希望の味方



「……昨日まであんなに不穏な空気だったのに何があったわけ?」

『恵くんの意地悪の結果が引き起こした事故でした』

「はァ?じゃあなに?伏黒が全部悪かったわけ?」

『うん』

「うんじゃねぇ」




野薔薇の質問に答えると軽く頭を叩かれた。でも本当の事だ。




「まぁまぁ!仲直りしたなら良かったじゃん!」

『虎杖くんがいい子すぎてお姉さん泣きそう…』

「えぇ!?俺ら同い年だよな!?」

『恵くんも虎杖くんのいい子さを見習った方がいいよ?』

「よく聞こえなかった」




恵くんはそう言って私の頬を抓った。その手をそのままにしてると虎杖くんが外を見て声を上げた。





「伏黒ー、また来てるよあの子」

「アンタ何をどうしたいわけ?」




虎杖くんの言葉に唇を尖らせて頬を掴まれてる恵くんの手を払ってそっぽを向くと私とは反対に嬉しそうに頬を緩める恵くんは私の髪を耳にかけて頬を撫でた。だから嬉しそうにするのがイカれてるんだよなぁ…。





『……行ってきたらどうですか』

「どこに」

『門で可愛い子が待ってるんじゃない?』

「俺は名前に構うのが忙してくて手が離せないって言っといてくれ、虎杖」

「また俺ぇ!?」




虎杖くんは肩を落としながらも教室を出て行ってしまった。虎杖くん可哀想。恵くんのせいだ。





「妙に機嫌良いのが気持ち悪いわね」

『本当にね…』




苦笑を浮かべて野薔薇の言葉に相槌を打つと髪を梳かれる。



「というか伏黒はあの女のこと知ってんの?」

「…………」

「……もしかして顔すら覚えてないとか言わないわよね」

「……………」




恵くんはスーッと視線を逸らして明後日の方向を向いていた。顔すら覚えてないのは逆に才能だよ…。




「……別に向こうだって俺に惚れてたわけじゃないんだからいいだろ」

「コイツ将来ヒモになるわよ。クズの香りがプンプンする」

『恵くん何気に凄いこと言うよね…』

「伏黒には名前以外がへのへのもへじにでも見えてるんでしょ」

『へのへのもへじ…』




恵くんの顔でへのへのもへじを思い浮かべて吹き出すと額が弾かれた。でも自分でデコピンしながら前髪を直してくれるから流石だ。




「……なんか、気持ち悪いわね」

『え?』

「ベタベタしてないのに変に甘いのよ、雰囲気が」

『そ、そう?』

「伏黒に変な余裕があるのも気がかりね」

『そっ、そんな推理しなくても…!』

「しかも妙に伏黒の機嫌も良い割に、名前はそんなにテンション高くないわよね」

『のっ、野薔薇さん!もうやめよう!?』

「……………」





野薔薇は考え込むように右手を顎に当てると、教室の扉が開かれて虎杖くんが戻って来た。





「言ってきたよ〜…」

「虎杖アンタ昨日部屋にいたわよね?」

「え?そりゃあ寮だからね」

『野薔薇さぁん!』

「昨日変な物音しなかった?」

「え?」

『虎杖くんも真剣に考えなくていいよ!』




野薔薇の質問に虎杖くんまで真剣に考え込んでしまった。もうやめて…!恥ずかしくて死ねる!




「そういや物音したかも…、伏黒の部屋の方で」

「………ふーん」

『そのニヤニヤ顔やめて…』





恥ずかしさから両手で顔を覆うと恵くんに手を取られて顔を覗き込まれる。




『な、なに…?』

「昨日の顔と似てんなって」

『〜っ、』




意地悪な笑みを浮かべてそう言う恵くんの手を振り払って立ち上がり机をバンバン叩く。





『もー!なんなのみんなして!やめてよ!』

「え、俺も!?俺何もしてないんだけど!?」

「そんな恥ずかしがらなくてもみんな気付いてるわよ。今度一緒に下着買いに行く?」

『ぎゃあ!そういうこと言わないで!』





野薔薇は新しいおもちゃを見つけたようにニヤニヤ笑って私と肩を組む。笑い方まで真希さんに似てきた気がする…。





『穴があったら入りたい…』

「えっと、よくわかんねぇけど、どんまい?」

『虎杖くんだけが私の味方だよ…』





励ますように言ってくれる虎杖くんに感謝していると携帯が鳴って電話に出ると相手は伊地知さんだった。




『はい苗字です』

「伊地知です。…申し訳ないのですが今から任務に向かっていただくことは出来ますか?」

『はい。他の任務も入ってないので大丈夫です』

「ありがとうございます。今から30分後にお迎えにあがります」

『よろしくお願いします』





画面をタップして顔を上げると恵くんと視線が合った。





「任務か?」

『うん。準備しないといけないから先に寮に戻るね』

「頑張ってなー!」

「いってらっしゃーい」

『いってきます!』





教室を出ると恵くんも教室から出るから首を傾げると手を取られて指を絡め取られた。




「送る」

『ありがとう』





恵くんは小さく頷いてスマホを取り出して少し操作すると私に見せてくれた。




『あ!ここ私が行きたいって言ってたお店!』

「休み重なったら行くか」

『行きたい!』





楽しみが出来たなぁ、なんて思いながら恵くんを見上げると唇が重ねられた。そのせいで歩みが止まってしまった。




『…………なんで今?』

「はしゃいでて可愛かったから」

『……なんか、恵くんに余裕があってムカつく』





不満を露わにすると恵くんはパチパチと瞬きを二回して首を傾げた。





「余裕は別に無いけど」

『だってなんか妙に手慣れてるし…』

「名前しか好きになった事無ぇのに慣れるも何もねぇだろ」





当然のように答える恵くんに心臓を抑えて唇を噛み締める。突然こういうこと言うから心臓に悪いんです彼。




『私も恵くんしか好きじゃないです…』

「当たり前だろ」





口ではそう言いながらも少し嬉しそうに頬を緩ませる恵くんに胸がキュンって音がした。かっこよくて可愛いいってどういうことなの。彼氏が完璧過ぎて吐血しそう。



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