さようならまた、までの際



『おはよう恵』

「……はよ」





ベッドに腰を下ろして目が開いていない恵の髪を撫でるともう一度意識を手放そうとするから慌てて頬を叩く。





『起きないと!今日から交流会でしょ?』

「……ねみぃ」

『眠くても起きないと。真希さんに怒られる』

「………手、」

『はいはい』




タオルケットから手を出してそう言う恵の手を掴むと重たそうに上体を起こした。おじいちゃんじゃないんだから手が無くても起きてよ。そもそも力入れてないんだから手の意味無いでしょ。




『交流会楽しみだね』

「なんでだよ」






寝起きのせいで掠れた声で答える恵の手を引いてベッドから立たせて洗面所に押し込む。さっさと顔洗って朝ごはん食べて行かないと。





「名前」

『なに?タオル無かった?』

「タオルはあった」





目が覚めたのかいつもの顔で洗面所から出てきた恵は何処かバツが悪そうな顔をしていた。どうしたの?交流会の日間違えてた?




『どうしたの?』

「……虎杖のこと、…悪かった」

『……』





視線を逸らして謝る恵に近付くと申し訳なさそうに眉を下げた。この顔をする時は本当に反省してる時。小学生の時に私が楽しみにしてたアイス食べた時もこんな顔してた。






『ちょっとショックだったから抱きしめて』

「は?」

『ん、』





私が両手を広げると恵はグッと眉を寄せてフーっと息を吐いて恐る恐るって感じで私を抱きしめた。やっぱり恵は温かいな。




「これで許してくれんのか」

『うん。許すけど次からは隠さないでよ、寂しい』

「ん、」

『約束ね』

「分かった」



恵の胸元に耳を当てると心臓の音がトクトクと鳴っていて瞼を閉じる。良かった。当たり前だけど恵の心臓は動いてる。生きてる。





「………」

『……』

「…………」

『恵』

「なんだよ」

『心拍数凄いよ。ドンドコドンドコ太鼓の達人の鬼レベルみたいになってる。フルコンボだドン』

「……おいっ!くっつくな!」

『もう1回遊べるドン』

「うるせぇ!」





胸を押し付けるように体をくっつけると、肩を掴まれて体が離された。顔を上げると恵の頬は少しだけ赤くなっていて私が笑うと不機嫌そうに睨まれた。






『そろそろ本当に準備しないと』

「分かってる」





少し怒りながら準備を始める彼にバレないように小さく笑った。





「京都で姉妹校交流会…」

「京都の姉妹校と交流会だ。東京で」

「名前アンタ知ってたの!?」

『し、知ってた…』

「なんで言わないのよ!」

「オマエの勝手な勘違いだろ」

「許さんぞー!乙骨憂太ァ!会ったことねぇけどよー!」

『おっこつゆうた?』

「私らの同期」

「しゃけ」

『へぇー…』

「憂太と今の恵は境遇が似てるかもなー」

『え?』

「おい。来たぜ」




パンダ先輩の言葉に首を傾げると数人の足音がして顔を上げるとあの時のふたりを含んだ数人の京都校の生徒らしき集団が現れた。




「あらお出迎え?気色悪い」

「乙骨いねぇじゃん」





すると少しして綺麗な声が聞こえてまた視線を動かすと巫女装束を着た女性が手を2回くらい叩いて鳴らした。





「はーい。内輪で喧嘩しない。で、あのバカは?」

「悟は遅刻だ」

「バカが時間通りに来るわけねーだろ」

「誰もバカが五条先生のこととは言ってませんよ」

『確かに言ってないけどバカが五条さんだって分かってる恵もそう思ってるって事だよね』






私の言葉を無視する恵の腕を啄いても反応がなかった。そしたらガラガラと大きな音がして顔を向けると五条さんが荷台を走って押していた。転職ですか?応援します。





「私出張で海外に行ってましてね!京都校の皆にはとある部族のお守りを!歌姫のはないよ」

「いらねぇよ!」

「そして東京都の皆にはコチラ!」






五条さんが持ってきた荷台の箱が勝手に開いて目を見開くと中から元気な虎杖くんが現れた。って虎杖くんって亡くなったんじゃ…





「はい!おっぱっぴー!」

「故人の虎杖悠仁くんでぇーっす!!」

「………」

「………」






チラッと恵と野薔薇の顔を見たら凄い顔してた。なんていうか、…うん、凄い顔してた。





「アレが人間から呪霊になった式神か」

「え?そんなのいるの?」





そんな言葉が聞こえて顔を向けると糸目の人と背が小さくて可愛い声をした女の子と話していた。その流れで京都校の人達に見られて慌てて視線を逸らした。






「だったらなんですか」

『恵…』

「伏黒くん、君みたいな呪術師がどうしてそんな小者に情を入れ込んでいる?」

「………」

「さっさと捨てればいいだろうに」

「……アンタらには関係ないでしょ」

「君のこれからの呪術師人生を考えて言っているんだよ」

「余計なお世話です」

「…意外と君は頭が悪いらしい。呪霊を大切に扱って何になる。それは人間ではない。祓わなければいけないんだよ。存在してはいけないものだ」

『……』





言われなくたって分かってる。私が存在しちゃいけないことくらい。私が生きてちゃいけないことくらい。恵の足を引っ張ってることくらい。私が一番、





『……わかっ』

「さっきからうっさいわね。アンタに何も迷惑かかってないじゃない」

「それに苗字は悪いことしてねぇし」

『野薔薇、虎杖くん…』





ふたりは京都校からの視線を遮るように私の前に立つとそう言った。





「…それに自分の友達悪く言われて引き下がれるほど大人じゃないのよ!」

「友達の悪口言われてんのに言い返さないなんて友達じゃないしな!」

「別にアンタらに理解して欲しいなんて思ってません」

『恵、』

「でもそんな事でしか測れないなんて京都校アンタらは可哀想ですね。同情します」





恵の言葉に京都校の人達は眉を寄せると3人はフンッと鼻を鳴らして背を向けた。野薔薇は私の肩を押しながら振り返ってべーっと舌を出していた。





「はー!本っ当にムカつく奴ら!」

「流石に酷いよなー!しかも苗字は女子なのに!」

「アイツら絶対モテないわよ!」

『……ごめんね、私のせいで』

「はァ!?なんで名前のせいになるわけ!?」

「苗字は悪くないだろ!」

『でも…、』

「俺達は自分が嫌だったから言っただけだよ?」

「アンタを守る為に言ったわけじゃないの!」





でも、私のせいでみんなが悪く見られた。みんなは何も悪くないのに、私のせいで、





「誰もオマエのせいだなんて思ってねぇよ」

『…私のせいだよ、』

「元を辿れば俺のせいだろ。オマエを呪霊にしたのも式神にしたのも俺だ」

『恵のせいじゃない、』

「名前は人間じゃないけど、でもそれでも私の友達なことに変わりないの」

「そうそう!友達に呪霊とか関係無いじゃん?」

「らしいけど?」





得意げに笑う恵に私はグッと言葉を詰まらせる。なんで恵が得意げなのとか言いたいことは沢山あるけど、今はそんなことより言わないといけない言葉があるのに気付いたから。





『野薔薇、虎杖くん』

「なによ」

「ん?どったの?」

『ありがとう、』

「はァ?なにがよ。意味分かんない」

「何かお礼言われることした?」





首を傾げるふたりに眉を下げて笑うと、意味が分からなそうに顔を見合わせると歩き出してしまった。





『恵も、ありがとう』

「ばーか」

『いたっ』




私の額を弾くと恵もふたりを追って歩き出してしまった。早足で隣に並ぶと視線は前に向けたまま恵が言った。




「あんな言葉気にすんなよ」

『…うん』

「オマエは俺達の言葉だけ信じてればいい」

『……うん』





その中でも恵の言葉は私の中で特別なんだよ?今の呪霊の私じゃ言えないけど恵の存在は私の中でずっと前から大切で特別だよ。

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