さみしさが鏡に映ればいい
「あのぉ〜、これは…、見方によってはとてもハードなイジメなのでは…」
「うるせぇ。しばらくそうしてろ」
「まぁまぁ事情は説明されたろ。許してやれって」
「喋った!」
「しゃけしゃけ」
「なんて?」
虎杖くんの言葉に恵が狗巻先輩の術式の説明をしていた。そうだったのか、私も初めて知った。ただ趣味でおにぎりの具で話してるとか思っててごめんなさい。
『ごめんなさい』
「おかか」
『なんで!?謝ったのに!?』
「んなことより悠仁」
「ん?」
「屠坐魔返せよ。悟にかりたろ」
「んん゛!」
虎杖くんは冷や汗をかいて唇を噛むとカタコトで真希さんに「五条先生ガ…持ッテルヨ…」と言っていた。でもあれ壊れたって恵が言ってたような…。
「で、どうするよ。団体戦形式はまぁ、予想通りとして。メンバーが増えちまった。作戦変更か?時間ねぇぞ」
「おかか」
「そりゃ悠仁次第だろ」
「何ができるんだ?」
「殴る蹴る」
『物騒…』
「そういうの間に合ってんだよなぁ…」
パンダ先輩の言葉に虎杖くんがショックを受けていると腕を伸ばしてストレッチをしている恵が口を開いた。
「虎杖が死んでる間何してたかは知りませんが東京校・京都校、全員呪力なしで闘り合ったら虎杖が勝ちます」
「面白ぇ」
恵を見上げると首を傾げられた。
『恵と虎杖くんどっちが強い?』
「…………」
『そんな嫌そうな顔しないでよ…』
もしかしたら恵のプライドを傷付けてしまったかもしれない。でも確かに体格的に虎杖くんの方が優位かもしれない。虎杖くんはああ見えて80kgくらいあるらしいし。恵は細いからなぁ。
「おい今余計なこと考えただろ」
『…イエ、ゼンゼン』
「カタコトやめろ」
『ぴえんって言っていい?』
「うざいから駄目」
時々恵って言葉の選び方可愛いよね。私知ってるよ。恵って太陽のことおひさまって言うよね。小さい頃に恵の家の布団干し付き合ったら喜んでたもんね。
『あとなん分くらいで開始?』
「時計見ればいいだろ」
『確かに』
顔を上げて時計を探すと開始まで残り15分といった所だった。そろそろみんな移動しちゃうのかな。
『終わって血だらけになってたら傷抉るからね』
「なんでだよ」
『心配させた罰』
「にしては暴力的過ぎだろ」
『痛いの嫌なら心配させないで』
「わかったわかった」
恵はあやす様に私の頭を数回撫でると口角を少しだけ上げた。
「すぐに呼ぶから待ってろ」
『……すぐだからね。5分以内』
「それは無理だろ」
的確なツッコミに吹き出して笑うと恵は少し呆れたように片眉を下げて小さく笑っていた。
『死なないでよ?』
「当たり前。オマエを置いて死ぬわけないだろ」
みんなが立ち上がって移動を始めると恵も扉に手をかけた。そんな彼の腰あたりの制服を掴むと振り返った。
『…いってらっしゃい。気をつけてね』
「ん、いってくる」
恵の背中を笑顔で見送って彼が振り返らないことを確認して唇を噛み締める。
『………ごめんね、恵』
そう呟いて瞼を閉じた瞬間、私の意識は深い闇の中に飲み込まれていった。この事が当然になってしまった事が、怖かった。