やさしいひとの横にいるやさしいひと




『しっ、新幹線のグリーン席…!』

「さっさと行くぞ」





驚いている私を他所に恵はスタスタと新幹線に乗り込んだ。後を追って乗り込むと窓際に押し込まれた。




『え!』

「今日はガラガラだから1席くらい取っても問題無い」





恵の言葉に周りを見渡すと確かに人は疎らだった。新幹線ってこんなに空くことあるんだなぁ、なんて思いながら内心ルンルンで窓際の席に座る。シートがもう違う。いや、普通のシートも知らないんだけど。





『見て!恵!めっちゃ空晴れてる!』

「おー」

『あれ富士山!?』

「だから方向違ぇって」

『昨日てるてる坊主作っておいて良かった!』

「部屋の窓がほとんどてるてる坊主で埋め尽くされてたからな」





恵はその写真を撮ったのか私に見せてきた。スマホを抜き取ってそれをロック画面にして返すと意外にも恵はそのまま電源を落とした。





『ロック画面見た?』

「見てない」

『てるてる坊主だよ』

「へー」

『ま、ご利益ありそうだからいっか』

「うん」




呪霊が作った時点でご利益も何も無いかもしれないけど。





「百葉箱!?そんな所に特級呪物保管するとか馬鹿過ぎるでしょ」

「アハハ でもおかげで回収も楽でしょ」

『恵ー、百葉箱の中身空っぽー』

「は?」




新幹線が終わった頃にはもう辺りは真っ暗になっていて、正直新幹線長かった。駅弁とか食べれたら楽しかったんだろうけど、生憎私は食べれないし、恵のことを考えて大きな声で会話は出来ないしで大変だった。




「……ないですよ」

「え?」

「百葉箱空っぽです」

「マジで?ウケるね」

「ぶん殴りますよ」

「それ回収するまで帰ってきちゃ駄目だから」




恵は電話を切るとしゃがみこんで草取りをしている私に声をかけた。なんか機嫌悪そう。




「名前」

『なにー?』

「飯行くぞ」

『…え?』

「牛タン個室ありの高級店」

『えぇ!?』

「五条先生の名前で」

『何それ最ッ高!』






勢いよく立ち上がって恵の後をついて行くと本当に高級に着いた。本格的に恵がイライラしてる。五条さん南無阿弥陀仏。





「予約してた五条です」

「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」

『うわー!凄い!高そう!』






中はシャンデリアが凄くて首を反って見上げる。すると恵が私の手を引いてくれた。





『牛タン…!』





個室についてメニューを開くと値段が書いてなかった。これは庶民が調子乗って来たら地獄を見るお店だ。恵は淡々と注文するとメニューを閉じた。私はまだ見てたのに。流石に私が1人でメニューを見てたらお店の人は驚いてしまう。だってメニューが浮いて見えるんだよ?ほん怖に投稿されてしまう。メニューが閉じられてしまったから恵の正面に移動する。




『牛タンどんなかな〜!』

「食ってみるか?」

『食ってみるかって恵頼んでたじゃん』

「俺じゃなくて名前」

『……私?』




人差し指で自分を指さして首を傾げると恵はコクリと頷いた。でもお腹減ってないし…。




『私お腹減ってないよ』

「減ってなくても食えないわけじゃないだろ」

『…………確かに』





今までお腹が減ってないから食べなかったけど、私には嗅覚があるしもしかしたら味覚もあるのかもしれない。




『……食べる!』

「よし」





それから少しして運ばれてきた牛タンを恵が焼くと私の前に置かれる。ちょっとドキドキしてきた。もし味しなかったらどうしよう。この1枚いくらするかも分からない牛タンが無駄になってしまう。そう考えたら食べなくていい気がしてきた。私より恵が食べた方が余っ程いい。





『……私やっぱり、』

「五条先生の金だ。気にすんな」

『そっかー!』




一気にどうでも良くなって牛タンを口に運ぶと私は目を見開いた。





『美味しいんですけど…!?』

「いつの時代のギャルだよ」

『やばい!やばいよ!なんていうか、やばい!』

「語彙力どこ行った」





こんな牛タン初めて食べた。食レポでとろけるとか言ってる人が居ても絶対嘘とか言ってごめんなさい。本当だった。そなたの言葉は本当でござった。





『恵これ!美味しすぎる!』

「…………」

『恵?食べないの?』



お箸を動かさない恵に首を傾げていると、一度だけ安心したように頬を緩ませてからお箸を持って手を合わせるとお肉を口に運んだ。首を傾げていると恵も少しだけ目を見開いた。



「うまっ」

『でしょ!?高級店やばい!』





帰りはきっちり呪術高専東京校 五条悟で領収書を切っておいた。金額を見た私と恵はそっと視線を逸らして明後日の方向を見て悟りを開いていた。

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