拗れすぎて最初にもどる
『恵〜、ごめんてば〜』
「話しかけんな」
『悪ノリしすぎた〜、ごめんなさい』
「うっせぇ」
虎杖くんを迎えに行くために乗り込んだ車の中でも私は恵に無視され続けた。肩を啄いても払われた。冷たい。見向きもしてくれない。
『めぇぐぅみぃ〜!』
「やめろ」
頭で腕の辺りをグリグリすると恵は私の額に手を当てると押し退けた。今首がボキッてなった。筋が変になったらどうしてくれるんだ。呪霊だからならないけどね!
『そんなに怒らないでよ〜』
「端まで寄って座ってろ」
『そこまで拒否する!?』
「おはヨークシャーテリア……ってあれ?どうしたの?」
助手席に五条さんが現れると私たちの雰囲気に首を傾げていた。という五条さんが居るならわざわざ車で行く必要無くない?しかもよくよく考えたら東京から宮城を車でって無謀じゃない?
「喧嘩ー?ウケる」
『ウケませんし車で宮城は無理じゃありません?』
「え。名前車で行こうとしてるの?無謀じゃない?」
『…………はぁん?』
「さっさと降りてトぶから。っていうか誰が運転するつもりだったの?誰もいないのに」
確かに運転席に誰も居ないなって思ってた。というかならなんで高専に帰ってきたの?宮城でホテル取るべきじゃない?
「ホテルは高いから何日間も泊まるのは駄目」
『心読まないでくれます?しかもケチ』
「名前は分かりやすいな〜」
五条さんは車を降りると私たちを呼んだ。仕方なく降りて彼の近くへ移動すると数秒後には火葬場に到着していた。本当に便利だなぁ。
「僕はちょっと様子見てくるよ」
『はーい』
右手を上げながら答えたけど、私たちに来た意味はあるんだろうか。五条さんだけ迎えに来れば良かったのでは。と思ったけど素直に頷いて外にあるベンチに腰を下ろすと恵も隣に腰を下ろした。
『まだ怒ってる?』
「………別に」
『もう怒ってない?』
「……最初から怒ってない」
嘘だ。この人嘘ついてまーす!さっきめっちゃ怒ってましたー!まぁ、そんな事言ったら本気でキレられるから言わないけど。
『宮城来たならまたあのお店行きたいね。牛タンの』
「…そういや五条先生、領収書の事なんも言ってこねぇな」
『気付いてないのかな』
「あの金額だぞ。気づかないのはヤバイだろ」
『帰りに寄ってくれないかな〜』
空を見てそう言うと恵も顔を上げてゆっくりと立ち上がって私の腕を取った。
「そろそろ俺達も行くぞ」
『どこに?』
恵は何も言わずに建物の中に足を進めた。腕にあった筈の恵の手はいつの間にか私の手のひらを包み込んでいた。
『………恵』
「なんだ?」
まるで私を導いてくれるような温かく強い手のひらにグッと唇を噛み締める。恵の手とは違って私の手には体温が無い。体温どころか人間では無い。その事を後悔はしていない。してないけど、人間に戻りたいかと聞かれたら私はきっと即答する。人間に戻りたいと。でも、それでも私は今此処に居られることが、彼の隣に居れられる事が、この上なく幸せだ。
『…………ありがとう』
「……………何がだよ」
恵はとぼけてたけど多分、なんの事か分かってると思う。だっていつだって恵は私の事をなんだって分かってくれたから。