銀色の卵(完) | ナノ

伝えたいものはすべてこの心臓の中にある




『伏黒くん待ってー!』

「歩くの遅せぇよ」

『足の長さを考えてよー!』





4月になり恵と名前が入学した。……のはいいんだけど。




『あ!桜!桜咲いてるよ伏黒くん!』

「あーそうだな」

『興味持って!』




仲良すぎだと思うんだよね。まだ会って数日だよ?距離が近すぎると思うんだ。僕とは全然話してくれないのに。僕とは出会って5年と数ヶ月なのに。名前には記憶ないけど。





「ってことなんだけど。どう思う?」

「どうでもいいしキモイ」

「え〜…」

「それにアンタの話が本当にそうだったとしても名前は高校生だ。手を出せばお縄につくのはアンタだよ」





硝子はそう言って面倒臭そうに眉を寄せた。僕だって高校生に手を出すつもりは無い。いくら呪術師でもそこら辺の境界線は分かってるよ。





「………あと3年か」

「狙う気満々じゃん」

「当たり前でしょ」




二度と会えないと思ってた子がもう一度僕の前に現れたんだから何がなんでも手に入れるよ。





「五条先生」

「恵?どうかした?」

「苗字が弱すぎるのでどうにかしてください」

『酷過ぎないかな!?その通りだけど!』





扉を開けて入るなり恵はそう言った。するとその後ろから名前が傷付いたように顔を歪めてひょっこり顔を出した。




「なんで僕?別にいいけどさ」

「俺はこれから任務があるので」

「んー、まぁいいよ」





椅子から立ち上がってポケットに手を入れると名前は首を左右に振った。





『いえ!五条先生のお手を煩わせるわけには!』

「高専にいるってことはどうせ暇なんでしょう?」

「恵は僕をなんだと思ってるの?」

「さっさとうるさいそこのバカ連れて出てってくれる?私は暇じゃないんだから」

「僕だって暇ではないけどね」

『え、』

「なーんてね!暇すぎて世界滅ぼしに行こうか迷ってたくらいだから!」

「じゃあ俺が任務から戻ってくる頃には世界を滅ぼせるくらいに苗字を成長させておいてくださいね」





恵はそう言うと部屋を出て行ってしまって、僕達も硝子に追い出された。






『…えっと…』

「とりあえず鍛錬所行こうか」

『は、はい!』





どこか緊張した面持ちの名前を連れて鍛錬所に向かい、中に入って振り返る。やっぱり名前の表情は固かった。






「さてと、組手にする?それとも呪力ありにする?」

『………く、組手で、』

「ん、組手ね」




軽く首を回して準備を始める。まぁ名前相手なら準備もいらないんだけど。




『……組手で死ぬことってありますか?』

「みんな揃って僕をなんだと思ってるの?制御出来ないガンダムだとでも思ってるの?」

『お、お手柔らかにお願いします!』

「はいはい。んじゃあ好きなタイミングでいいよ」




まぁ、結果は言わなくてもわかるだろうけど、名前は本当に驚く程弱かった。無限切ってたのに僕に触れられもしなかった。





「……………」

『可哀想な目するのやめてください!』

「……名前さ、なんで呪術師になろうと思ったの?お世辞にも向いてるとは言えないけど」





疲れきって膝と手を地面につく名前の前にしゃがみ込むと、グッと手のひらを握って唇を噛み締めていた。





『……物心がついたときから、変なものが見えたんです。家族には打ち明けられなくて、それで自分で調べたんです。…そしたらこの学校が有名だって知って…、それで…』

「………」

『それで…、呪術師になれば…、ならないと…、呪術師の…』

「…………」

『お金も困らなくて…、呪術師は…、呪術師なら…、』






説明下手くそ!!やっぱり下手くそ!!15になっても説明下手くそすぎる!前半いい感じだったのに後半が意味わからない!




『………………そういうことです』





どういうこと!?いい感じでまとめましたみたいな顔してるけど全然分かんないんだけど!




「…………名前さ、説明下手くそって言われたことない?」

『…………………ナイデス』

「じゃあ僕が言うけど説明下手くそだよ」

『先生の読解力の問題じゃないですか?』

「読解力じゃなくて理解力じゃない?それに誰が聞いても理解できないよあれは」

『………』





名前は分が悪そうに視線を泳がせていた。フーっと少し呆れて息を吐くと何だかお腹の辺りがスっとしたような気がした。






「まぁ、そこも名前の長所だからね」

『バカにしてます?』

「褒めてんの」



髪を撫でると名前は少しだけ目を見開いてすぐに唇を噛んだ。子供扱いされるのがそんなに嫌か。思春期だねぇ。





「でもまぁ、死なないようにもう少し強くなろうか」

『…………ハイ』

「僕だって毎回助けに入れるわけじゃない。任務は一人でこなす事だってある。死にたくないでしょ?」

『当たり前です』

「なら強くならないと」

『おっす!』







強く頷く名前にバレないように口元を緩める。
まぁ、何があっても僕が助けるし、絶対に死なせないんだけどね。