流れ落ちてこの街まで来て
「急ぎの任務が入った」
『え?』
「渋谷に帳が下ろされたらしい。でも高専関係者の帳じゃない。急がないといけない。今すぐ出るぞ」
『……』
部屋から出ようとする恵の袖を掴むと立ち止まって振り返った。
『………』
「…名前?」
根拠はない。強いて言うならただの勘。でも、そうだとしても、無い心臓が言ってる。
ーー恵を行かせちゃいけない、と
『……行かないで恵』
「………」
『行かないで、』
恵は私の前に膝をついて座ると顔を覗き込んだ。
「どうした」
『…分かんない、…分かんないけど、行っちゃ駄目な気がする、』
「………」
『行ってしまったら、』
ーー恵に二度と会えない気がする
「……ごめんな、名前」
『ーっ、』
バッと顔を上げると恵は小さく笑っていた。
『……今のどこに笑うところがあるの』
「いや俺の心配してる名前が面白かった」
『………』
「怒んなよ」
恵はそう言うと私の手を取って立ち上がり部屋を出てそのまま手を引かれて歩く。行きたくない。行って欲しくない。
『…恵』
「死なねぇよ。前も言っただろ」
『…そんな保証、どこにあるの』
「オマエがその保証」
『……は?』
恵は立ち止まって私の胸の上あたりを人差し指で優しく触れるか触れないかの距離で指さした。
「オマエを殺さない為に俺は絶対に死なない。つーか死ねない。だからオマエが俺の死なないっつー保証」
『…………………セクハラなんですけど』
「触ってねぇだろ!」
『死んだら絶交だからね』
私が唇を尖らせてそう言うと恵は鼻を鳴らして小さく笑っていた。
「フッ…、絶交は嫌だな」
『だったら絶対に、何があっても死ぬな馬鹿』
「あぁ、約束する」
『指切りげんまん』
私が小指を出すと繋いでいる手を離して恵が小指を絡ませた。
『嘘ついたら針千本のーますっ!ゆびきった!』
「ガキみてぇ」
『15歳なんて、ガキだよ』
「それもそうだな」
絶交なんて言葉を真剣に使っている私達はきっと小学生よりも幼稚で、子供で稚拙で、…存外大人だ。