遠ざかる夜の遊園地



「一般人のみが閉じ込められる帳≠ナす。一般人は侵入のみ。窓≠ノは個人差が。術師は補助監督役含め出入りが可能です」

「電波は?」

「断たれています」

「連絡は帳≠出て行うか補助監督われわれの足を使って下さい」

「随分と面倒なことになってますね」

「伏黒、伏黒」



恵に連れられて帳の外である東京メトロ渋谷駅13番出口側に来ると、伊地知さん、七海さん、猪野さんが居た。猪野さんはあまり緊張感がない人なのか恵にちょっかい?かけていた。




「帳′糾Eの効力の足し引きに使える条件っていうのはな、基本呪力にまつわるモノ≠セけなんだ。ざっくり言うと人間・呪霊・呪物だな。だから電波妨害とかは帳≠ェ降りたことによる副次的効果であって帳≠フ結界術式そのものには電波の要否は組み込めないんだぜ」

「あ、はい。知ってます」

「猪野君、彼は優秀です。先輩風は程々に」

『恵もそこは知ってても知らないフリするのが可愛い後輩だよ?』

「は?知ってるもんは知ってるんだから別にいいだろ。それに基本中の基本だ」

『……恵、それは大きな声で言っちゃ駄目なやつ』





猪野さんを見ると少し落ち込んでいた。すみません、恵が気を使えないやつで。




「それで五条さんは?」

「もう既に到着していると報告が入っています」

「そうですか」




七海さんと伊地知さんの会話を後目に恵に視線を移すと視線が合った。




「なんだよ」

『特に用事はないけど何となく見たら目が合ったから』

「俺も別に用はない」

『じゃあなんで見てたの?』

「また泣いてんのかと思って」

『泣いてないよ…』





ジト目で恵を見ると笑われた。しかも馬鹿にした感じで。





『……………ムッツリのくせに』

「あ?」

『イケメン童貞』

「誰のせいだと思ってんだ」





恵は私の頭を片手でリンゴのように掴むと青筋を浮かべて力を加えた。別に痛くないもんねー。ばーかばーか。




『うに頭ー!まつ毛お化けー!ブリーダー!現代のムツゴロウさーん!』

「ガキかオマエはッ!」




幼稚な言い合いをしていると七海さんに溜息を吐かれた。恵ってば溜息吐かれてやんのー。可哀想なヤツ〜。




「………」

『え、なに?どうかした?』






恵が急に黙り出して周り見ると七海さんや猪野さんも真面目な顔をしていて、巫山戯ていい場面じゃないな、と恵の手を外す。





「帳が下りた…?」

『…え?元々帳は下りてたんじゃないの?』




恵の言葉に首を傾げると七海さんが口を開いた。




「だから我々も待機をやめ、突入…。仕方のないことですが対応が後手に回りすぎです。だが一番気がかりなのは…」

「同」

「同時に下りた術師を入れない帳≠ナすね」

「五条先生が現着してからそこそこ時間が経ってる。何故このタイミングなんでしょうか」

「中で何かがあったか、戦略上このタイミングである必要があったのか。確実に言えるのは無策で挑んでくるタイプではないということ。私は帳≠降ろしている敵を。2人は片っ端から一般人を保護してください」




何故かキメ顔している猪野さんの肩をポンポンと叩いてウンウンと頷く。本当に恵が気を使えなくてすみません。




「おい何してんだ。行くぞ」

『恵はもうちょっと気を使える子になろうね』

「は?」




そう言いながら走り出そうとした時聞きなれた大声が聞こえた。





「ナナミーーーーーーン!!」

「!?」

「ナ…ナナミン…?」

「ナナミンいるーーーーーー!?」

「イタドリ…?」

『七海さんのあだ名可愛い…!』

「五条先生があっ!!封印されたんだけどー!!」

「ーっ!」

「封印!?」

「2人共、予定変更です。すぐに虎杖君と合流します。もし封印が本当なら……、終わりです。この国の人間全て」





七海さんの言葉に冷や汗が流れた気がした。だって人間全て≠チてことは、恵も入ってる。






『…………』

「おい」

『っ、』




後頭部を小突かれて振り返ると恵が半目で私を見下ろしていた。





「何青い顔してんだ」

『だっ、だって!』

「あの人がそんな簡単に死ぬわけないだろ。心配すんな」

『……そ、うだよね』

「さっさと行くぞ」

『…うん、』






私は恵に戻されて、もう一度呼ばれて気がついた時には高いビルの看板の上にいた。多分鵺か不知井底を出して登ったのかな。私とは違ってとても有能な同士だ。




「ナナミーン!…ナ・ナ・ミン!ナ・ナ・ミン!」

『三三七拍子?』

「おい………おいって」

「ナナナナナナミン!!」

『やっぱり三三七拍子だ!』




運動会で応援団がやってくれるやつだ、と感動していると恵が虎杖くんの頭を叩いていた。落ちないようにしてよ?



「ナナミン!ん誰!?」

「ナナミンってマジで七海サンのことだったんだな」

『ダンディなのにあだ名可愛い…!!ギャップ萌え…!』





私が両手を合わせて七海さんのギャップ萌えをしていると恵に後頭部を叩かれた。しかも結構な強さ。私が痛み感じないからって。






「特級とソイツらが連れてきた呪霊。夏油の息のかかった呪詛師、そして改造人間と一般人」

「確かにそれなら地下鉄の隣駅から攻めた方が速い。だが、そのためにはまず帳≠解かなければ」

「緊急事態だ。マルチタスクで頼ム」





難しい話が始まって私は空気を壊さないように恵の隣で黙りながら猪野さんを見上げる。…そこどうやって座ったんだろう。そこまでよじ登ったのかな。…それとも高いところから降りれなくなっちゃった…?



1級わたしでしか通らない要請がいくつかある。外に出て伊地知君とそれらを全て済ませてきます。3人はその間に術師を入れない帳≠解いてほしい。………猪野君」

『…あ、降りれたのか』

「何言ってんだオマエ」





恵の言葉をスルーしていると猪野さんが急に大声を上げたから少し体がビクってしてしまった。





「オマエらぁ!!」

『ほわっちょ、』

「ほわっちょ…?」






驚いた声に恵が反応したからまた無視をすると難しそうな話を猪野さんが始めた。私は瞳を閉じて考えることを放棄した。私には理解が出来なかった。というか聞くことを諦めた。





「その1で内輪がゴタついている時、その2の奴らとプチ戦争なんて起こしてみろ。負けるぜ!俺と七海サンはそう読んでる。負けたらどうなる?」

「少なくとも日本では人間の時代が終わるかもしれないですね」

「分かってんじゃねーか。いくぜ後輩ちゃんズ!七海サンが戻る前に帳≠ブッ壊す!!五条悟。助けるぞ!!」





こんな時に思っちゃいけないんだろうけど、なんか、漫画の打ち切りの俺達の冒険はこれからだぜ!≠チてやつに似てるなって思ってスミマセン。猪野さんかっこよかったですよ。





「ほわっちょってなんだ?」

『よし、虎杖くんの後追うぞ〜』





どうでもいいことを気にしてる恵を無視して私は走り出した。






「ダメだ、ビクともしねぇ」

「ま、まあまあの威力だな…」

『凄い音した…、手折れてない?大丈夫?』

「大丈夫!ちゃんと呪力でカバーしてるし!」





虎杖くんは笑みを浮かべて右手をプラプラと振った。凄いな。虎杖くんの前世はボブサップが濃厚そうだ。




「相当強固な帳≠ナすね。どこか脆い所を探して一瞬でもいいから穴をあけないと。中に入らないことには始まらない」




恵の後ろで玉犬の渾が呪霊を食べていた。流石はアニキ。尊敬します。私は見てることしか出来ないけど。





「えっ、なんで?」

『えっ?今の瞬間移動?虎杖くんこそなんで?動き速すぎない?』

「なんでって…、いいかこれは術師を入れない帳=Bつまりバリアなんだよ。バリアってのは自分を守る…。囲うもんだろ?こういう場合、原則として帳≠降ろしてる奴は帳≠フ中にいるんだよ」

「でも原宿ではさ」




これはまた私は考えることを放棄する必要があるようだ。瞼を閉じて思考をシャットダウンしているとおデコを強く叩かれた。



『おデコ…!?さっきから叩き過ぎじゃない!?』

「寝んな」

『寝てない!』

「…成程!帳≠ナ自信を囲わずに外に出ることで発見・撃退されるリスクを上げて帳≠フ強度も上げる…コロンブスの卵というか…」

「タマゴ…?」

『ゆで卵?』

「いやでも結界術の基本ガン無視してんじゃねーか!とんでもねぇ奴だな!これならさっきの虎杖の一撃で破れなかったのも納得がいく」

「……その理屈なら帳≠フ基はかなり目立つ所にあるんじゃないですか?」

「より見つかるリスクを抱えて更に強度を上げるってわけか」

「目立つ…場所…」






虎杖くんは空を見上げて、3人は顔を合わせて頷いていたから私も合わせてとりあえず頷いておいた。






『メグミン』

「殴るぞ」

『怖っ』




ふざけて呼んだら怒られた。でもメグミンって可愛くない?せっかく七海さんがナナミンなんだから恵もメグミンでいいじゃん。…ってそんな話をしたいんじゃなくて。






『もう戻していいよ』

「……」

『私が今回の任務をやけに気にしてるからずっと出しててくれたんでしょ?』

「………そういうわけじゃない」

『私の勘違いか』

「勘違い」

『……恵のこと信じてるから。だからもう戻しても大丈夫だよ』

「……」




多分、あのビルの上で戦闘になる。そうなったら私はただの足でまとい。





『約束守ってくれるんでしょ?』

「俺が約束破ったことあったか?」

『無いね』

「そういうことだ」

『そういうことか』





恵の胸元に額を当てて瞼を閉じるとトクトクと心臓の音が聞こえた。






『気をつけてね』

「おう」




このままくっついてるとまた恵の心臓が太鼓の達人を始めそうだから離れようとした時後ろから猪野さんに怒鳴られた。





「戦場でイチャコラしてんじゃねぇー!!」

「…してません」

『すみません。してました』

「してません」




体を離して笑って、恵を見上げると私がさっき巫山戯たのが良くなかったのか彼は眉を寄せていた。





『…いってらっしゃい』

「…いってくる」




背中を向けて鵺を出す恵を見送ってゆっくりと瞼を閉じる。





『……死なないでね、恵』





呪いにも似た祈りを残して私は意識を手放した。

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