どれくらいの心があれば



「名前〜」

『はーい?』




真希さんに呼ばれて駆け寄ると犬のように頭を撫でられた。少し荒々しいところが彼女らしい。恵は私が呪霊になる前から頭を撫でる時は酷く優しいからこの感じは新しい感じがしてこれはこれでクセになる。




「おー。よくできたな」

『駆け寄っただけで褒められた…!?』

「ついでに飲みもん買ってこい」

『そしてパシられた…!?』






そう言って背を向けた真希さんに仕方なく自販機を目指して歩くと恵に声をかけられた。





「どこ行くんだよ」

『真希さんに…、パシられて自販機を買いに』

「自販機を買うのは無理だろ」





恵はそう言って私の隣に並ぶとパンダ先輩に外すことを伝えていた。これはついてきてくれる感じだ。






「俺ちょっと名前について行きますね」

「ほーい」

「ちょっと。どこ行くのよ」

『自販機を買いに』

「自販機は買えないでしょ。でもいいわ、私も行く」



ここ最近虎杖くんはずっと任務なのか姿が見えないから恵も野薔薇も寂しいのかもしれない。私も少し寂しいし。前までよく寝る前まで虎杖くんは恵の部屋に来てたのに任務が忙しいのか寮にも帰ってきてないみたい。





「自販機もうちょい増やしてくんないかしら」

「無理だろ。入れる業者も限られてるしな」

『やっぱり自販機買うか〜』

「俺の金だろ」

『え?私達ふたりのお金だよ?』





首を傾げてふざけると恵はパチパチと瞬きを2回して頷いた。いや冗談。冗談だよ。私最悪な女になってる。





「それもそうだな」

「イチャイチャすんな。うざったいわね」

「はァ?」




恵が野薔薇にメンチをきった時人の気配を感じて視線を向けると見たことない男女が立っていた。服装が真っ黒で高専内に居る事を考えたら呪術師なのかもしれない。ってか人の気配を感じてって凄くない?かっこいいこと言っちゃった。





『ふふっ』

「何ひとりで笑ってんだ。てかなんで東京コッチいるんですか。禅院先輩」

「あっ、やっぱり?雰囲気近いわね」

「嫌だなぁ、それじゃあ区別がつかないわ。真衣って呼んで」

「コイツらが乙骨と三年の代打…ね」






禅院先輩ってことは真希さんの血縁の人だろうか。確かに少し似ている。美人すぎて吐きそう。スタイル良すぎて鼻血出そう。その美人さんは不敵に笑うと話を続けた。




「同級生が死んだんでしょう?辛かった?それともそうでもなかった?」

『…………え、』




同級生って、誰の?真希さん達はみんな生きてる。じゃあ3年?でもあの人の言い方だとまるで私たちと同い年が死んだみたいな言い方だった。どういうこと?一年生は恵、野薔薇、虎杖くんしかいない。





『……恵?』

「…………悪い」

『な、なんで謝んの?い、虎杖くんは任務でしょ?』

「…………………ごめん、」

「それにそこに居る呪霊も元人間なんですって?」




女の人の言葉に恵はピクリと反応して睨み上げて小さく呟いた。




「…何が言いたいんですか?」

「いいのよ。言いづらいことってあるわよね。代わりに言ってあげる。器≠ネんて聞こえはいいけど要は半分呪いのばけものでしょ。そんな汚らわしい人外が隣で呪術師≠名乗ってて虫唾が走っていたのよね?死んでせいせいしたんじゃない?」

「………」

「………」





ふたりが言い返さないから虎杖くんが死んだのは本当のことみたい。恵が隠してたのはこの事だったんだ。…ほら、やっぱり私が傷つかないように隠してたんでしょ。そんなの要らないのに。馬鹿野郎。





「その子だって呪霊のくせに人間みたいに振舞って目も当てられない」

「……あ?」

「さっさと破壊しちゃえばいいのに。伏黒くんだって戦力ならない式神持っていたって仕方ないでしょ?情で助けたら式神になんてなられて、縛られて伏黒くん可哀想」

『……え、』






空気を出すように掠れて出た声に自分でも驚いた。すると恵は私を庇うように前に立った。…やっぱり私は酷く弱くて役に立たない。






「……コイツを呪霊にしたのは俺です。俺の意思でコイツを呪霊にしたんです。縛り付けてるのは俺です」

『………め、ぐみ』

「全部、俺の意思です。人間だった名前を呪霊にして式神にして俺の元に縛り付けて逝けないようにしてるのは俺です。……名前は、なりたくてなったんじゃない」






違うよ、違うんだよ恵。式神になるのを選んだのは紛れもなく私自身だよ。人間じゃ無くなっても恵の隣に居たいと願ってしまった私のワガママ。




「真衣、どうでもいい話を広げるな。俺はただコイツらが乙骨の代わりに足りうるのかそれが知りたい」





痺れを切らしたように隣に居た男の人がそう言って少し前に出た。私は目の前にいる恵のジャージの裾を掴むと小さく彼に届くかも分からない声で呟いた。





『……ごめんね、』






唇を噛むと何故か少ししょっぱい味がした。私は昔からどれだけ恵の足を引っ張れば気が済むんだろう。

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