安心して眠れるくらいの光度で
「名前、」
『………恵?』
名前を呼ばれて瞼を持ち上げると血だらけの恵が座り込んで私を見上げていた。え、なんで血だらけ?
「名前」
『え、五条さん?』
「恵の事運べる?」
『え、逆にいけると思いますか』
「一回挑戦してみたら?いけるかもよ?」
『いけなかったら私の体がぺしゃんこになるんですけど』
「いい、歩ける、」
「中学生が女子更衣室覗いた後くらい血出してるんだから止めときなって」
『覗き魔は命懸けだった…?』
でも恵の事は心配だし。仕方ない、頑張るか。そう意気込んで恵の前にしゃがみこんで恵の両腕を腕の前でクロスさせる。
『意外といけた』
「呪物になったから重さとかそんなに感じないんじゃない?」
『いや重いは重いですけど……。恵も大きくなったなぁ。昔はあんなに小さかったのに』
「………殺してくれ」
「女子におんぶされて恥ずかしくなっちゃった?」
やっと式神らしいことが出来たなぁとフフンと笑うと少し首を絞められた。恥ずかしがらない恥ずかしがらない。昔はみんなおんぶされたんだから。
『それにしても血だらけだね』
「……呪物の下敷きになりかけた」
『え、よく生きてるね?』
体に力が入らないからなのか耳元で話されてゾワッてしたけど我慢した。出来るだけ傷に触らないようにゆっくり歩いていると五条さんに呼ばれた。
「名前〜こっち来て」
『はーい』
「よし、到着」
『……………え?』
五条さんに近づいて数秒後には高専に戻って来てた。なにこれ。瞬間移動?最強ってなんでもありなの?っていうかだったら、
『なんで恵をおんぶさせたんですか?』
「え?心が折れる恵が見たくて」
『…最低だ』
「とりあえず今日は硝子帰っちゃってるから手当だけして終わり」
『その子は?』
五条さんの腕の中にいる子を指さすとなんでもない様に言った。
「この子は拘束するよ」
『こうそく?』
「宿儺の指食べちゃったから」
『宿儺の指食べちゃったから…?』
私が首を傾げると恵の寝息が聞こえ始めて慌てて揺さぶる。今寝たらマズイのは恵でしょ。
『おーい、寝るなー!手当するんでしょー!今私が消えたら地面にこんにちはだぞー!』
「……うるせぇ、」
恵を降ろして手当をするために部屋を目指すと後ろから五条さんに声をかけられる。
「明日の朝集合ねー!」
それだけ言って五条さんは去ってしまった。ちょっと待って。
『……朝って、何時』
「…ねみぃ」
眠さで目が据わり始めた恵の手を引いて寮に戻り手当を始める。これお風呂入ってからの方が良かったかもって思ったけどお風呂に入って血流が良くなるのも良くないか、と結論づけて消毒液を恵に付ける。
「…痛てぇ…」
『はいはい男の子だから我慢、我慢』
「男女差別か」
『恵くんは強いから我慢できるよね〜』
「余裕」
『分かってたけど恵眠いでしょ。眠くてテンション可笑しくなってるでしょ』
頭にガーゼを付けて包帯を巻いて頬の傷も消毒してガーゼを付ける。中学校の時でもこんなに怪我したこと無かったのに。呪術師って本当に危ない仕事なんだなぁ。
『……ねぇ、恵』
「ん?」
『私も五条さんとかに稽古つけてもらおうかと思ってるんだけど…。少しでも強くなって、恵の役に立てるようになりたい。恵の術式は式神を十持てるんだよね。でもそのうちの一つを私が潰してる。何も出来ないのに。…だから少しでも強くなって足を引っ張らないように…!』
「………」
『寝るなぁー!!起きろぉ!!起きて!私いいこと言ってたよ!?お願いだから聞いてよぉ〜!!』
ガシガシと恵の体を揺らしても目を閉じたまま眉を寄せた。このまま椅子から落ちしてやろうか。
『………アホ恵』
「………うる、せぇ…」
揺するのを止めて腕を引いて無理矢理立たせてベッドに投げ捨てると恵は寝息を立て始めた。そんな彼の額をバチンといい音を立てて弾く。でも反応はなかった。てか狸寝入りなのバレてるからな。私が消えてない時点で。
『ばか恵。嫌なら嫌って言え〜』
まだ狸寝入りを続ける恵の髪を撫でると寄っていた眉から力が抜けてシワが無くなって安心した様に息を小さく吐き出して呼吸を繰り返した。
『おやすみ、恵』
「……ん、」
ほらやっぱり狸寝入りじゃん。返事しちゃってるし。本当にお馬鹿だなぁ。そこが可愛いんだけど。仕方ないからあともう少しだけは恵の言う通り守られててあげるよ。