光ったら負け
「………名前」
『おはよう恵』
瞼を上げると恵が意識半分に私に手を伸ばしていた。その手を掴むと恵はゆっくりと少しだけ目を開いた。イケメンって寝起きもイケメンなの?半目なのに。寝起きくらいブスになってよ。お願いだから。
『今日はあの子迎えに行くんでしょ?』
「……ん、」
『五条さんは朝って言ってたけど具体的に何時なんだろうね』
「……ん、」
『さっさと起きて顔洗ってよ』
「…ん、」
半分寝てるくせに私の手を離さないあたり、もう癖なんだろうな。恵は起きたらすぐに私の存在を確かめるように体のどこかに触れる。最初の頃は頭、少し経ってから肩、そして今では手。段々と下に来てる。最後には足首辺りを掴まれるかも。貞子みたいに。
『制服で行く?』
「…他に何で行くんだよ」
『半袖短パン』
「小学生か」
恵はゆっくりとした足取りでベッドを降りると私の頭を数回撫でてから大欠伸をして洗面所に消えていった。寮に入ってからご飯を作ることが無くなったから手持ち無沙汰だ。
『あっ!おはようございまーす!』
「こんぶ」
「はよー」
「おはよう」
恵と食堂に向かうと真希さんたちが先にご飯を食べていた。私はパンダ先輩の隣に座ると恵も私の隣に腰を下ろした。
「恵ボロボロじゃねぇか。笑っていいか」
「すじこ」
「真希に見つかったのが運の尽きだな」
『どんまい恵!』
何故か私だけ睨まれた。なんで。すると私の前に座っていた狗巻先輩が首を傾げておにぎりの具を発した。
「いくら、すじこ?」
『私は何ともないですよ!』
「違ぇよ。棘はなんの任務に行ったのか聞いてんだよ」
『えぇ〜…。私の心配してくださいよ』
「おかか」
『おかか!?』
先輩は首を左右に振っては分かりやすく拒否した。なんか狗巻先輩私に冷たい。別にいいけど。パンダ先輩がいるし。先輩って言っても私は高専の生徒じゃないから正しくは先輩じゃないけど。
『パンダ先輩〜。狗巻先輩がいじめてきます』
「可哀想にな〜。笹食うか?」
『自分でも食べないのに準備したんですか?』
「名前の靴に詰めようと思って」
『本人に言ってたから実行するんですね。新しいいじめの形ですね』
「って棘が」
『また狗巻棘!!』
私が睨むと狗巻先輩は両手でピースサインをした。可愛いからって調子に乗るなよ。可愛いからって。……可愛いからって!!
『可愛いからって調子に乗らないでもらえますか!?』
「おお情緒不安定か?オマエ」
『あざとくすればいいってものじゃないんです!分かりますか!?狗巻棘!』
「たっかな〜」
『キィーッ!言っておきますけどうちの恵の方が可愛いですから!』
隣で他人事のようにご飯を食べる恵の肩に腕を回すと鬱陶しそうに眉が寄せられたけどそんなの知らない。
『見てください!この顔の整い方!そんじゃそこらとは訳が違うんです!しかもこの睫毛!空すらも飛べそうな程の量!恵は鳥なんです!白鳥です!』
「うるせぇし飯が食いずらい。離せ」
『褒めてるのに!』
私が騒ぐと恵は手を合わせてご飯を食べ終えると立ち上がって出て行ってしまった。え、置いて行かれた。
「あーあ、名前が恵怒らせた」
「ツーナツーナ」
「ありゃへそ曲げたな」
『私が悪いの!?』
でも置いて行かれるわけにも行かないから私も立ち上がって後を追った。少しすると恵の背中が見えて突進をかますと青筋を浮かべた恵が振り返った。
『置いて行くなし!』
「オマエが遊んでたからだろ」
『遊んでた!?いじめられたの間違いでしょーが!』
「知らねぇ」
声が冷たい恵に私は瞬きを2回して肩の力をストンと抜く。機嫌悪いなぁ。
『……恵おんぶ』
「………はァ?」
『おんぶして。疲れた。恵に突進したせいで』
「疲れたって……、はぁ…、靴箱までだからな」
『よっしゃ!』
恵は呆れたように溜息を吐くと、廊下の真ん中でしゃがみ込んだ。私は少しだけ勢いをつけて飛び乗ると恵から苦しそうな声が聞こえた。
「…………おも」
『はァ?なんだってぇ!?』
「暴れんなっ!」
足をバタバタさせると恵に怒られた。そのまま体の力を抜いて背中にピッタリくっつくと恵が一瞬足を止めた。
「……少し離れろ」
『おんぶで離れるのは不可能では?』
「上体の話だ」
『えー………………やだ』
「オマエ…」
『えー?なに?恵くんってばエッチぃー』
「殴る。しかもオマエわざとかよ」
『んふふ〜』
そのまま恵の首筋辺りに唇を寄せて少しだけ当てるとパッと両手が離されて地面とお尻がこんにちはした。多分、っていうか絶対にお尻割れた。
『びぎゃああっ!!』
「…………」
『ちょっ!恵!?ごめん!悪ノリしすぎた!置いてかないでぇ!?』
恵は振り返ることもせずダッシュで走り去ってしまった。私は右手を伸ばしたけど恵の姿は見えなくなってた。えぇ〜…。
原作では多分わざわざ高専に帰ってないと思います。宮城に泊まってると思います。