月蝕の変種






『ここのお寿司美味しそう』

「今度休みの時に行くか」

『いいね!4人で行こうか!』

「名前ー、見なさい、伏黒の顔。不満がありありと出てるわよー」




教室で私の前の席に座った伏黒くんとスマホを覗き込んで話していると隣にいた野薔薇が机に肘を付きながらそう言った。けど私は4人も好きなのだ。




「伏黒ー!お客さーん!」





ガラッと音を立てて教室に入ってきた虎杖くんに私と伏黒くん、野薔薇が顔を向けると、虎杖くんは窓の外を指さした。反射的にみんなで窓際に移動して下を見ると門のところには女の子が1人立っていた。




「なに伏黒アンタ浮気?」

『…え、』

「そんなわけないだろ。苗字も何不安そうにしてんだ」

『痛っ…!』





額を弾かれて両手で抑えると伏黒くんは私の髪を耳にかけた。そのまま私の髪の毛先をサラサラといじった。




「なにイチャイチャし始めてんのよ。アンタの客でしょ」

「いや、知らねぇ奴だし」

「え、でも伏黒が行ってあげないとあの子ずっとあのままだよ?」





虎杖くんの言葉に伏黒くんはこれでもかってくらい眉を寄せると、ハーっと大きな溜息を吐いて私の頭を撫でて教室を出て行った。私たちは校舎からその姿を眺めていると、私は目を細めた。






「もしかして名前ヤキモチ?」

「あの子、この間俺たちが任務先で助けた子なんだよ」

『……』

「伏黒が浮気なんてする訳ないし、名前以外の女を女と思ってないあの伏黒よ?心配する事ないわよ」





私が目を細めて眺めていると、伏黒くんが女の子の元へと辿り着きポケットに手を入れたまま数言、言葉を交わしているようだった。





「伏黒こっち見てない?」

「こっちって言うか名前でしょ」





伏黒くんは私たちの方を見上げるとポケットから手を出してヒラヒラと右手を上げた。虎杖くんが右手をブンブンと振り返すと伏黒くんはシッシッと手を払うようにした。野薔薇が私の手を取って無理矢理手を振ると伏黒くんはフッと顔を緩めたように見えた。





「うっわ、表情ゲロ甘」

「伏黒もあんな顔すんだなー」





視線の先の彼は話し終えたのか来た道を戻っている様だった。けど私は門に居る彼女から視線が逸らせなかった。すると彼女がゆっくりと顔を上げたせいで私と視線が交わった。





『ーっ、』






その瞬間、胸の辺りがジワジワと何かが広がるような感覚に陥った。慌てて胸の辺りを抑えると、頭の中で警報が鳴って慌てて視線を逸らす。勝手に荒くなる呼吸を必死に整える為に息を吸うと、野薔薇が私の様子に気づいたのか顔を覗き込んだ。私は慌てて笑みを浮かべる。




「 名前?どうかした?」

『ううん!なんか不整脈かも!』

「えぇ!?苗字大丈夫!?病院行く!?」

『本当にたまたまだと思うから大丈夫!ありがとう』





すると教室に伏黒くんが戻って来てその手の中には可愛らしい紙袋が握られていた。私の目尻が勝手にピクリと動く。本当に嫌になる。




「虎杖、これやる」

「え!?これ貰ったやつじゃないの!?流石に貰えない!」

「助けたお礼だからオマエだって貰う権利あるだろ」

「えぇ…!?」






助けたお礼、なんて口実だよ。あの子は伏黒くんに渡したかったんだよ。伏黒くんのことが、きっと、……気になってる、から、





『…おかえりなさい』

「ん、ただいま」





そう言って私の髪を撫でる彼に心臓が大きく脈打った。嘘がバレたみたいに、悪い事をした時みたいに。


私はどれだけ変わっても、自分のことはやっぱり好きになれない。

だって彼女の気持ちが痛いほど分かるのに、私は彼が分かっていない事に安堵してる。

こんな自分が大っ嫌いだ。



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