嫌いもぎらぎら瞬いて



「……名前」

『おはよう恵』




カーテンを開いてベッドに座って恵の前髪を分けて撫でると眩しそうに眉を寄せて薄らと瞼を上げた。




『私今日は五条さんのところ行ってくるね』

「………ん、」

『ちゃんと起きてね』

「………もう、行くのか、」

『うん。朝から約束してるから』

「……………」

『寝たふりしないで』





布団に丸まって顔を埋める恵の頭を軽く叩くと、布団から目元だけを出して何処か責めるように私を睨んだ。





『なに?』

「………最近、五条先生と何してんだよ」

『目、覚めてるじゃん』

「覚めてねぇ」




最初よりハキハキ話す恵に苦笑を浮かべると、恵は更に眉を寄せた。だから跡になっちゃうって。両手で頬を包んでグリグリと親指で眉間をマッサージをする。





「……出てきたの久しぶりなんだから漫画読めば」

『うん。夜読むよ』

「………」



私の言葉に不貞腐れたように布団にくるまって背中を向けた恵に小さく息を吐いて頭らしき場所を撫でて立ち上がる。





『ちゃんと起きてね』

「…………ん、」




拗ねながらも小さく返事をしてくれる恵の優しさにクスリと笑って部屋を出て五条さんの元へと急いだ。




『五条さん』

「3分遅刻だよ〜」

『すみません…』




扉を開けて中に入るとサングラス姿の五条さんは既に居て畳の上に寝転んでいた。





「で?誰だった?」

『庵さんの話では1人は学長以上の上層部』

「1人は、ってことは複数人?」

『今わかっているのは2人です』

「もう1人は?」

『えっと、京都校の与幸吉って人です』





私がそう言うと五条さんは体を起こして胡座をかくと膝に肘をついて顎に当てて少し考えているようだった。





「なるほどね。…まぁそっちは歌姫に任せるとして…。随分と上手くなったね」

『五条さんの教えのおかげです』

「まぁね!GTGである僕に感謝してよね!」

『勿論、感謝はしてますよ。ありがとうございます』

「………」

『…なんで不満そうなんですか』





唇を尖らせた五条さんに苦笑を浮かべると彼はつまらなそうにそっぽを向いた。




「名前って素直だね。つまんないの」

『えぇ〜…』

「僕も別に名前のことが嫌いなわけじゃないよ。けど出会った時から呪霊の君を人間として見れるかって言われたら答えはNOなんだよね」

『まぁ、そうでしょうね』

「1年達は悠仁で慣れてるだろうし、2年達はパンダが居るし、なんて言ったって憂太がいたからね」

『憂太って…乙骨憂太ですか?』

「知ってるんだ?」

『以前パンダ先輩が今の恵と乙骨さんは境遇が似てるって言ってました』

「んー…、似てると言えば似てるけど、決定的に違うことがある」

『違うこと?』




首を傾げると五条さんは不敵に笑みを浮かべた。目隠しじゃないからよく表情が見える。





「人間の形を保っているかどうかかな」

『…人間の、…形?』

「僕も最初から不思議だったんだよね。名前は事故にあった。そして死んで恵に呪われて呪霊になった。ここまでは憂太と同じ。」

『……乙骨さんの時は、』

「呪霊だよ。見た目を含めた全てが」





五条さんが何を言いたいのか分からなかった。首を傾げると彼は急に話題を変えた。





「なんで名前って恵に呼ばれないと出てこれないの?」

『……え?…だって私は恵の式神ですよ?』

「あ、そっか」





白々しく肩を竦めて今思い出したと手を叩く五条さんに眉を寄せると彼は首を傾げた。





「自分で出てみようとか試したことある?」

『ない、ですけど…。だって出来ないじゃないですか』

「まあ出来ないよね。式神が命令を無視して出てこれることなんてまず有り得ない」

『言ってることが無茶苦茶ですよ…』

「でも最近僕の素晴らしい特訓のおかげで名前は呼び出されて居ない時でも恵と感覚を共感できるようになったよね」

『まだ短時間しか出来ませんけどね』

「恵ですら気づけない程精密に」

『……さっきから言葉選びが難しくて分かりません』






難しい話に頭が痛くなってきた頃五条さんは立ち上がって私の隣を通り過ぎた。




「僕は大切な生徒に幸せになって欲しいんだよね。とくにあの子は僕がこの世界に陥れて肉親の命すら奪ってる。僕でも少し感じるところはあるよ。だからその相手が呪霊だったとしても生徒が幸せになってくれるならそれでもいいと思ってる」

『…………』

「でもそれが幸せじゃなくて苦しめるだけなら僕は君であっても祓うよ。例えあの子に恨まれても、憎まれてもね」





それだけ言うと五条さんは部屋を出て行ってしまった。ゆっくりと膝を折って座り天井を見上げると頬になにかが伝ったような気がした。

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