歌詞不明の応援のうた



『意外とバレないもんだね、潜入捜査』

「放課後だしな」

『ラグビー場の上にでっかいのいる!』

「死体でも埋まってんのか?」

『え……』





平然と言い退ける恵に顔を青くすると本人は何でもない様にスマホを取り出して歩き出してしまう。母校では無いけど久しぶりの学校にドキドキしちゃう。





『恵!恵!』

「なんだよ」

『なんか人混みで来てる!撮影かな?』

「人混み?」





背伸びして覗き込んでると男の人が砲丸投げをしていた。何となく坊主って野球部ってイメージがあるよね。偏見だけど。





『先生と生徒で勝負してるのかな?』

「部活じゃねぇの」

『でも男の子普通のパーカーだよ?』





不思議に思いながら視線を戻すと丁度男の子が砲丸を投げるところだった。………野球投げだった?砲丸投げ詳しくないけどあれはやばくない?肩外れるでしょ。しかもサッカーゴールに刺さったよ。あれ?砲丸投げってなんだっけ?砲丸投げとボール投げって一緒だっけ?




『西中の虎?なら東は?ねぇ、東は?』

「知らねぇよ。さっさと行くぞ」

『東は恵?何にする?相手が虎ならジャガーとかにする?…あっ!クロヒョウ?東のクロヒョウ?』

「なんだそのダセェの」





そう言いながら歩いているとさっきの砲丸投げの子が隣を通り過ぎた。すると恵は慌てて振り返った。





「おいオマエ!…って速すぎんだろ!」

「アイツ50m 3秒で走るらしいぞ」

「車かよ」

「クソッ…!」

『50mを3秒…?……人類はボルトを超えた…?』

「そんなこと言ってる場合じゃねぇ。追うぞ」

『ボルトを…?』

「ボルトじゃねぇ」




頭を叩かれて男の子を追うと途中で恵が高専の制服に着替えてた。ワイシャツとズボンだけだったんだから別に高専のでも良かっただろうに。マメな男だ。





『病院?』

「追うぞ」

『夜の病院って何となく嫌だよね』

「オマエも探せ」

『なんかお化け出そう。…………私か』

「……見つけた」

『え?』





受付に目を向けると男の子が何かの書類を書いているようだった。ちょっと目の下が赤くなってる気がする。元からかもしれないけど。






「虎杖悠仁だな」

『え、』





男の子の名前を知っている事に驚いていると恵はそのまま話を続けた。なんで知ってるの。いつ調べたの?




「呪術高専の伏黒だ。悪いがあまり時間がない」

『恵と同じくらいだね。背丈』






男の子に呪いや呪物の説明をすると、恵の顔は段々と険しくなっていった。そんなにしわ寄せたら跡になっちゃうよ。





「死人が出ないうちに渡せ」

「いやだから俺は別にいいんだって。先輩に言えよ」

『……空っぽ?』



中を開けるとへこみがあるけど、呪物らしきものは無かった。見つけないと帰れないんだけど…。




「中身は!?」

「だァから先輩が持ってるって!」

「ソイツの家は!?」






胸倉を掴んで大声をあげる恵に合わせて男の子の子も大きくなっているようだった。ふたりは忘れてるけど、ここ、病院ね。





「そういや今日の夜、学校でアレのお札剥がすって言ってたな。……え、もしかしてヤバイ?」

「ヤバイなんてもんじゃない。ソイツ死ぬぞ」






恵の言葉に男の子は目の色を変えていた。するとふたりは病院を走り出したから慌てて後を追うけど無理。虎とクロヒョウに追いつけるわけが無い。ちょっと、休憩させて。いや疲れては無いけど気持ち的に疲れた。





『恵ー!』

「オマエ戻ってろ!足遅ぇ!」

『ひっ、ひどっ、』





ふとした時酷いなアイツ。私は最後の力を振り絞って大声を出す。大丈夫、ちゃんと病院の外だから。






『恵ー!無理と無茶はしないでねー!』

「わかった!」

「さっきからひとりで何大声出してんの?」






恵の背中を見送って、男の子の言葉を聞いて私はフッと笑った。私を置いて行こうとするからだ。変な人認定されちゃえ。






『……無茶だけは、しないでね、』





それだけ小さく呟いて私の意識は慣れた暗闇に落ちていった。戻る瞬間少しだけ思ってしまった。



ーー私にも、なにか力があれば、



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