不自然がしあわせを連れてくる



「おっ、成功したみたいだね」

『……五条さん?』

「大丈夫か?」

『恵までいる』




ゆっくりと瞼を上げると、私の前には五条さんと恵が居た。すると恵は私の頬を片手で確かめる様に撫でた。その手がこそばゆくて肩を竦めると、彼はホッと息を吐いて私の顔をジッと見た。





『何かついてる?』

「眉毛と目と鼻と口と耳がついてる」

『子供か』



恵は至極真面目そうに答えると私の額を人差し指で弾いた。体の線は細いけど力はそこそこあるんだからやめて欲しい。力が関係あるのか分からないけど。






「これで正真正銘、名前は恵の式神だよ」

『式神…!』

「なんで興奮してんだよ…」

『さっき思ったんだけど式神ってよくアニメとかに出てくるよね!……は!もしかして私強くなってたりして…!?』

「いや、名前は元々一般人で呪霊になったからそんなに力は無いし、見た目も人のままだからね。特に力は無いよ」

『そっ、そんな…!?』





床に手を付いて項垂れると背中をポンポンと叩かれ慰められる。顔を上げると恵の瞳の下にはクマが出来ていた。それも1日2日では有り得ないくらいの濃さで。





『恵最近寝てる?』

「寝てる」

『でも昨日から今日は寝てないでしょ?』

「一昨日寝た」

『人間は毎日寝るものだよ?』




私が顔を覗き込むとバツが悪そうに顔を逸らしてしまった。カーテンを透かす太陽は随分と上にあがっている。そういえば今日は何月何日の何曜日なんだろう。もしかして恵はこれから学校なのかな。




『これから学校?』

「今は冬休み」

『ってことは受験?』

「俺は進学先決まってる」

『そっか!なら安心だ!』

「何がだよ」






恵の隣に正座で座り込んで彼の頭に手を回して自分の膝の上に移動させると、恵は驚いたように小さく声を出して目を見開いていた。





『上は向かないでね。下から見られるのは女の子にとってNG行動だから』

「…何やってんだよ」

『恵に寝てもらおうと思って。でも寝てって言っても寝ないでしょ?だから実力行使しようと思って』

「…………」





流石の恵も眠気には勝てなかったのかゆっくりと瞬きを繰り返した。そして体を反転させて私の方へと向くと小さく呟いた。




「………少しだけ寝る」

『うん』





恵の髪を撫でると、瞼を閉じて少しだけ体を丸めた。子供っていうよりは猫みたい。懐かない所とか、甘えベタな所とか。





「でもさ名前、恵が意識を失ったら消えるんだよ?」

『消えても、死ぬわけじゃないですから。起きた時に一緒に居れないのは寂しいですけど、眠る時だけでも安心して眠って欲しいんです』

「ふーん…」





五条さんはそう言うと立ち上がって毛布を持ってきてくれた。意外と優しい上に、この家に詳しいみたい。どこに何があるのかを知ってるみたいだ。





「ちなみに昨日は名前のお葬式だったよ」

『…なんか、変な感じですね。私は、こうして存在はあるのにお葬式まで開かれちゃって』





クスリと笑って恵の髪を指で梳くと体から変な感じがした。恵が本格的に意識を手放すのかもしれない。






『五条さん』

「ん?なに?」

『恵のこと、よろしくお願いします。意外と寂しがり屋なので』

「…なんで僕に言うの?」

『私はどんなときも一緒に居られるわけじゃないですから。こうして恵が眠ってしまえば私は存在を保てない。だから私が居られない時は五条さんにお願いしようと思って』

「子供のお守りは嫌いなんだけど」

『そんな事言わずにお願いします』






笑ってお願いすると五条さんはフッと口元を緩めた。私は恵の耳元に唇を寄せて小さく呟いた。多分もうすぐ私の体は消えるから。





『……おやすみなさい』






私が居なくなった後、恵が頭を打たない事を願いながら私の意識は深い暗闇に落ちていった。

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