことが嫌いみたいだ。どうしても私を幸せにはしてくれないらしい。




「でもアンタが本当に心の底からただの幸せを望むなら手はあるんじゃないか?」

『………』

「呪術師はヤクザじゃない。辞めるのだって苦労は無いはずだ」

『………でも、残された人達は、』

「あとはオマエの天秤がどちらに傾くかだけの話だ」




選べるわけが無い。私にとっては恵くんが全てだ。でもだからって野薔薇達を見捨てることも出来ない。私なんかを親友だと言ってくれた野薔薇。裏切った私をもう一度受け入れてくれた虎杖くん。傷つけたのに私を大切にしてくれる先輩たち。
捨てられない。どちらも大切で私には勿体なさすぎる程素敵な人たちだ。



でもその気持ちと裏腹に私の心の奥底では逃げてしまえと叫んでる。全てを捨てて逃げてしまえばいい。恵くんとふたりで、呪術師なんて関係ない、ただ普通の幸せを掴むために。




「私、少し出るけどどうする?」

『…もう少し休んでてもいいですか?』

「いいよ」





家入さんが出たのを確認して布団の中に蹲る。気持ち悪い、吐きそう。頭が重たい。涙が出そう。





『………たすけて、』





布団の中の暗闇は余計に心を不安にさせた。どうしたらいいの。ただ恵くんと居たいだけなのに。どうして。心が折れそう。全てを捨てたい。何もかも。




『………恵くん、』






酷く震えた弱い声は暗闇の中に吸い込まれて自分の頭の中だけ強く響いた。



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