銀色の卵(完) | ナノ

おさない恋の殻を割る




「これから一緒に勉強をする虎杖悠仁くんと釘崎野薔薇ちゃんでぇ〜っす!」

「虎杖悠仁!よろしく!」

「釘崎野薔薇よ」

『苗字名前です!よろしく!』

「そして僕の奥さんです!」

「えー!?」

「えっ!?苗字って俺らと同い年じゃねぇの!?」

『違うから!』




釘崎さんと虎杖くんは荒らげていた。私がいくら否定してもふたりには届いてなくて焦ると肩と頬に温もりを感じた。視線だけを横に向けると白と黒が見えた。




「悠仁ー、名前は好きになっちゃ駄目だよ〜」

『熱い!頬擦りし過ぎて頬が焼ける!』




体を押し返そうとしても肩を抱かれているせいで距離が開くことは無かった。すると教室の中に伏黒くんが姿を現した。





「………………」

『ふ、伏黒くん、おはよう』

「…………」






伏黒くんは無言でスマホ取り出し数秒操作して耳に当てた。





「………もしもし警察ですか?未成年に手を出してる不審者がいます」

『待ってぇ!?先生!一応先生だから!伏黒くん!』

「一応ってなに?僕ちゃんと先生なんだけど?」




伏黒くんは私の言葉に少し残念そうにスマホを仕舞ってくれた。





「それで、五条先生は何がしたいんですか?」

「なに?…え?言っていいの?」

「……やっぱり言わなくていいです」





伏黒くんは心底嫌そうな顔をすると私達から距離を取った。私は何もしてないのに…




『五条先生…、離れてください』

「………今日の分の先生は終わりましたー。今の僕はただの悟くんでーす」





そう言って悟は私の首に腕を回して後ろから抱きしめるように肩に顔を埋めた。それ見て釘崎さんはゲシゲシと悟の足元を蹴っていた。



「さっさと授業始めろや!」

「名前が僕と結婚してくれるまで動かない!絶対に!」

「はァ!?アンタそれタチ悪いストーカーじゃない!」

「先生って……なんで先生やれてるんだろうな」

「結婚してくれるまでって死ぬまでそのままじゃないですか。アンタら餓死でもするつもりですか?」

『流石に餓死する前には離れるよ…』

「死ぬまで!?僕と結婚する気ないの!?キスまでしたのに!?あんなことやこんなこともしたのに!?僕のことは遊びだったの!?」

『みっ、みんなの前で変なこと言わないで!』





突然変なこと言うから勝手に顔が熱くなった。ちょっと、本っ当にちょっと唇が当たっただけだし!危ない事とかいやらしい事してません!本当に!




「………………」

『ぎゃあ!?』





無表情の悟に正面から抱きしめられて顔が胸元に押し付けられて息が苦しい。





「ちょっと見ないでくれる?僕の奥さんの可愛いところ。僕だけの特権だから。見ないで」

「別に誰も見てません。興味ありません」

「はァ!?見てよ!こんなに可愛いんだよ!?」

「どっちだよ…」

「っていうか前から思ってたけど恵は名前と仲良すぎ!なに!?僕に嫉妬させたいの!?言っておくけど僕の方が名前のこと知ってるし分かってるから!」

「意味わかんねぇ…」




伏黒くんの呆れた様な声がして申し訳なくなる。心の中で謝りながら悟の背中を叩くとゆっくりと体が離される。





『そろそろ授業始めましょうよ』

「敬語…、寂しい…」

『生徒と先生ですからね』

「………………はいはい分かりました授業を始めます!」





悟は私から離れると教卓に立ってチョークで黒板に文字を書き始めた。






「悠仁と恵と野薔薇は体術の基本からね!」

『え…私は?』

「帳の下ろし方を教えます!」

『なんで!?』

「名前には将来僕専属の補助監督になってもらいます!」

『えぇ…!?』





悟のキャラが変わりすぎてついていけない。昔はツンツンツンツンしてて冷たい感じだったのに。どちらかというと伏黒くんみたいな感じだったのに。





「心配しなくてもちゃんと幸せにしてあげるから。安心してね」

「分かりました。通報しますね」

「五条先生は駄目よ。絶対将来泣かされるわ」

「五条先生強いし面白いんだけどなー」

『あ、あはは…』





苦笑を浮かべると悟は悲しそうに顔を歪めていた。なんか白々しいんだよなぁ。




「授業中失礼します」

「あれ?伊地知さん?どったの?」

「虎杖くん、伏黒くん、そして釘崎さんに任務です」

「俺ら3人?」

「はい。伏黒くんはひとりでですが、虎杖くんと釘崎さんで任務です」

「よっしゃ!いってらっしゃーい!」

「………苗字に変なことしないでくださいね」

「しないしなーい!任務頑張ってねー!」





伏黒くんは教室から出るまで悟を睨んでた。信用ないな。まぁ、仕方ないか。3人が居なくなって悟は頬を緩めて私を椅子から立たせると自分が腰を下ろして私を膝の上に乗せた。




『じゅ、授業は…?』

「んー?授業よりも愛を深めようと思って」

『授業の方が大切だと思うなぁ…』

「僕は夫婦の絆を深める方が大切だと思うなぁ」

『夫婦じゃないし…』




眉を下げて否定すると悟は私の頬に手を当てて親指で唇を撫でた。反射的に口を噤むと楽しそうに笑った。





「なに?緊張してるの?」

『そ、ういうわけじゃない、けど』

「ね、僕の目隠し外してよ」

『え?』





首を傾げながらも目隠しに手をかけてゆっくりと下ろすと悟はそのまま唇を重ねた。突然の事に目を見開くと悟の宝石のような瞳と視線が交わってフッと柔らかく緩められた。





「結婚式いつにする?」

『け、結婚するって、言ってないんだけど…』

「え?しないの?なんで?」

『えぇ〜…』





悟は仕方ないとでもいわんばかりに深く溜息を吐いて私の手首をギュッと掴んだ。





「じゃあ今から3秒数えるから逃げていいよ。僕から逃げられたら結婚は諦めてあげる」

『3秒っていうのがまずおかしいし、手首が掴まれて逃げられすらしないんだけど』

「はい、3秒経った〜。はい結婚」

『ん?言葉通じてないのかな?逃がす気ないよね?』

「うんないよ。当たり前じゃん」





悟はニコーっと笑みを浮かべるとポケットからあるものを出して私の膝に乗せた。




『……………』

「渡しておくね。好きに使っていいよ。でも将来のことも考えて使いすぎないでね」

『………………………』





渡されたのは通帳と判子で正直引いた。何となくの好奇心で中を恐る恐る覗いて見た。





『……………特級呪術師しゅごい』

「え?なに?もっかい言って。特級呪術師じゃなくて悟のって言って」

『通報しますよ』

「ごめんなさい」




通帳に書かれている額が笑えない額だった。遊んで暮らせる。そして笑顔で通帳を渡してくるこの男が怖い。





「結婚式はハワイでやる?楽しみだなぁ」

『前から思ってたけどなんでそんなに結婚にこだわるの?』

「え?」

『付き合うとかじゃなくて、結婚って言ってるじゃない?どうしてかなって』





ずっと思っていた質問を悟にぶつけると、彼はキョトンと首を傾げて優しく花が咲くように笑って私の髪を撫でた。




「だって結婚すれば法的に縛れるんだよ?離婚したいってなっても僕が認めない限り別れられない。しかも名前は呪術師としては弱いし、僕お金あるから自動的に名前は専業主婦になるでしょ?つまり半監禁が法に触れずにできるんだよ?最高じゃない?」

『…………………………………』





瞳から光を消して言う悟に恐怖を感じた。この子はどこで道を間違えたのかな…。拗れすぎじゃないのかな…。





「ふふっ…、僕の奥さん可愛いなぁ…」

『………………ソウデスネ』






頬を緩めて髪を梳く悟に小さく返事をするとまた唇を重ねられた。




「……舌を絡ませてるわけでもないのに本当に好きな人とのキスってなんでこんなに幸せになるんだろね」






そう小さく頬を少しだけ赤らめて言う悟にギュッと心臓が掴まれた。我ながらちょろい。





『……と、とにかく私が卒業するまでは、結婚はできないよ』

「もちろん待つよ」

『結婚については、その、卒業してから、考えます…』

「うん。ゆっくりと悩んでよ」




そう言いながらもまた唇を重ねるから本当に考えさせる気はあるんだろうかと疑ってしまう。それを受け入れてる私も私だけど。





「……好きだよ名前、ずっと前から」

『……私も、好きだよ、』





そう言った瞬間唇を重ねられて吸われた。手足をばたつかせたけど完全に抑え込まれてバシバシと背中を叩く。すると教室の扉が勢いよく開かれて危機を察知してくれた伏黒くんが戻ってきて悟と私を引き離してくれた。




「何考えてるんですかアンタ!」

「任務行ったんじゃなかったの!?」

「嫌な予感がして戻ってきたんですよ!」

「戻って来なくていいよ!折角イチャイチャしてたのに!」

「授業をしろ!」






生徒に正座をさせられてる悟が面白くて小さく笑うと昔のようなガラの悪い視線で私を睨んだ。





『もう少し大人になってください、先生』

「あ、今の先生よかった。もう1回言って」

「アンタいい加減にしろ」





この調子で卒業まで待てるのかな、なんて思いながら苦笑を浮かべる。子供の時は大人ぶってたのに、大人になると子供ぶるのは一体なんなのかな。そこも可愛いんだけど。
私も冷静ぶってはいるけど、ずっと好きだった人に好きだって言ってもらえることがこんなにも嬉しくて幸せで緊張するものなんて初めて知った。




『……卒業までに五条家を黙らせてね』

「まっかせなさい!」





胸を叩いて鼻を鳴らす悟に笑うと伏黒くんが私に牙を向いた。




「苗字が甘やかすからこの人が調子に乗るんだ!」

『ご、ごめんなさい…』

「ついでに禪院家も滅ぼすね!」




キラッと星が出そうなほど綺麗なウインクを決めた悟に結構引き摺ってるんだなぁなんて思いながらまた苦笑を浮かべる。本当に滅ぼせてしまうだけの力があるから怖いよね。




「あー早く名前が結婚という名の名目で僕のものにならないかなー。早く色んなことしたいな〜。半監禁したいなぁ〜」

「…………本当にこの人でいいのか?」

『………私も不安になってきた』




凄いことを言っているのに酷く楽しそうな姿が可愛く見えてしまう私も大概だな、なんて思いながら伏黒くん引いた顔に苦笑を返す。でも悟がいてくれれば私の未来はきっと幸せだ。