嘘、虚栄、やさしい熱



『恵?』




意識が浮上した時私は道路に立っていた。恵に傷は無くて元気そうで安心した。あの変な建物からちゃんと生きて出られたんだ。





『無事だったんだね!良かった!』

「おう」

『他のみんなは?大丈夫だった?野薔薇とか虎杖くんとか』

「…………無事だ」

『良かった〜!』





フーっと息を吐くと恵は私から視線を逸らした。ところで私達はどこに向かってるんだろうか。






『今からどこ行くの?』

「行くんじゃなくて帰るところ」

『へぇ〜。恵はどこ行ってたの?』

「……落し物を拾ったから、届けに行ってた」

『そっか!』





何処か歯切れ悪く言う恵に少し首を傾げるけど、いい事したのを隠したかったのかな。確かに恵っぽくないもんね。落し物拾って届けるなんて。





『じゃあ今から高専に帰るのか』

「そう」

『恵?そっち遠回り…』

「近道」

『いや遠回り…、』





何故か細道に入る恵を謎に思いながらも後をついて行くとやっぱり遠回りだった。恵にもそういう日があるのかなって思いながら他愛も無い話をしていると高専の門が見えてきた。






『あれ?どこ行くの?』

「更衣室」

『寮じゃないの?』

「交流会に出るからその特訓が始まった」

『……交流会ぃ?』





そう言って更衣室に入ってしまったから外で待ってるとジャージに着替えた恵が出てきた。交流会って何処とだろう。現役呪術師とか?先輩に呪術師の心得を聞いてみましょう。みたいな?





『交流会って誰と?』

「誰とって…、なんで個人となんだよ。交流会は京都にある姉妹校とだよ」

『え。京都ってズルくない?姉妹校があるの京都ってズルくない?』

「オマエのズルいの基準が分かんねぇ」

『京都だよ?呪術師の本場って感じじゃん』

「意味分かんねぇ」





グラウンドに辿り着くと真希さんや狗巻先輩パンダ先輩、そして野薔薇が居た。虎杖くんは任務なのかな。でも野薔薇も元気そうで良かった。





「おっせぇよ恵。何してた」

「なんでもいいでしょ。」

『恵は良い事してたので許してあげて下さい』

「はァ?」

「余計なこと言うな」





善意で言ったのに怒られてしまった。私がしょぼくれると恵は短く息を吐くと私の頭を数回優しく叩くと私を見て呟く様に真希さんに質問をした。





「…禅院先輩は呪術師としてどんな人達を助けたいですか?」

「あ?別に私のおかげで誰が助かろうと知ったこっちゃねぇよ」

「聞かなきゃ良かった」

「あ゛ぁ?」

「伏黒ォ!!面接対策みたいな質疑応答してんじゃないわよォ!交代!!もう学ランはしんどい!可愛いジャージを買いに行かせろ!」

『あれは、何を?』

「オマエらは接近戦弱っちいからなぁ」

「まずは私らから1本取れ。話はそれからだ」

『……真希さんかっこいい』





思わず呟くと優しく撫でていたはずの手で頭を叩かれた。伏黒情緒不安定恵か?大丈夫かい?牛乳飲むかい?




「高菜」

『あ、狗巻先輩。こんにちは』

「すじこ」






ペコリと頭を下げる先輩の頭を偉そうに胸を張って撫でるとバシリと叩き払われた。怒られてしまった。本気では無いだろうけど。





「いくら」

『調子に乗りました』

「しゃけしゃけ」






素直に謝ると狗巻先輩は偉そう私の頭を撫でるから仕方なくそのままにしていると柔らかく労る様な声で狗巻先輩は言った。大丈夫?って。





「ツナマヨ?」

『大丈夫って…、何がですか?』

「………」






狗巻先輩は目を見開くと真希さんと体術をしている恵に視線を動かすと私に戻した。そして少し眉を下げて憐れむように私を見るから首を傾げると、先輩は小さく言葉を紡いだ。




「……ツナ、すじこ」

『え?虎杖くん?虎杖くんは任務じゃないんですか?』





狗巻先輩が言葉を続ける為に息を吸った時、私の視界が真っ暗になって後頭部と背中、そして目元に温もりを感じて肩の力を抜くと想像していた声がした。





「狗巻先輩」

「…こんぶ?」

「俺から言います。だから今はまだ言わないでください」

「……しゃけ」







ジャリジャリと音がしたから多分狗巻先輩が離れていった音だと思う。目元を覆っている手を外すことも無く少しだけ後ろにいる恵に体重をかけると支える為に恵の体に力が入ったのが分かった。





『…恵』

「なんだよ」

『私に何か隠してるの?』

「……」

『でもいつか恵から話してくれるんでしょ?なら何も聞かない』

「………」

『私は恵を信じてるから。恵が私に話さないってことは私には関係無いのか、私を傷付けない為ってことでしょ』

「…なんでそう思うんだよ」

『ん?だって恵は昔からそうだもん』





尖ってて私を突き放しても、いつだって私を見ててくれるし助けてくれる。それに恵は気づいてないだろうけど、私を突き放そうとして酷い言葉を言った後に恵は少し傷付いたような顔するんだよ。







『……恵』

「……」

『ありがとう』

「…何もしねぇだろ」





してくれてるよ。今だけじゃなくてずっと前から。私を暗くて辛いことから守ってくれてるんでしょ?私が気付かないわけないでしょ。私だって恵の事を見てきてるんだから。

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