人には聞こえない話をしよう2




人には聞こえない話をしようにあった海の話



「それで?なんで恵が買い物について来てんだよ」

「私が聞きたいですよ」

『ご、ごめんなさい…。待っててって言ったんですけど…』

「ちょうど任務も無かったんで」




真希さんと野薔薇と海に行くことになり水着を買いに行こうってなって、原宿に来たんだけど…。隠れて来ようと思ったけど謎のセンサーなのか嗅覚を持った恵くんに見つかってついて来てしまった。…申し訳ないです。




「まぁいいや。とりあえず適当に見て回るか」

「賛成ー!」

『原宿久しぶりだなぁ』

「名前、迷子になるから手繋いどけ」

『恵くん…私、小学生じゃないよ…』





真顔で言うから本気なのか冗談なのか分からないよ…。手を引かれ少し移動して訪れたのは109。コスパも良くて可愛いのも多い。





「あ!これ可愛い!真希さん似合いそう!」

『可愛い!真希さんスタイル良すぎるから!ズルい!』

「ズルいの意味が分かんねぇよ…。でも動きずらそうだから却下」

『水着に動きやすさを求めてる…?』




首を傾げていると野薔薇が淡い赤色の水着を持って楽しそうに笑みを浮かべた。可愛いなぁ。





「どう!?」

『可愛い!野薔薇って感じ!美しい薔薇って感じ!』

「本気で褒めてるのは分かるけど意味が分からないから却下!」

『私の語彙力のせいで…!』





せっかく可愛かったのに野薔薇は水着を戻してしまった。まぁ、野薔薇可愛いからなんでも似合う。





「さっきから私らのばっかり見てるけど名前は決まったのかよ?」

「確かにそうね。私達のは大体決まったしアンタの水着選ぶわよ」

『おっ、お願いしゃっす!』





恵くんと手を繋いでいない方の手で敬礼をすると真希さんは水着を持つと私に渡した。それを受け取る為に恵くんと手を離すと少し不満そうな顔をされてしまった。仕方ないよ、私の腕2本しかないから。




『ど、どうでしょう!ふたりの引き立て役に相応しいでしょうか!?』

「それどんな役だよ」

「時々変よね。名前って」

「恵は?どう思う?」

「似合ってる」

『あっ、ありがとう!』





恵くんは小さく頷いてそう言ってくれた。すると野薔薇が私に水着を渡した。






「でもこっちもいいんじゃない?」

「確かに。こっちも捨て難いな」

「似合ってる」

「名前!次はこっち合わせてみて!」

「似合ってる」





野薔薇に渡されて持ってみると恵くんはまた頷いてそう言った。そしたら真希さんが眉を寄せて恵くんの頭を軽く叩いた。




「オマエ買い物面倒ならついて来んなよ。同じことしか言ってねぇじゃねぇか」

「違いますよ真希さん。伏黒は本気で言ってるんですよ。そこがまたキモイですけどね」

「名前ならなんでも似合う」

『………最近、恵くんの目には私が橋本環奈に見えてるんじゃないかって不安になるんです』

「…はしもとかんな?」

「おいコイツ橋本環奈知らねぇぞ」

「大丈夫よ。伏黒は名前にしか見えてないから」

『それは…大丈夫なのかな?』





苦笑を浮かべると野薔薇は首を傾げて恵くんを見た。そして楽しそうにニヤニヤと笑みを浮かべた。





「伏黒は名前にどんなの着てほしいわけ?」

「おっ、それ面白ぇな」

「着てほしい…?」





確かに恵くんの好みは気になる。黒かな、白かな。もしかしてもっと明るい色だったりするのかな。それともワンピースタイプ?それともビキニ?
少しワクワクしながら恵くんを見上げると、彼は迷わず一点を指さしていて3人で視線を向ける。




「……おい恵」

「アンタそれって…」

「あれがいい」

『………………ウェットスーツ、だね』





恵くんが指さしたのはサーフィンなどでよく目にするウェットスーツだった。…まぁ確かに水着だけど。完全に遊びで着るものじゃないよね。






「あれなら露出ねぇし、動きやすいだろ」

「アンタ本当は海行くの反対なんでしょ?」

「ここまでくるといっそ清々しいしいな」

『ウェットスーツは流石にちょっと…、』




苦笑を浮かべて見上げると恵くんは小さく舌打ちをしていた。なんでウェットスーツを買うと思ったの?買わないよ。高いし。





「なら露出が少ないやつ」

「ワンピースってことか?」

「パレオとか?」

『私の水着は恵くんが主導で決められるんだね…』





小さく呟いた声は3人には届かずに、何故か私の水着を私以外の3人で楽しそうに決めていた。……うん、もうそれでいいです。3人ともセンスの塊だから。




∴∴∴






「いやっほー!海だぁー!俺泳いでいい!?」

「なんで虎杖まで居んのよ!」

「高菜」

「棘とパンダまで居るぞ」

「だって俺らだけ除け者なんて寂しいだろ?」

「しゃけしゃけ」

『結局ほぼ全員でしたね』





恵くんが俺も行く、と意思を曲げることはなくて、それを虎杖くんが聞いて俺も行きたい!ってなり、そこから噂が広まり狗巻先輩とパンダ先輩も参加となった。海にパンダがいて大丈夫かな?




「パーカーは?」

『え?持って来てないけど…』

「はぁ?なんでだよ」

『だって泳ぐ気満々だったし…。パーカー着てたら溺れちゃうよ』

「泳ぐ時に脱げばいいだろ。これ着とけ」

『でもこれ恵くんの…』

「着てろ」

『…ハイ』





恵くんの圧に負けてパーカーを拝借して着ると何故か満足気だった。まぁ、楽しそうならいいけど。





「ツナツナ」

『あっ、狗巻先輩!マスク暑くないですか?』

「しゃけ、いくら」

『マスクの所だけ焼けちゃいそうですね』

「…………すじこ」






狗巻先輩は嫌そうに顔を歪めた。マスクの形で焼けるのは誰だって嫌だ。すると狗巻先輩は私を見て顔を緩めて言った。





「ツナマヨ」

『えっ…、嬉しいです』

「名前の事口説くのやめてもらっていいですか」

「いくら、ツナ」

『かっ、可愛いなんて…!おっ、お上手ですね!』

「おい。俺の話聞いてます?」





狗巻先輩は似合ってる、可愛いと褒めてくれた。素直に嬉しくて両手で頬を抑えると恵くんに首元を噛まれた。リアル玉犬だ。





『いたっ!』

「おかか」

「俺のなんで。それに俺の方が先に褒めてます」

『……なんで火花散らしてるの?』




ふたりを交互に見て首を傾げると野薔薇に名前を呼ばれて駆け寄る。やっぱり野薔薇は可愛い。





「名前!泳ぐわよ!それからナンパされるわよ!」

『ナ、ナンパ…?』

「真希さんはパンダ先輩とガチ泳ぎしに行っちゃったし!私は都会のいい男を見つけて玉の輿!」

『………欲望が溢れ出てるね』





野薔薇に腕を引かれて浜辺を歩きながら話していると前から男の人2人が私達の前に来て声をかけた。





「お姉さんたちひま?」

「俺たちと遊ばない?タピオカ奢るし」

「タピオカァ?」

『確か海の家で売ってたよね』




野薔薇は眉を寄せて考え込んでいるようだった。私はどうするのかな〜なんて思いながら野薔薇を見ていると彼女に腕を引かれて耳元で内緒話をされた。





「タピオカ?安すぎない?ケチすぎ」

『そ、そう?タピオカ美味しいけど…』

「問題は値段よ!私達をタピオカ如きで釣ろうなんて!最低でも銀座のシースー!」

『そこまでいくとナンパじゃないよね…』






苦笑を浮かべて野薔薇を見ると、彼女は本気なのか声をかけてきたふたりに向かって口を開いた。




「タピオカじゃ無理ね」

「え〜?じゃあ何がいい?」

「そっちの君は?」

『え?私ですか?』

「そうそう」





野薔薇と話している人とは違うもう1人の男の人に話しかけられて首を傾げる。私もそんなにタピオカ好きなわけじゃないんだけど…。





「俺らと遊ばない?別に変なことしないしさ」

『えっと…、私は…』

「あ!そうだ!海の家でご飯ご馳走するよ!」

『ご飯ですか…』



ご飯は自分で買えるし、正直お金が湧き出る程はないけど、困ってもいない。それに私は野薔薇の付き添いで来ただけだし…。そう思いながら苦笑を浮かべていると野薔薇が私の腕を取った。




「戻るわよ」

『え?もういいの?』

「無駄なことが分かったから」

『そ、そっか…』




男の人たちは押しは強くないのか引き下がったようだった。私も野薔薇について行こうと思って背を向けるとパーカー越しに肩を掴まれる。




「気が向いたら声掛けてね」

『あ、…はい、分かりました』



そう言って頷くと野薔薇が私の肩に置かれた手を退けてくれた。




「私が連れて来ておいて言うのもなんだけどこの子には手出さない方がいいわよ」

「え?」

「面倒臭くて重たすぎる番犬がいるから」




野薔薇がそう言った瞬間、背後に視線を感じてバッと振り返ると少し遠くで恵くんがこちらを鬼の形相で睨んでいた。



「ヒィッ!?」

「や、やべぇって!」

『め、恵くん…』





ポツリと名前を呼ぶと恵くんは砂浜じゃなかったら多分ドスドスと音が立ちそうな程、強い足取りで近づくと私を睨むように見下ろした。





「なにやってんだよ」

『えっと…、』

「ナンパされてんじゃねぇか」

『でもそんなに悪い人じゃなかったよ…?押しも別に強くなかったし…』

「関係ねぇ。どう見ても男物のパーカー着てる女をナンパしてる時点でクソ野郎だ」

『……そんなに見てなかっただけじゃないかな?』

「次ナンパされたら二度と海来ねぇからな」

『されないよ。私可愛くないし。さっきのだって野薔薇がいたからだよ』




笑ってそう言うと恵くんは眉を寄せて私の頬を両手で持ち上げた。




『恵くん…?』

「名前は可愛いだろ」

『……へ?』

「名前は可愛い」

『め、恵くん、』





真剣な表情でそう言う恵くんに顔がどんどん熱くなる。顔を背けたくて支えられてる手を外す為に手を重ねるけど恵くんは額を合わせる。近くて視線すら逸らせなくなってしまった。




「名前は可愛い」

『…わっ、分かった…分かったからっ、』





ようやく手が離されて熱を冷ますために手で顔を仰ぐ。絶対私の顔は可愛くないし普通だよ…。






「ほらバカップル、イチャイチャしてないでさっさと戻るわよ」

『しっ、してないよっ!』

「オマエ名前のこと勝手に連れ回すな」

「ちょっとくらいいいでしょ」

「許可取れ。俺に」

「なんでだよ」

「つーか釘崎も水着だったんだな」

「名前しか視界に映らない病気なの?アンタ」

「そんな病気ねぇよ」

「知ってるわよ!」





野薔薇が恵くんを睨んでも彼は全然気にした様子はなかった。もう少し周りを見て欲しいな…。





『…あ、かき氷』

「食いたいのか?」

『かき氷ってこういう場所でしか食べないから買っちゃおうかな』

「なら私は先に戻ってるから」

『野薔薇はかき氷要らない?』

「後ででいいわ」





野薔薇はそう言って右手を振りながらみんなの元に戻って行った。私は恵くんに腰を抱かれて一緒にかき氷の列に並ぶ。






『恵くんは何味にする?』

「俺はいい」

『食べないの?』

「氷だしな」

『元も子もない…』




メニューを見るためにお店に目を向けると私達の前に並んでいたのもカップルで何となく眺めていると違和感があった。




『……ん?』

「どうかしたか?」

『ん〜…?』




前のカップルは手を繋いで楽しそうに笑っていた。でも何だろう。この違和感…。唸りながら必死に頭回転させて恵くんを見上げる。




『……………分かった』

「なにが」

『私達って距離近くない?』




辺り見回しても手を繋いでいるカップルは沢山いるけど腰を抱いてあるカップルは見たところいない。肩はぶつかってるし顔だって近い。……考えてみれば野薔薇の言う通りバカップルだ。





『もう少し離れない?』

「嫌だ」

『手繋ぐのは?』

「それはかき氷買ってから」

『……私達近すぎないかな?』

「………名前」





恵くんはキリッとした顔で私を見下ろした。真面目な雰囲気に肩に力が入る。そのまま恵くんの言葉を待つ。




「……よそはよそうちはうちだ」

『………………』




考えることを放棄した。多分あの感じだと恵くんは考えを変えてくれないだろうし。私自身も恵くんとくっつくのは好きだから。




『夏祭りとかも行きたいね。恵くん浴衣似合いそう』

「浴衣持ってねぇな」

『なら今度買いに行く?』

「買いに行くか」



そんな話をしながらかき氷を受け取ると流れるように恵くんがお金を払ってしまう。慌ててお金を払おうと思ったけどお財布を持ってないことを思い出して顔を青くする。




『ごっ、ごめんっ、私お金っ』

「これくらい別にいい。元々払うつもりだったし」

『かき氷は恵くんが食べて!私お財布取ってくる!』




駆け出そうとした瞬間、手首が掴まれてかき氷を握らされる。顔を上げると恵くんが小さく溜息を吐いていた。




「今度なんか買ってくれ」

『分かった!』





恵くんは頷いて歩き出したから並んでかき氷を食べながら足を動かす。




『夏祭り楽しみだなぁ』

「気が早くねぇか」

『恵くんの浴衣姿が楽しみ』

「祭りじゃねぇのかよ」

『絶対似合うよ。私が保証する』

「そりゃどーも」

『そしたら写真撮っていい?』

「………」




恵くんは少し嫌そうに眉を寄せていた。駄目かぁ、なんて思いながらかき氷を口に含むと氷が溶けて口に広がった。




「名前も撮らせてくれんだったら撮ってもいいけど」

『私の?なんで?』

「なんでって…。そんなこと言ったらオマエだってなんで俺の写真欲しいんだよ」

『え?かっこいいから』

「俺も同じ」

『え!?私かっこいい!?真希さんみたい!?』

「なんでそうなるんだよ…」




嬉しさを隠さず恵くんを見上げると優しく髪を撫でられた。その手が気持ちよくて目を細めると恵くんが私に顔を寄せるから慌てて顔の前にかき氷を移動させる。




「……邪魔」

『ひっ、人が居るから駄目だよ!』

「…………」





恵くんは眉を寄せて私を恨めしそうに睨むから、彼の耳元に顔を寄せると首を傾けてくれた。





『……帰ったらね』

「……………今すぐ帰るか」

『まだ来てから1時間くらいだよ…』




苦笑を浮かべると前から虎杖くんに名前を呼ばれてふたりで視線を向ける。






「おーい!伏黒ォ!苗字ー!今からスイカ割りするってさー!」

『スイカ割り!』





思ってなかったイベントに心が踊る。かき氷を持っていない手で恵くんの手を引く。





『スイカ割りだって!』

「誰が持って来てんだよ…」




グイグイ引っ張ると恵くんは呆れたような顔をしながらも少し楽しそうに顔を緩めていた。それにつられて笑うと恵くんは歩みを早めてくれた。





「そういえば虎杖も来てたんだな」

『………』





恵くんはもう少し、周りに目を向けられるように、なって欲しいなぁ…。


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