夜道は出歩いてはいけない




キモモブおじさんがいます。軽い暴力表現があります。なんでも許せる人のみ閲覧をお願いします。シリアスではないです。そして話が短いです。







『……………』





参ったなぁ。やっぱりコンビニ行くのに恵くんに付いて来てもらえば良かった。1人で出歩くの恵くんいい顔しないからなぁ、特に夜は。でも夜の夏のアイスは我慢できないしなぁ。
それに私ももう高専3年目なわけだし…。そこら辺の空手家とかボクサーよりは強いはずなんだけど…。






「……………」

『……………』




コンビニを出た辺りから知らない人に後をつけられている。戦えば私の方が強いけど、生憎私は足が遅い。逃げるのは無理そうだなぁ。恵くんに連絡したいけど、夜に1人でコンビニに向かったなんて言ったら絶対怒られるもんなぁ…。
とりあえず、高専に着いてしまえば私の勝ちだ。高専内は関係者しか入れないし、警備員さんもいる。よし。そこまでこの距離を保って帰ろう。





「………」





でもあの人、大丈夫かな?夜とはいえ真夏なのにコートなんか着てる。寒がりにしても限度があると思うんだけど…。高専に行かずに病院に向かった方がいいのかな。もしかしたら病院の場所が分からなくて私の後をついてきているだけかもしれない。
そうだきっとそうだ。なら早く連れて行ってあげないと!そう思って振り返ると、私は驚きのあまり目を見開いてしまった。






『あのっ、…………………………ん?』

「っ、ハァッ…ハァッ…」







男の人のコートの中身は何も身につけていなくて私はピシリと固まってしまった。まるで私に見てくれといわんばかりにコートの前を広げている男の人は興奮しているのか息が上がっていた。私はどうにか下を見ないように意識を上に向ける。





「…ハァッ……ハァッ…ハッ…」

『…………………………暑くても、下は着た方がいいと思いますよ?』







私は震える声でそう言うと男の人はジリジリと私に近づいた。その分私が後ろに足を引いて下がるとその分更に男は近づいた。多分、視線を逸らしたらやばいやつ。





「…ハァッ…、」

『……………っ!』







走り出した男の人に私は慌てて体の向きを変えて前に走り出すと後ろからも足音がする。やばいやばいやばい。大丈夫?これ高専まで行ける?追いつかれない?




『ヒィーーーッ!』

「フンッ…、ハァッ…フッ…、」






段々と男の人の息遣いが近くになる。いや、戦えば勝てる。勝てるんだけど、アレは触っちゃいけない気がする!っていうか私が触りたくない!






『いやぁあぁ!』







奇声を発して走っても高専に向かう道には何も無い。本当にまずい。このままだと追いつかれる。でも触りたくないし、あの人にさとるくんは見えないし、頭は真っ白だし、どうしよう。





『うぅ〜!恵くーん!』






私がそう言ってみっともなく涙を流していると私の隣を黒い何かが有り得ない速さで通り過ぎた。その直後に男の人の苦しそうな声と何かが倒れる音がして慌てて立ち止まって振り返ると、恵くんが地面にしゃがみ込んでいて、男の人は仰向けに倒れていた。……え、飛び蹴りした?






「……おい、テメェ」

「ヒィッ!」

「なに汚ぇモン見せてんだ」

『め、恵くん…?』







恵くんは私が呼んでも見向きもせずに立ち上がると男の人に馬乗りになって顔を殴る。流石に手加減してるだろうけど、さっきとは別のまずいことになった。





「一般人で良かったな。オマエが呪詛師なら殺してる」

「ウグッ…、バガァッ…、」

「言うことがっ、あんだろっ、」

「すっ、すみまっ、」

「あ?聞こえねぇよ」







未だに殴り続ける恵くんに私は焦って名前を呼ぶけど、彼は本気でキレてるのか周りが見えて無くて声も多分聞こえてない。






『恵くん…!』

「オマエもっ、運が悪かったなっ、狙ったのがコイツじゃなければっ、捕まるだけでっ、すんだのになっ、」

「ガッ…、グブッ…、ご、ごめんなっ、」

「まぁ、オマエみたいなクソ野郎がっ、1人減ったところでっ、何も変わんねぇよっ」







流石にそろそろまずいと思って喉が潰れても構わないと覚悟を決めて深く息を吸い込む。





『……恵くんっ!!!』







すると恵くんはゆっくりと顔を上げて、光の無い瞳で私の方へと振り返った。これが最後のチャンスかもしれないと恥を捨てて両手を広げる。






『こっ、怖かったから、だ、抱きしめて…、』

「………」






恵くんは掴んでいた男の人の胸倉をパッと離すと私の元へと近づいて両手を洋服で拭いてから私を抱きしめてくれた。………ちょっと血の匂いする。





「……だからひとりで出歩くなって言っただろ」

『…ごめんなさい。反省します。助けてくれてありがとう』

「ん、…大丈夫か?」





恵くんは私の髪を撫でると体を少し離して、私の髪を耳にかけた。私が小さく頷くのを確認して唇を重ねた。





『……ごめんね、』

「反省したならもういい。名前が一番辛いだろ」

『…ありがとう』

「うん」





私が彼の胸元に額を擦ると、恵くんは私の背中をポンポンと優しく叩いた。そして心拍数が落ち着いた頃、顔をあげる。





『そうだ。警察に連絡しないと』

「…………山奥に捨てちゃ駄目なのか」

『それは…、命が危ないから駄目かな…』






恵くんは舌打ちをするとスマホを取り出して連絡してくれたみたい。そして数分待っていると何故か虎杖くんが現れた。なんで?





「虎杖、あとは頼んだぞ」

「……え?俺何も聞かされてないんだけど?」

「ソイツ変質者だから警察呼んで対応しておいてくれ」

「なんで俺!?」





恵くんはそう言って倒れている男の人をゲシゲシと蹴ると満足したのか私の手を取って歩き出した。私は振り返って虎杖くんに頭を下げて謝ると、彼は苦笑を浮かべながらもヒラヒラと右手を振ってくれた。本当にいい子だなぁ。






「アイス買いに行ってたのか」

『うん。食べたくなっちゃって』

「次からは俺も行くから」

『……ごめんね』

「もういい。無事だしな」






高専に着いて、そのまま恵くんは私の手を引いて自分の部屋に着くと、私の持っていたアイスが入ったビニール袋を抜き取り、冷凍庫に仕舞うと私と一緒にベットに倒れ込んだ。






「もう寝ろ」

『………』

「いくら呪術師でも怖いもんは怖いだろ」

『………うん、』





私を抱きしめて瞳を閉じる恵くんに合わせて瞼を閉じると彼のおかげかさっきの光景は出てこなかった。
ギュッと彼の服を掴むと答えるように背中に回された腕に力が込められて安心する。
真夏だから正直暑いけど、冷えきった私の体にはちょうど良かった。





『…恵くん、』

「ん?」

『…大好き、』







恵くんは私の額に唇を落とすと子供をあやす様に私の背中を優しく叩いた。そのおかげで少しずつ眠気に襲われて意識を手放した。








「どこ行くんだよ」

『え?野薔薇とコンビニ…』

「俺も行く」

『で、でも、お昼だし…、野薔薇も居るし…』

「俺も行く」

『う、うん…』

「なんか伏黒の過保護増してない?」





次の日からいつでも私がどこかに行こうとすると恵くんはついてくるようになってしまった…。






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