人には聞こえない話をしよう




モブ男が出てきます。モブ視点ありです。





『ちょ、ちょっと待って、恵くん』

「ん?」

『ん?…じゃなくて…、』




キョトンと首を傾げる姿は凄く可愛いけど心を鬼にして恵くんの頬を両手で包んで距離を取る。すると恵くんは眉を寄せてしまった。でも許して欲しい。



「なんで止めんだよ」

「止めるに決まってんだろ!ここ教室!」

『野薔薇の言う通りだよ…』

「それが関係あんのか?」

「……最近アンタの異常さが増してる気がするんだけど」

「俺はもう慣れたよ。伏黒の部屋行くと大体苗字も居て終始こんな感じだし」

「はァ!?バカップル通り越してカバップルでしょ!」

『カ、カバ…!?』




ショックを受けると恵くんが私の頭を撫でてくれた。嬉しいけど半分は恵くんのせいだよ…。もう半分は私だけど…。




「にしても最近のベタつきは異常よ。夏だっていうのにこうベタベタされたらこっちまで熱くなる!」

「慣れろ」

「慣れろ!?なんで私がオマエの為に慣れないといけないのよ!」

「でも確かに最近伏黒ずっと苗字と居るよなぁ…」

『言われてみれば…』




虎杖くんの言う通り、最近の恵くんは任務とトイレとお風呂以外ずっと一緒なのでは?と思うほど一緒にいる気がする。嬉しいけど。




『なにか理由があるの?』

「なにが」

『ずっと一緒に居るの』

「…別に一緒に居るのに理由は要らないだろ」




確かに恋人だから理由は要らないだろうけど、恵くんが答える前に一瞬、間があったからなにかあるんだろうなぁ。




『一瞬の間はなに?』

「間なんか無かった」

『あった』

「なかった」

『あった』

「なかった」




恵くんが譲らないから仕方なく私が折れると何故かフンッと鼻を鳴らして満足気だった。



『あっ、私呼ばれてたんだった!五条先生のところ行ってくるね!』

「俺も行く」

「アンタは呼ばれてないでしょ」

「名前が行くなら行く」

「でも苗字は任務か何かで呼ばれたんだろ?なら伏黒がついて行っても仕方なくね?」

「俺も職員室に用事がある気がする」

「気がするってなによ!」

『とっ、とりあえず行かないといけないから…』

「だからアンタは行かなくていいの!これから授業だっつの!抑えろ虎杖!」

「ごめんな伏黒。サボると連帯責任なんだってさ」

「っ、おい!離せ虎杖っ!」




虎杖くんに首根っこを掴まれてる恵くんに苦笑を浮かべながら教室を出て職員室に向かった。すると五条先生は椅子に腰を下ろしていた。




『五条先生』

「おっ、やっと来たね」

『お待たせしました』

「次の任務についてなんだけど、1年についてってくれる?まだ三級だからちょっと心もとなくてさ、先輩としてついて行ってあげてよ」

『分かりました。いつですか?』

「明日の任務」

『明日…、はい。明日は任務入ってないので大丈夫です』

「じゃあよろしく〜」




ヒラヒラと手を振る五条先生に軽く会釈して職員室を出て教室に戻る道中に後ろから声をかけられた。うん、やっぱり呪術師は後ろから声をかける決まりがあるんだ。





「苗字先輩」

『…あ、土井くん』

「ちわっす!」

『こんにちは』





ペコリと頭を下げられたから私も頭を下げると私達の2つ下の1年生である土井くんがいた。彼とは数日前に任務で一緒になってそれ以降、こうして話しかけてくれるようになった。





「明日の任務お願いします!」

『明日の任務で一緒なの土井くんなんだ!よろしくね』

「足を引っ張らないように頑張ります!」

『そんなに力まないで死なないように頑張ろう!』





握りこぶしを作って見せると土井くんは表情を緩ませていた。恵くんとは真逆で人懐っこい笑顔にこっちまで嬉しくなってしまう。




「苗字先輩ってなんで呪術師になったんですか?」

『なったっていうか…、ならざるを得なかったっていうか…、』

「でも卒業しても呪術師続けるんですよね?」

『んー…、まだ決まってないかなぁ』





土井くんと話をしながら廊下を歩いていると前からダダダッと慌ただしい足音がしてふたりして足を止める。そして廊下を眺めていると足音は段々と近づいて曲がり角から見慣れた姿が現れた。




『……恵くん?』

「恵くん…?」





私の言葉に土井くんが繰り返して、パチパチと瞬きをすると恵くん鬼の形相でこっちに向かってダッシュして来るから思わず身構えると腕を引かれて背中に隠される。この感じ見た事ある。進撃の巨人だ。




『め、恵くん…?』

「……………」

『おーい…、恵くーん…。……そういえば虎杖くんは?』

「落としてきた」

『え…、どこに?…………もしかして意識を!?嘘でしょ!?』




虎杖くん…、どうか無事でいてくれ…。恵くんも同期の意識落とすのはやめてあげようよ。虎杖くんが不憫過ぎる。そういえば野薔薇が恵くんの事をバーサーカーって呼んでた。バーサーカーってなんだろう。




『恵くん!虎杖くんを家入さんの所に運んであげないとだよ!』

「え。なんで」

『なんで!?』




恵くんの返しに驚きながらも虎杖くんが心配で急いで教室に戻る為に土井くんに声をかける。




『ごめんね土井くん!また明日ね!』

「はいっ!また明日!」




何故か後ろを見ている恵くんの腕を引いて教室に向かった。




∴∴





「今日はありがとうございました!」

『いえいえ。土井くん凄く優秀だから私何もすること無かったよ〜』





苗字先輩の前でカッコつけたくて死ぬ気で祓った。必死なのを隠せてるみたいで安心だ。





「報告書は俺が出しておきます!」

『え?いいの?』

「はい!元々は俺の任務だったので!」

『ごめんね。ありがとう』





先輩の笑顔が見れるだけで十分です。でもそんなことは言えないから何度も頷く。正直まだ先輩と一緒に居たいけど、報告書はひとりで十分だからなぁ。





「……よし、後は印刷して…、……ん?」





印刷を押しても出て来ないことを不思議に思ってコピー機を見ると印刷用紙が1枚も入っていなかった。無くなったら入れといてくれよ…。




「確か印刷用紙は……、」






備品庫だったはずだ、と思って廊下に出て備品庫を目指す。面倒だからいくつか束ごと持って来ようかな。





「失礼しまーす…」




備品庫はあまり人の出入りが無くてホコリが多かった。早く取ってさっさと報告書書いて寮に戻ろう。




「……?」





話し声と足音が備品庫に近づいて来て慌ててロッカーに隠れてしまった。なんで隠れたんだろう…何も悪いことしてないのに。




『まっ、待って恵くん…、』






中に入ってきたのは伏黒先輩に手を引かれた苗字先輩だった。そのままふたりは外からは見えない様にする為なのか少し奥に移動した。外から見えなくてもロッカーに入ってるんですけど…。





『恵くん私任務終わりで…、』

「最後までしねぇよ」

『それは当たり前でしょ…!』






先輩は顔を赤くして伏黒先輩の腕を叩いていた。怒り方も可愛いなぁ…。





「期待してたのか?最後までするの」

『してないです…!』

「俺は全然してもいいんだけど」

『良くないよ!』





伏黒先輩は苗字先輩の髪を耳にかけると唇を重ねた。……え。ふたりってそうなの…?……え?




『…め、ぐみくん、』





唇を離すと伏黒先輩は苗字先輩を軽く持ち上げて備品庫の低めの机の上に座らせると下から掬い上げるように唇を重ねた。




『ま、まっ、て、恵く、』

「…ん、」





段々と深いキスに変わって備品庫には水音が響き始めた。俺の心が折れそう。好きな人が他の男とキスしてるところ見るの辛すぎるんだけど…。





「舌出せるか」

『……ん、』





苗字先輩は少し恥ずかしそうに口を開き控えめに舌を出していて、その、……エロかった。




『…んっ、』





先輩の鼻にかかった声に頭が真っ白になった。そんな俺が居ることを知らない伏黒先輩は舌を絡めながら苗字の顎下をスリスリと人差し指で撫でると、苗字先輩が伏黒先輩の首裏に腕を回して舌を差し出していた。……え、なにそれ。仕込んだの?調教済みってこと…?……え、そんなに濃い関係なの…?






『め、恵くん…、』





唇を離すと先輩の息は上がっていて瞳はトロンと気持ちよさそうに下がっていた。すると伏黒先輩は苗字先輩の学ランのボタンを外して、ワイシャツのボタンを2つ外すと鎖骨辺りに唇を寄せた。





『待って恵くんっ、』

「なんだよ」

『痕付けないでっ、』

「なんでだよ」

『今度野薔薇と、海行くからっ、』

「…は?聞いてねぇ」

『……あ、野薔薇に言うなって言われてた…』

「…………」

『痛い痛い!吸いすぎっ!』




静かだからだろうけど吸う音が俺にも聞こえるくらい強く吸っていて苗字先輩は痛がり伏黒先輩の頭をバシバシと叩いていた。





『あー!付けすぎ!』

「俺も海行く」

『行くの私と野薔薇と真希さんだよ?』

「なら尚更だろ。女だけで海なんてナンパされに行くようなもんだろ」

『……野薔薇と真希さんならナンパされても返り討ちにしそうだけど…』

「名前はどうせヘラヘラしてハッキリ断れねぇだろ」

『そっ、そんなこと…、』

「ないって言いきれんのか?」

『ちゃんと断るよ…』

「ナンパするような奴はハッキリ言わねぇと引き下がらねぇぞ」

『でも呪術師なんだよ?体術で負ける気がしないんだけど…』

「体術で俺から1本取れるようになったら女だけで海行ってもいいぞ」

『……一生無理な気しかしないよ?』

「一生無理だな」




伏黒先輩は苗字先輩のワイシャツのボタンを留めると学ランの気崩しも直して、髪を耳にかけるとそのまま親指と人差し指で先輩の耳をいじり始めた。





『め、恵くん、それやめて…、』

「別に触ってるだけだろ」

『恵くんがっ、そうやって触るからっ、』

「ん?」

『最近触られるとっ、変な感じするっ、』

「……」




顔を赤らめる苗字先輩に伏黒先輩は口角を片方だけ上げて笑っていた。そうやって先輩を調教したのか。……俺マジで泣いていい?
俺の心中しんちゅうを知らない伏黒先輩は苗字先輩の頬にキスを落とした。すると苗字先輩は甘く目尻を下げていた。




『……恵くん、』

「はいはい。寮に帰ったらな。学校じゃ嫌なんだろ」

『………』

「俺はここでもいいけど」

『………恵くんの部屋行く、』




少し不貞腐れた様に呟く苗字先輩は控えめに伏黒先輩の制服の袖を掴んでいた。伏黒先輩は苗字先輩の頭を優しく撫でると机から下ろして手を引いて教室から出て行くようだった。




「……あ、俺忘れもん。廊下で待ってろ」

『え?忘れ物?』

「うん」





苗字先輩は首を傾げながらも廊下に出て行くと、伏黒先輩は一直線に俺の入っているロッカーに手をかけた。……え、嘘だろ。





「……………」

「………………………お、お疲れ様、です、」





伏黒先輩は無表情で俺を見下ろすと苗字先輩に出していた声の5オクターブは低いであろう声で唸る様に声を出した。





「名前で抜いたら殺すぞ」

「……………………ハイ」





完全に目がイってた。言った事守らないと多分、マジで殺される。しかも俺がちゃっかり勃ってることバレてる。






「隠れるんだったらここだと思った」

「………………へ?」

「印刷用紙なら備品庫じゃなくて職員室だ」

「……………………あざっす」







伏黒先輩はそれだけ言うと備品庫を出て行ってしまった。……というかなんで俺が隠れてる事に気づいたんだ?しかも印刷用紙を取りに来たことも気づいてたし…。…………まさか。…いやいや、そんな訳無いよな。もしそうなら印刷用紙をわざと切れさせたのは伏黒先輩ってことになる。……………全部計算ってことか?






「…………重ッ!」






伏黒先輩の愛が重すぎるだろ。自分でいうのもなんだけど苗字先輩は俺の事なんて何とも思ってない。なのにあんな牽制の仕方するか…?………苗字先輩も大変だなぁ。


back
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -